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夜半の階梯 ―宵のハコブネ②―  作者: 朔蔵日ねこ
徒花

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徒花②

 その翌日、瑞貴は壱流が普通に学校に来ていて普段通りなのを見て安心した。後日、壱流から聞いた話では、幽霊になった男は依頼人の元部下で、仕事上の功績を横取りされたことを苦に自殺したのだった。壱流の父が壱流に憑依した幽霊から話を聞き出したそうだ。依頼人はこれを認めはしたが、部下の自殺の直接の原因は、ギャンブルにのめりこみ、借金で首が回らなくなったことだと主張した。さらに幽霊は、ギャンブルに手を出したきっかけは仕事に嫌気がさしたことだと言っており、両者は相容れなかった。壱流が言うには、除霊の基本は霊の話を傾聴して、その思い残しを解決してやることなのだそうだ。生きていく者の方が先は長い。壱流の父は、依頼人に、ここは妥協して元部下の家に線香を上げに行くように言った。恨みを少しでも軽くしてから祓うことで、怨霊は成仏しやすくなるらしい。霊媒師というのは思ったより生々しい仕事のようだが、壱流の面倒見の良さを考えれば、適職かもしれないと瑞貴は思った。

 部活のない放課後、瑞貴は高校の最寄り駅の隣の駅で降り、桃泉堂へ向かっていた。桃泉堂に行くのは、雄然が何者かに襲われた日以来だ。六花にはメッセージアプリで簡単に伝えてはいたが、橋姫に襲われたこと、泉刻一というカブソに人魔相殺を依頼されたこと、地下鉄の狂骨のことなど、相談したいことはたくさんある。詳しく話を聞きたいと、六花に呼び出されているのだ。

「瑞貴」

 駅から歩く道の途中、背後から聞き慣れた声で呼ばれて瑞貴は振り向いた。

「あれ、六花さん⁉」

 久し振りに会った六花のオレンジ色の髪は、ストレートのショートボブになっている。

「仕事の都合でね。しばらくこれで行こうと思って」

 六花は短くなった髪に手を当てて首を傾げて見せる。仕事というのは、モデルの仕事のことだろうか。本人はバイト程度だと言っているが、瑞貴のクラスメイトの藤田風子が大ファンだと言うくらいなので、有名人ではあるのだろう。着ている服はアシンメトリなブルーのチュニックに黒のスキニーパンツと相変わらずのモード系だ。隣にいる蒼も、ダークグレーとライトグレーの切り替えジャケット姿でカチッと決まっている。いつも通りの二人。改めて、瑞貴は二人がバディ解消にならなかったことを嬉しく思った。

「瑞貴、御父上はお変わりないか」

「民保協の方にはまだ何回かしか出勤してないですけど……楽しそうですよ」

 いつもクールな蒼だが、千歳を技術部に紹介して自分が異動を免れたこともあり、気にしているようだった。技術部は癖の強いメンバーが揃っているらしく、蒼はそれを懸念していたが、千歳は自分から志願したのだし千歳自身も変わり者なので、瑞貴もあまり心配していなかった。

「そうか。それならいいが」

 三人は肩を並べて歩きはじめる。もう十月も終わりだったが、まだそれほど寒くはない。瑞貴の制服もシャツは長袖になっているが、部活帰りでもないのに袖をまくって、ブレザーは手に持っている。

「橋姫のことは、近畿支部に連絡しておいたよ。『洛中あやかし台帳』のこともね。あっちもあっちで、妖怪が騒がしくて大変みたい」

「そうですか」

 橋姫がまだ東京にいるのなら関東支部である六花たちの仕事だが、京都に戻ったのであれば別の支部の管轄になる。彼らが何者でどんな目的だったのか、直接調べてもらえないのはもどかしいが、民保協は規則が厳しいので仕方ない。櫻子のことは六花たちには話していなかった。櫻子は妖怪ではないし、民保協の活動とは無関係だからだ。

「それから、地下鉄の狂骨ね。東西線に乗って茅場町まで行ってみたけど、私たちは遭遇できなかった。もしかしたら、操ってた怨霊を壱流くんに連れて行かれたから、他の場所に移動したのかもね」

 それは少し厄介な話だった。広大な東京の地下鉄の路線で、狂骨を探すのは容易なことではない。人身事故で亡くなった地縛霊の怨念を養分にしているのだとしても、地縛霊だってかなりの数いるだろう。

「国から地下鉄会社に調査協力を依頼してもらうことになってるけど、まだ先の話になりそうだね。あとで、瑞貴が見た狂骨の話を詳しく聞かせてほしいんだけど」

「わかりました」

 瑞貴に会うなり待ちきれず、立て続けに仕事の話をした六花を、蒼が呆れたような目で見ている。一方の六花はどこ吹く風で、桃泉堂に着くまでに自分の伝えたいことは話し終えたようだった。

※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。カクヨムでは章ごと、なろうではパラグラフごとの掲載です。

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