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夜半の階梯 ―宵のハコブネ②―  作者: 朔蔵日ねこ
行き遭い神

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行き遭い神①

 櫻子が雄然の雇った用心棒とは驚きだったが、瑞貴は逆に安心した。櫻子はどちらかというと要領が悪く、思ったことがすぐに顔に出るタイプで、はかりごとをするようには見えない。櫻子に桃泉堂を紹介したのは、なんと黒瀧稲荷社の京弥だった。京弥が行きつけのアンティークショップ――蒼によるとアリステアという名の店だった――は櫻子のアパートに近いらしく、櫻子もアリステアを時々冷やかしに行くのだそうだ。そこでたまたま客として居合わせた京弥を見かけ、狐であることに気付いた櫻子は後をつけていき、正体を暴こうとしたらしい。ところが逆に、京弥に身の上話を聞いてもらうことになり、同じく陰陽師である兄を探していることを知った京弥から、桃泉堂を紹介された。桃泉堂なら妖魔の情報が集まり、陰陽師の噂も入ってくるかもしれないと言われたのだ。もちろんアルバイトを探しに桃泉堂を訪れたわけではなかったが、櫻子が陰陽師だと知った雄然が用心棒の話を持ち掛けた。アルバイトで食いつないでいる櫻子にとっては、ほぼ店に寝泊まりするだけで賃金を得られる仕事の話は願ってもない幸運だった。

 瑞貴と櫻子が出逢った時の話を聞いて、雄然は喜んだ。橋姫の結界を破って異層に突入したこと自体が、櫻子の陰陽師としての能力を証明しているからだ。久々に再開した瑞貴と櫻子だったが、櫻子の兄の消息は依然として不明だった。櫻子が東京に来て半年ほど経つ今も、まだ何の手掛かりも得られていない。まず本当に東京にいるかどうかも分からないが、滝夜叉姫の蟇蛙がまがえるが予言したように桃泉堂にある髑髏を狙っているのが陰陽師なのだとしたら、櫻子の兄が彼女の敵にはならないことを祈るばかりだ。 

 年明けすぐに桃泉堂で集まって以降、瑞貴は平穏な三学期を過ごしていた。志布井社長の別邸の現地調査は警察の捜査が一通り終わり次第ということになっているし、ぬらりひょんからの手紙の続報もまだ届いていない。一月の終わりには、海斗や他の陸上部メンバーとエントリーしていた区民マラソンに参加した。小夜がどうしても応援に行きたいと言ったので、彼女ができたことがとうとう海斗たちにもばれてしまった。陸上部の部員たちからは散々冷やかされたが、海斗はなんで教えてくれなかったんだと言いつつも、「相手が愛倫女子の噂の美少女じゃ、しょうがないか」と、いつもののんびりした口調で理解を示してくれた。小夜との交際も順調で、二月のバレンタインデーには手作りのチョコレートももらった。それは、そんな高校生らしい生活を送っていた二月の半ばのことだった。

 ちょうど部活のない月曜日の放課後、自宅の最寄り駅に着いたところだった瑞貴のスマホに、珍しく千歳から着信があった。

「もしもし、どうしたの?」

『瑞貴。悪いな。今、どこにいる?』

「駅まで帰ってきたところだけど」

『そうか。実は、研究所で事故があって、研究員が一人、怪我をしたんだ。それで、できれば瑞貴に家から持って来てほしいものがあるんだが』

 千歳は今日、民保協の方に出勤しているはずだった。ということは、技術部の研究所ということだろうか。

「いいよ。何を持って行けばいいの?」

 瑞貴が尋ねると、千歳は必要なものをいくつか告げた。中には、怪我とどんな関係があるのか分からないものもあったが、瑞貴は何も訊かなかった。言われたものはだいたい覚えたが、念のためリストをメッセージで送ってもらうことにする。

『どこにあるか分からなかったら、また電話をくれるか』

「うん、分かった」

 そう答えて一旦電話を切ると、瑞貴は駅から家への道を急いだ。

 自宅に戻り、千歳に頼まれたものを揃えてリュックサックに詰め込むと、瑞貴は民保協の技術部の研究所に向かった。瑞貴が技術部の研究所に行くのは初めてだ。千歳から教わった通り、高校へ行くのとは反対方面の電車に乗って、一回乗り換える。徒歩の時間を含めても、一時間ほどで研究所に到着した。

「ありがとう、瑞貴」

 研究所の入り口で、千歳は自ら瑞貴を迎え入れる。人のいないがらんとしたデスクの並ぶオフィスを通り抜けて、千歳は広い会議室に瑞貴を案内した。二つの部屋がつながったような会議室の前方半分には、長机がいくつか並んでおり、プロジェクターが設置されている。後方の壁側にはシンクが備え付けられ、その前にソファのテーブルセットが置かれていた。その白いソファに、六花が手持ち無沙汰な様子で腰掛けている。

「六花さん」

 瑞貴の姿を認めて、六花は立ち上がった。瑞貴はソファの前のローテーブルにリュックサックを下ろした。

「今、蒼が中で診察してる。怪我をしたのは、池上柊真だよ」

「えっ?」

 六花が目線で指したのは、テーブルセットのすぐ横にある白いドアだった。

「瑞貴は池上くんを知ってるのか」

「うん……。一度だけ、桃泉堂で会ったことがある」

「そうか。組み立てていた装置が突然発火して怪我したようなんだが……」

 瑞貴は、かつて見た柊真の異様な光を宿した瞳を思い出す。柊真と対峙して、蛇に見込まれた蛙のように身を竦ませていた蒼は、診察に入っても大丈夫なのだろうか。ちょうどそこへ白いドアが開き、その隙間から蒼が顔を覗かせる。

「怪我は軽い火傷だけで、大したことはありません。軟膏を塗って処置をしておきました。精神状態の方は……俺は専門じゃないので分かりませんが」

 蒼は千歳に報告すると、部屋から出てきてシンクで手を洗った。

「意識がないの?」

「うなされてるな」

 六花の質問に短く答え、タオルで手を拭きながら、再びドアを開けて三人に入るように目配せした。部屋の中には、民保協の統括である佐竹ともう一人、背の低い小太りの作業着を着た男性がいて、ベッドに横たわった柊真を見守っている。部屋は三畳ほどの広さで、ベッドと小さなデスクがあるだけの、仮眠室のようだ。

※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。カクヨムでは章ごと、なろうではパラグラフごとの掲載です。

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