鬼の七池(創作民話21)
その昔。
山あいに貧しい村がありました。
村には川がないので田が作れず、山のふもとの畑でなんとか命をつないでおりました。
ある日のこと。
一匹の鬼が山に住みつきました。そして村に降りてきてはあばれまわり、わずかな食料をもうばっていきました。
村人たちはこまりはてました。
ですが、相手が鬼ではいかんともしがたく、ひたすら村の神様に祈るばかりでした。
そんなとき。
「おーい、鬼やーい」
山の鬼に向かって叫ぶ者があらわれました。
「だれだ!」
鬼が村を見渡すに、ふもとの畑に立った童子が叫んでいます。
「鬼やーい。いたら姿を見せろー」
「ここにおるぞー」
鬼は自分の姿を見せようと、山のてっぺんの大岩の上に立ってみせました。
童子がそれを見て叫びます。
「腰抜け鬼やーい。そこの大岩は、ここまで飛ばせないだろう」
「なんだとー」
「地獄を逃げ出した、いくじなしの鬼だからなー」
鬼はおどろきました。
童子の言うとおり、この鬼は地獄から逃げてきていたのです。
それでも地獄からの追っ手ならまだしも、目の前にいるのは人間の童子です。
鬼は童子に向かって叫びました。
「見てろよー。いかなる大きな岩でも、そこまで飛ばしてやるわー」
「なら、われに当てられるかー」
「ああ、おまえを岩でつぶしてやるわー」
鬼は大きな岩をかかえると、あらんかぎりの力で童子めがけて投げつけました。
岩が童子に向かって飛びます。
ところが当たる寸前のところで、童子はひょいと身をかわしました。
どーん。
大きな地ひびきがして、岩の落ちた畑には大きな穴ができました。
「へたくそー、当たらんかったぞー」
童子が畑三十枚ほど山に近づき、さらに小馬鹿にしたように手を振ってみせます。
「くそー」
鬼は二つ目の岩を投げました。
童子が飛んできた岩をよけます。そしてまた、畑三十枚ほど山に近づき手を振りました。
こうして同じことが何度か繰り返され、童子はもう山すそまで来ていました。鬼の投げる岩を、すべてかわしてしまったのです。
――こうなりゃ、アイツを食ってやるまでだ。
鬼は山をかけくだりました。
ところが、山すそにいたのは地蔵でした。
山の上から見た童子は、なんとこの石の地蔵だったのです。
地蔵が鬼を見て言います。
「ごくろうだったな。おまえには、これから地獄へ帰ってもらうぞ」
「なにを言う、こうしてくれるわ!」
鬼は地蔵をふみつぶそうとしました。
が、いち早く、地蔵が鬼の頭に飛び移ります。
魔訶不思議。
鬼の両足が地面にめりこんでいきます。
足が消えると続いて体が、それから頭が沈み、しまいに地蔵だけを残し、鬼は地面の下に跡形もなく消えてしまいました。
今でもその村には、山に向かって点々と七つの池があります。どの池も水が枯れることはなく、稲を植えるころには田んぼをうるおしました。
これらの池は鬼の七池と呼ばれています。
山すそには小さな石の地蔵が祭られています。




