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夜半の階梯 ―宵のハコブネ②―  作者: 朔蔵日ねこ
蠱毒

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蠱毒①

 瑞貴は半信半疑だった。小夜と付き合っていることは、まだ誰にも言っていない。小夜はあの日から毎日メッセージを送ってくる。他愛のない内容で、瑞貴が返信を忘れたり遅れたりするとたまに拗ねたりすることもあるが、負担を感じさせない、ほどよい配慮がある。週末には区立図書館に行って、一緒に勉強した。小夜と外出すると、隣を歩いている瑞貴も注目を浴びているのを感じたが、小夜はまったく気にかけず、無邪気に楽しそうにしていた。しかし、瑞貴はずっと不可解だった。文化祭でもあんなに人目を引いていた裕福な美少女に、たかが三回偶然が重なったというだけで告白されて付き合うことになるなんて。罰ゲームとか美人局つつもたせとか、何か裏があるんじゃないかと勘繰ったりもしたが、数日経っても何も起こらなかった。

「瑞貴、クリスマスは何か予定があるのか?」

「えっ」

 風呂上がりにリビングで髪を拭きながらソファに座り、スマホを弄っていた瑞貴に千歳が尋ねる。ちょうど小夜とメッセージのやりとりをしていた瑞貴は、平静を装って答える。

「夕食は作るよ。昼間はちょっと出かけるかもしれないけど」

「そうか。無理しなくてもいいよ」

「大丈夫」

 千歳は何か気付いているのだろうか。瑞貴の答えに曖昧に頷いている。

『主さま、くりすますはご馳走ですか?』

『お赤飯ですか?』

 山育ちの妖怪であるタカネとフウロにとっては、初めてのクリスマスだろう。狐の嫁入りの時には宴会に参加してへべれけになっていたので、管狐たちもパーティーは嫌いではないのかもしれない。

「お赤飯は作らないかな」

 えー、と不満を漏らす管狐たちを宥めながら、瑞貴は悩んでいた。二十五日の昼に、小夜にランチに行きたいと誘われているのだ。彼女を連れて行くようなお洒落な店なんてまったく知らないし、予算もあまりない。折しも、点いているテレビではクリスマスにお薦めのデートスポットの紹介をしている。

「父さんは、年末休みあるの?」

「うん。二十六日で仕事納めだよ。休み中、時々は、実験室の様子を見に行くかもしれないけどね」

「民保協の方も休み?」

「ああ。正月は一緒に初詣にでも行くか」

 珍しく千歳が瑞貴を外出に誘った。今年は妖魔神仏に関わる出来事も多かったし、寒月峰神社に帰らないまでも、年初に神社に詣でておくことは大事な気がした。

「うん。行こう」

 クリスマスのランチの店を探しておくと小夜に返信していると、テレビからニュース速報の音が聞こえた。テロップでは、実業家の急死が報じられている。

『株式会社ブイ・ミューズの志布井将孝社長、自宅で急逝。事件と事故の両面で捜査』

 ブイ・ミューズは、ゲームも手掛ける国内の大手通信会社で、社長である志布井しぶい将孝まさたかの名前は瑞貴でも聞いたことがあった。

「えっ、ブイ・ミューズの社長、亡くなったんだ」

「事件と事故の両面で、か。物騒だな」

 同時にスマホにもニュース速報が入る。サイトを開いてみると、関連ニュースのリンクが並んでおり、その中に『志布井社長急死、体に動物の咬み傷か』という見出しのニュースがあった。

「日光に住んでたんだね。体に動物に咬まれた傷があったんだって」

「ああいうお金持ちは、別邸を持ってるんだろう。動物って、何の動物だろうな」

 記事を見て何の気なしに話しかけると、千歳も家事をしながら応える。昨今は熊の出没が全国で話題になっていたので、山の中の別荘のようなところで熊に襲われたのかと思ったが、ニュースによるとどうやら室内で亡くなっていて、部屋を荒らされた形跡はなかったらしい。

(妖怪の仕業でなければいいな)

 ぼんやりとそう考えて、瑞貴は首を振った。春からそんなことにばかり関わっていたので、考えが毒されている。

「年末に社長が急死したんじゃ、会社も大変だな」

 千歳はリビングで自分と瑞貴のシャツとズボンにアイロンをかけながら呟いた。瑞貴は何となく気になりながら、スマホのニュースの画面を閉じた。

 テレビのデートスポット特集は終わっており、今度は福袋の話題に移っている。瑞貴は気を取り直して、小夜と行けそうな手頃なクリスマスランチのできる飲食店の検索に戻った。

※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。カクヨムでは章ごと、なろうではパラグラフごとの掲載です。

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