お世話係の結婚
「すまない美守。婚約を破棄してくれ」
美守に向かってそう言ったのは、一年間婚約していた年上の男性。
三年前上司の紹介で知り合って、二年前から付き合って、一年前に婚約した。綺麗に一年で節目を迎える彼は、婚約して一年でこの関係を終わりにしたいらしい。
その理由もわかりやすい。美守と彼は美守の家のリビングにいるのだが、彼の隣には美守の妹、萌守が座っている。
二つ下の妹は大学生で、最近帰りが遅いとは思っていたが、まさか彼と会っていたのだろうか。
…なるほどこれが妹に婚約者をとられる姉…広告でよく見る…。
美守の視線が隣に流れたことに気付いたのだろう。彼は難しい顔をして萌守の肩を抱いた。
「萌守は何も悪くない。美守が萌守より魅力的じゃなかっただけの話だ」
まだ何も言っていませんが?
何も言っていないが、とっても失礼な物言いだ。
「萌守は、いつだって俺を立ててくれた。君が家の用事ばかり優先するから、その埋め合わせをしてくれたのが萌守だ。妹だからと姉の不躾な態度を詫びて、君に断られるたび萌守が傍に居てくれた…俺たちが惹かれ合うのは、自然なことだったさ」
家の用事で外せない時が多いと、付き合い始めた頃から前もって言っていたにもかかわらず?
それでもいいと頷いていながら?
婚約した途端に前触れなく家に訪ねて連れ出そうとする回数が増えたと思っていたけれど、そんなことになっていたの?
「何より、君より萌守の方が可愛い」
それは幼い頃から、よく言われた台詞だった。
しっかり者の姉と、甘えたな妹。
背の高い姉と、小柄な妹。
キリッと凜々しい顔立ちの姉と、幼さを残す顔立ちの妹。
黒髪を耳の下で切り揃え、すらりとスレンダーな美守。切れ長の目元はつり目気味で、無表情だと怒っていると勘違いされることも多い。
対してふわふわした柔らかい髪を背中に流し、ふっくらしているが華奢な印象の強い萌守。童顔らしく目は大きくくりくりしていて、口角が上がっていていつでも笑っているように見える。
似ていないが、不思議と並べば姉妹に見える。それぞれタイプの違う二人。
つまり彼は、美守より萌守に魅力を感じたから、乗り換えたと言う。
魅力的だったから…今年高校を卒業したばかりの十八歳の妹に、二十六歳の社会人が手を出した、と。
ちなみに美守は二十一歳。彼とは五歳差。妹とは三歳差だ。
つまりそう、彼らは八歳差になる。
(事案では?)
高校を卒業したとは言え生まれたときから可愛がってきた妹。
美守の中では妹の印象は小学生で固定され、どれだけ身近で成長していてもお姉ちゃんお姉ちゃんとお風呂の中まで付いて来る姿が一番に出てくる。
成長しているのはわかる。
でも姉にとって妹はいつまでもちびっ子だった。
だからというか、社会人が未成年の学生を手籠めにしたような事案感を強く感じていた。
「俺と萌守は運命なんだ。だから君との婚約を終わらせたい」
そんな妹に手を出した、二十六歳社会人。
色々言いたいことはグッと我慢して、美守は沈黙を守る妹へと声を掛けた。
「…萌守はそれでいいの?」
「ごめんなさいお姉ちゃん…私、どうしても耐えられなかったの…」
うつむき、震える妹は可愛い。小動物みたいだ。
大学デビューと言って染められたオレンジの髪。黒目を大きく見せるコンタクト。上を向いたまつげにバッチリ決まった化粧は高校の時から変わらない。小柄で華奢だが、オーバーサイズの服を好む萌守の服は、首筋が大変無防備だ。
その無防備に俯いていた細い首が、勢いよく持ち上がる。
「こんな男にお姉ちゃんが嫁ぐなんて、どうしても耐えられなかったの…!」
「へっ?」
コンタクトで強調された黒目が、大変強い目力を持つ黒い目が、向かいに座る美守ではなく隣に座る男へと向けられた。
その顔は愛らしい小動物がする顔ではなかった。
…たとえるならそう、狸をなんとしてでも懲らしめると決めた、某山のうさぎの顔だった。
「だいたい付き合った流れからして不満だったのよ! 押しが弱くて上司の紹介を断れないお姉ちゃんをアクセサリー感覚で彼女の枠に押し込んで! お姉ちゃんが結婚相手じゃないとベッドインしないってわかったら婚約者の枠に収まって! これで将来の結婚相手だからいいだろうってしつこくしつこく言い寄って!! お姉ちゃんに大事なお役目があるのに家の用事と俺のどっちが大事なんだなんて女々しいこと言い出して!! ウザ!! キモ!! 今時誰も言わねーよそんなこと!!」
「め、萌守?」
火を噴く勢いで語り出した萌守に、肩を抱いていた男が戸惑い名を呼ぶ。
その手を振り払い、萌守は勢いよく立ち上がった。
「しかもお姉ちゃんが断ると物に当たるし! うちの塀はサッカーボールじゃねーんだよ! お姉ちゃんコイツが何回うちの塀に蹴り入れたかわかる? ドンドン! 時間切れ!! 記念すべき十回目に声を掛けましたー!! 訴えて出なかっただけ私ってば優しい! 優しく下手に出たら勘違いされたけど! 何がお姉さんと違って君は優しい子だねだよばっかじゃねーの!? 今更取り繕っても本性見えてんだよ塀に足跡残ってるかんな!! 自分でやったのがみえてねーのか眼科行け!!」
「な、な、な…」
「本当にチョロかった。コイツが自分勝手にお姉ちゃんを連れ出そうとするたびに姉の代わりに私が…って近寄るだけで鼻の下伸ばして肩を抱いてくるからチョロかった。大学の男達より単純でチョロい。完全に俺の女扱いはウザかったけどそれだけチョロいからこそここまでこれた。マジ最低だったけど底辺だからこそこの結果。ありがとう考えなし。アンタなんかもう用済みよ。さっさと帰ってママのお膝に泣きつけばいいわマザコン」
「は!?」
それは知らなかったそうなのか。
美守は完全に傍観の体勢でお茶を飲んだ。誰も手を付けていなかったお茶菓子にも手を伸ばす。まんじゅう怖い。とっても怖い。こしあん怖い。
「どういうことだ萌守、俺を騙していたのか…?」
「騙すも何も好きともなんとも言ってないじゃない。アンタが勝手に盛り上がっているのを否定しないで聞いていただけ。完全に接待だったわよ私の対応。キャバ行ったことないの?」
萌守はいつの間にか美守の隣に座り直していた。
引いた目で男を見上げ、ないわーっと呟きながら自分の爪を見ている。貝殻をイメージした夏らしいネイルは、ちょっと気になる男の子がやってくれたと数日前に、嬉しそうに報告された物だ。
うん、目の前の男ではない。
「姉の婚約者が勝手に来て勝手に騒ぐから、身内として周囲の迷惑にならないように穏便にお帰り頂いただけよ。水族館とか美術館とかチケットが勿体ないって言われて同行したけど、それ以上のことなんて私たちになかったでしょ。だってアンタ「お姉ちゃんの婚約者」なんだから」
「そ、そう言って萌守が拒否するから今日はこうして…!」
「うんうん、お姉ちゃんとの婚約を破棄して、私に乗り換えて、えっちなことしたかったのよね~? でも私が「お姉ちゃんの婚約者とそんなことできません」って拒否するのは当然のことで、お姉ちゃんの婚約者じゃなければオッケーなんて一言も言ってねーのよね~」
うん、身内の婚約者とうふんなことできませんって拒否するのはまっとうな反応だから。
怒らせないようにやんわりと言ったようだが、勝手に勘違いして盛り上がって婚約破棄を言い出したのは向こうだ。別に萌守が言い出したことではないだろう。
この妹は小賢しいので、その辺りしっかりしている。
「み、美守に虐められているというのも嘘なのか! 姉ばかり可愛がられて、妹は別邸に追いやられたと言っていたじゃないか! 両親から姉妹格差で虐げられていると知ったから俺は君を救い出そうと…!」
(…あら、それは…)
「私の両親はそんなことしません」
美守は意外そうに萌守を見たが、萌守はきっぱりと否定した。
「そうだ。私たちにとって二人とも大事な家族だ」
「へぇっ!?」
「お父さん、お母さん!」
きっぱり否定した萌守に続き、別室に居た両親がリビングに現れた。
細身だが背の高い父と、華奢で小柄な母。
美守と萌守はそれぞれの両親にそっくりだった。
「美守も、萌守も私たちの可愛い娘だ。どちらかに優劣を付けるなんてそんなことはない。虐げるなんてとんでもない」
「確かに本邸と別邸で暮らしをわけていますけど、それは事情があってのことです。追いやられているわけでも、出入りを禁じているわけでもありません。全てあなたの勘違いです」
「そ、そんなはず…」
男は視線を彷徨わせたが、まさか両親が出てくるとは思っていなかったのだろう。
人の家に乗り込んでこんなことをしておいて、両親が居る想定をしていないあたり想像力が乏しい。
「美守の上司には大変お世話になっていたが、君のような男に可愛い娘は渡せない。美守も萌守も、どちらもだ」
「双方、縁がなかったということで。この話は終わりにしましょう」
「上司には私たちの方から話を通しておく」
「そ、そんな…こんなはずじゃ…」
男は視線を彷徨わせ、救いを求めるように美守を見たが、美守は無言でおまんじゅうをほおばった。
男はがっくり肩を落として、父に追い立てられるようにして家を出た。
門まで移動し、名残惜しそうに振り返るが誰も対応しない。時間をかけて居なくなった男の背を窓から確認した美守は、背中に貼り付いた妹を振り返る。
「念のために聞くけれど、おかしなことはされなかった?」
「肩とか腰とか抱かれて手とか尻とか撫でられたけど、それ以上のことは何も。進みそうになったら偶然を装って足を踏んづけたりみぞおちに肘を入れたりしたから何もないわ」
「そう。無茶をするわね」
「だってあのまま放っておいたらお姉ちゃんってばまあいっかで結婚しちゃうかもしれなかったじゃない!」
ギャンッと叫ぶ萌守を背負って移動した美守は、リビングのソファに移動した。背の高い美守が横になっても爪先が飛び出ないソファに、余裕を持って座る。背中に貼り付いていた妹はぐるんと回転して姉の膝に縋り付いた。
「お姉ちゃんはもうちょっと自分を省みて! お姉ちゃんを大事にしてくれる人を伴侶にして!! 流されて結婚しちゃダメよ!」
「そうだぞ美守。上司の紹介を断れないなら相談しなさい。お父さんからちゃんとお断り入れるから」
「そうよ美守。相談は大事よ。嫌な思いをしたらすぐ言って。お母さんも頑張るから」
姉に甘える妹と、相談しない姉を諭す両親。
「「「ずっと家にいていいんだからね」」」
休日の昼に見る光景としては、とても平和で心温まる物だ。
「そっか、ありがとう…………それで、本音は?」
しかし美守の言葉で、彼らは石像のように固まった。
「ほほぽほぽのぽぽぽんね? 本音ってなに?」
美守の膝で可愛い声で誤魔化そうとする萌守を見下ろし、固まる両親へ視線を向ける。
「私に彼を紹介した上司に彼を紹介したの、お父さんでしょう」
「ぎくっ」
「彼が家に来るたび、この別邸に案内したの、お母さんでしょう」
「ぎくぅっ」
「私に取り次がないで率先して相手をしていたの、萌守でしょう」
「ぎっくぅ」
「私と彼が出会うように仕組んで、彼が萌守に目移りするように画策したの、お父さん達でしょう」
「「「ぎっくうー!」」」
美守は静かに微笑んで、小首を傾げた。
「――――で、本音は?」
「ダメンズの見本誌を用意しました! ごめんなさい!」
「ダメンズを身近で体験して男性への忌避感を育てようとしました! ごめんなさい!」
「ダメンズのダメ加減を利用して結婚に希望を抱かないように画策しましたぁ!! ごめんなさい!!」
「「「謝るからどこにも嫁がないでー!!」」」
わっと泣き叫んでソファに座る美守に群がる両親と萌守。
美守は呆れたように嘆息し、わんわん泣き喚く三人の頭を交互に撫でた。
(ここだけ聞けば、長女を溺愛する家族の話なんだけどなぁ…)
彼らが美守の結婚願望を折ろうとしているのは、何も可愛い長女が嫁に出るのを阻止したいだけじゃない。いや、可愛がって貰っているが、それ以上に大事な事情が存在する。
彼らには、美守が家に…本邸に居続けて貰わねばならない。
ヒンヒン泣きながら、萌守がその理由を大声で喚いた。
「私達に、蛇神様のお世話は無理だよぉ~!」
これである。
――我が斑目家には、蛇神様が憑いている。
美守は泣きながら転がる家族を宥めてから、本邸へと戻った。
本邸は、別邸一戸建ての隣に立つ日本屋敷。生け垣で区切られているが、同じ敷地内にある建物だ。生け垣の境目から本邸に戻った美守は、使用人達に世話をされながら目的の部屋へと足を進めた。
本邸の奥にある、一番広い座敷。
宴会場といわれても納得できる広さの座敷には、その広さを最大限に利用して反物が収納されている。和風の棚が所狭しに立ち並び、反物や着物が大量に仕舞い込まれていた。
着物掛けにかけられて居るのは、美守が初めて見る着物ばかりだ。
「…また仕立てたんですか、蛇神様」
「またなんて言い方酷いわぁ。これは正当な褒美なのよぉ?」
シュルシュルと擦れる音を立てながら、大きな影が棚の間から現れる。
ぬっと顔を出したのは、白銀に煌めく鱗を持った大蛇。
黄色い目を歪ませて、長い舌を覗かせて、蛇は愉快そうに笑った。
「それにそれはぁ、美守じゃなくて妹の方にあげるやつだわ。ああ、望むなら母親でもいいわね。色合いと柄は妹に寄せたけれど、あの二人ってとても似ているから」
「確かに萌守は母親似ですが…萌守に仕立てたなら、萌守に渡しておきます。それにしても褒美とは、彼に関してのことですか」
「そうよぉ。もう、何がしたいのかと思えば、アンタをここに置いとくための仕込みだったみたいじゃない。アンタを逃がすためにあんな小芝居をしていたならどうしてやろうと思ったけど、違うならいいわぁ」
ケタケタと笑いながら身をくねらせた大蛇は、美守の身体をぐるりと囲う。自分の胴体より太い蛇に絡まれても動じない美守は、大きな顔が頬に擦り寄るのも好きにさせていた。
「アンタだって、あの子達が何かしているってわかっていたんでしょぉ?」
「父が上司に紹介したとわかっていたので…何かしたいんだろうなと静観していたら、このような結果になりました」
「ケタタタタタ! 空回っているわねぇ。いいわあ馬鹿らしくて」
愉しげに笑う大蛇はゆったり頭をもたげて、機嫌良さそうに揺れた。
「さあ、綺麗にして頂戴。美守。いつものように、いつも以上に、あなたの手でアタシを磨いて頂戴」
「畏まりました蛇神様」
「んもう! お堅い! 蛇神のへーちゃんって呼んで!」
「申し訳ございませんぶっ」
「お堅い!」
きゅっと口元に胴体を押しつけられ口封じをされながら、美守は精一杯腕を伸ばして大蛇の鱗に触れた。
ひんやりした質感を持つ巨大な鱗。何もかもが大きい、大蛇。
斑目家を加護する蛇神は、触れ合いに飢えたさみしがり屋だった。
『富と名声の対価に、アタシを世話しなさい』
そう言って斑目家に大蛇が現れたのは、美守が七歳。萌守が四歳の頃だった。
その日は祖父母の葬式で、一族が本邸に集まった日でもあった。
『今までは磨守が世話をしてくれていたけれど、お別れしちゃったからぁ…磨守の代わりにアタシを世話するなら、斑目家の富と名声を維持し続けてあげるわぁ』
曰く、この家が栄えたのは、この蛇神が居てこそらしい。
『お世話の対価に、アタシが家を繁栄させてあげたのよぉ。これからも同じ暮らしがしたいなら、アタシを世話する人間が必要よぉ』
そう言った大蛇は、黄色い目を歪めて一族達を見渡した。
『だけどぉ、無理そうねぇ?』
にたりと嗤う大蛇に、誰もが悲鳴を上げた。
祖母は美守の父の生みの親で、子供は父しか居なかった。けれど祖母の兄弟が多く、斑目家は一族も多く居た。だから集まりには数十人集まっていたのだが、その誰もが現れた大蛇に腰を抜かして無様に逃げ惑っていた。
『アタシのお世話ができる人、いるかしらぁ?』
そう言って、一族達の間を練り歩く大蛇。
父に守られるよう抱えられた美守は、父の腕の中で白銀に煌めく鱗を見上げていた。
その鱗は、少しだけくすんでいる。
きっと、それは祖母が動けなくなったから。動けない間、祖母がお世話をできなかったから。大蛇の鱗は汚れたままだったのだろう。
勿体ないなと、思ったのだ。
だから美守は、テーブルにあった布巾を手に取って、近くを練り歩く大蛇の鱗をよいしょと拭いた。
よいしょ、よいしょと。
美守が零した牛乳を、母が丁寧に拭き取ったように。
汚れを綺麗に拭った美守は、満足そうに笑った。
ぐるりと首をもたげた大蛇が、そんな美守を見た。
しゅるりと舌が鳴る。
『アンタ、いいわぁ』
――そうして、美守は大蛇に…蛇神様に選ばれた。
蛇神様の世話は、一週間に一回身体を拭き掃除するだけだった。
本当にそれだけでいいのかと首を傾げる美守だったが、それが意外と大変だった。
何せ当時の美守は七歳。身体のできあがっていない幼女。大人より大きな大蛇の全身を拭くなど、数時間で終わる仕事ではなかった。
かといって大人が手伝おうにも、蛇に対する忌避感と恐怖感が強すぎて近付けない。しかも神に対する畏怖が加わり、粗相をしてはならぬと美守を手伝う人間はいなかった。
むしろ美守以外が蛇神に近付くのは不敬に当たると考えていて、彼らがしたのは幼い美守の全力サポート。ちびっ子でもできる高い所のお掃除用具やモチベーションを上げるためのご褒美セットなどを充実させた。
休日は蛇神のお世話で潰れるため、勉強はおろか習い事もできなくなる。
それでは将来が心配すぎると、斑目家で美守の生活スケジュールが管理されるようになった。
美守以外に、恐れず蛇神に接触できる人間がいない。美守が蛇神の世話をしなくなれば、斑目家は終わる。
一族は全力でサポートしたが、幼女一人に任せる弊害は勿論あった。
まず、休日の友達付き合いができなくなった。
休日は蛇神様の世話で終わるため、平日に勉強を注ぎ込むようになったので、平日も友達と遊べなくなった。
となると友達とは疎遠になり、美守は自然とぼっちになった。
一族は全力でサポートに当たったが、流石に友達を作る手伝いはできなかった。
流石に美守ぼっち事件には一族達も頭を抱えた。
蛇神様のお世話だけさせて外の世界に触れさせないという意見も出たが、それは非人道的すぎると反対意見が多かった。そんなの完全に生贄だ。やっていることが人身御供と自覚のある一族達はこれ以上美守に負担を課したくはなかった。
せめて普通に学校生活は、将来は彼女のやりたいことができるようにと、全力で美守の精神を慮った。
蛇神様の世話があるからと本邸に拘束される美守のため、家族も別邸に引っ越してきた。交流を禁じることなく特別扱いもしないようにした。両親も長女を憐れむも末っ子と差を付けすぎぬよう細心の注意を払った。それでもどうしようもなく姉を特別扱いしてしまったり手元に残る妹を贔屓してしまったりしたが、姉からしても妹は可愛かったし、妹は特別扱いされる姉をずるいとは思わなかった。
妹も蛇神様を知っていたし、しっかり蛇に対する恐怖心を植え付けられていた。特別な姉の肩代わりなど絶対できないと幼い頃から理解させられていた。姉がダメなら妹を、などと宣う一族の言葉はとっても恐怖。
そして、恐怖を覚えるからこそ、姉への特別扱いが一族総出の生贄扱いであると気付いて胃が荒れた。良心の痛みで胃が荒れた。ちなみに斑目家は全員胃薬を愛用している。
幼い女の子に一族の重責を課すのは胃が痛い思いだったが、彼らにも家族が居る。
美守が蛇神様の世話を続ける限り、家の繁栄は約束されていた。
蛇神様がいなくても大丈夫と断言できるほど自信家はいなかった。自分たちの功績が神様の補助輪付きだったと知ってから、自分たちの経営手腕に自信が持てなくなっていたのだ。
うっかりミスを犯してキモが冷えても何かしらフォローが入り、競合相手が現れたかと思えば瞬く間に衰退し、物価高騰や関税問題で騒がれても、多少の痛手で済んでいた。
これら全てが経営者の手腕ではなく、神のご加護だというのなら。
蛇神様の加護がなくなれば、とんでもない失態で経営破綻するのでは。
そう思えば、家族…社員達を抱える経営者は、蛇神がいなくても大丈夫と断言できなかった。
――蛇が平気だと言う人間からしても、大蛇の存在感と迫力は、鳥肌が止まらなくなるほど恐ろしい。
そんな存在に物怖じしないのが美守。
一族達の罪悪感や心配も何のその、むしろ楽しそうに蛇神様のお世話を頑張っていたのが救いである。
しかしどれだけ罪悪感から贖罪を込めてサポートに徹しようと、美守のやりたいことをなるべくさせてあげたとしても、一つだけ認められないことがあった。
それが、嫁入りである。
嫁ぐということは、家を出ること。
家を出るということは、斑目家から解放されるということ。
つまりお役目はなくなり、蛇神様のお世話は別の人間に引き継がれる。
無理。
それが一族の総意だった。
けれど美守の自由意志を阻むことはできず…暴走した一部が、美守の結婚願望を折る為にダメンズ婚約計画を発足したのだった。
(迷走しているなぁ)
オフィスにある自分の席。自分の仕事を熟しながら、美守はこっそり嘆息した。
一族である意味蝶よ花よと大事にされている美守だが、どこまでも甘やかされているわけではない。蛇神様のお世話は毎日ではないので、社会人としての立場や仕事もある。勤め先は斑目家の息がかかった職場だが、残業や休日出勤、出張や出向に対応できない身なのでありがたいことだ。
そう、ありがたいと思っている。
美守にとって、蛇神様のお世話は当たり前のことなので。それを第一に考えていいならとても楽なのだ。
美守にとって蛇神様のお世話は苦でない。だが美守以外の斑目家は、何故か呪われたように蛇に耐性がない。
だから本当に、美守以外で蛇神様をお世話できる人が居なかった。
お世話してこその、一族の繁栄。
彼らはお世話のできる美守を、嫁ぎ先に奪われたくない。
「嫁いで欲しくないなら、そう言えばいいのに」
そもそも、美守が嫁ぐと誰が言ったのか。
美守がする世話の代償とは言え、美守だって蛇神様の恩恵に与る一族の人間だ。
これで蔑ろにされるなら話は違うが、一族の人間は美守を大事にしてくれた。傲ることなく、美守心身の健康と安全を第一に、やりたいことは基本的にさせてくれた。ぼっちなのは寂しいが家族は優しいし、妹だって慕ってくれている。
美守の神への献身は、しっかり一族に還元されている。結果が出ているとわかっていて、世話を怠るようなことをするわけがない。美守のお世話が一族を支えているのだと責任だって感じていた。
だから無責任に、結婚するからもう世話はしませんなど、言うつもりもなかった。
――けれど、周りは…一族も家族も、世話する蛇神様までも。
蛇神様のお世話は辛いから、美守はいつか逃げ出すと思っていた。
自分たちなら辛いから、美守もきっと、我慢しているのだろうと。
彼らはいつか、美守が自ら大空へ飛び去ってしまうと思っていたのだ。
「……」
むう、と美守はふくれっ面になった。
誰もが、美守の責任感を信じていなかった事実。
好意的でなかったとはいえ、結婚相手を斡旋されての騒動。
全くもってときめかない相手ではあったが、異性からあれやこれやと謂れのない部分を責められて、美守だって傷ついた。周囲の人間が美守の責任感を信じてくれなかった事実にも傷ついた。女の魅力がないと言われるより、そっちの方が傷ついた。
傷ついたのだ。
(私は、与えられた役目を放り出すような人間に見えていたのね)
皆が、美守に対して罪悪感を抱いているのは知っていた。
両親だって、娘に背負わせた役目に涙しているのを何度も見た。
両親の無意識な贔屓と姉の役目を理解する妹は、ずるいとも言えない寂しさを抱えていることも知っている。
彼らが本当に、美守を気遣ってくれているのは、美守にだってわかっている。
わかっているが。
わかっちゃいるが。
それとこれとは、話が別なのだ。
エンターキーを押して、美守は深くため息を吐いた。
…もうこうなったら、結婚相手を連れてくる位した方が周りの不安も吹き飛ばせる気がする。
「となると人に選んで貰うんじゃなくて、自分で探しに行くべきよね…第三者の思惑が入るから変になるのよ。でも、私に嫁いで来てくれる人なんて居るのかしら…」
「それを言うなら婿に来てくれる人、じゃないか?」
ため息と一緒に小さく零した独り言は、隣の席の同僚に届いていたらしい。囁くような返しに、顔を上げて隣を見る。
「婚約破棄の話は聞いたけど、そんなに切羽詰まっているのか?」
「うーん。周りが心配しているから、結婚すれば安心させてあげられるかしらと思って」
「斑目さんがいいと思う人が居ないなら、そう焦ることはないと思うけど」
そう言って、彼は悪戯に笑った。
「でも、俺のことを少しでもいいと思ってくれるなら、大歓迎」
目が合って、美守に向かって目元を和らげる同僚は、いつだって美守に優しい。
ので。
「婿候補を連れてきました」
「はじめまして鷹野目です」
「ヒィヤアアアアア天敵の加護持ちぃ!」
美守は職場の同僚から恋人にジョブチェンジした男性を連れて、蛇神様へ挨拶に来た。
「どどど、どういうこと?」
「今回の件で人から紹介された相手より、結婚相手は自分で選びたいと思ったから、いいなぁと思った人にプロポーズしてきました」
「されました」
「何この疾走感! アンタにそんな相手がいたの!?」
「ぼんやりいました」
「ぼんやりでプロポーズしたわけ!?」
「全く思っていないよりはいいかなと」
「美守さんから話は伺っています。はじめまして蛇神様。鷹野目猟太と申します」
鳶色の髪と目をした鷹野目猟太は、斑目家が運営する会社に所属する会社員。
上司でも部下でもない、美守の同僚である。なんなら同期だ。
日に焼けた褐色肌に均衡のとれた体付き。鋭い目元は家名と同じ鷹の目を思わせる鋭さで、ミスは決して見逃さない。
厳しすぎるが、仕事に対する真摯な姿勢に親近感を抱いていた美守。結婚するなら仕事に理解のある男性がいいと思ったので、ほんのりぼんやりいいなと思っていた人だ。
そんな彼が、お世辞でも社交辞令でも、チラリと美守にアプローチしてくれたので。その場で婿になってくださいとお願いしたのだ。
そう、つまり逆プロポーズ。(交際期間なし)
普通上手くいかないが、鷹野目は即決だった。
「ぼんやりでもいいなと思っていただけて嬉しい限りです。お嬢さんは必ず幸せにします」
「鵜の目鷹の目は黙ってなさい!」
営業相手に接するかのような笑顔の鷹野目に、蛇神は不思議な切り返しで吠えた。
…鋭く獲物を狙っているという意味だろうか。鷹の獲物は蛇だし獲物を狙う鋭い目付きをしているけれど。流石に蛇神様を獲物として見ないと思う。大きすぎる。
「お嫁に行くのは一族がいい顔をしないので、理解ある婿を探した結果、鷹野目さんが該当しました。結婚してからもお世話に励みますのでよろしくお願い致します」
「私は次男で家も継がず、蛇も特に嫌悪感のない人間ですので美守さんの仕事への忌避感もありませんし、お手伝いもできます。夫婦の共同作業で蛇神様のお世話をした後に夫婦の共同作業(意味深)からの子育てだってできます。お買い得とは思いませんか」
「一族にとってはお買い得でしょうね!」
そう、美守が連れて来た鷹野目の存在は、一族にとって寝耳に水状態だったがとても歓迎された。
他所者だが、一族は何故か悉く蛇がダメな人間ばかりで、美守の手伝いができなかったからだ。
両親など土下座してよろしくお願いしますと軍人のような声量で頼み込んだし、妹の萌守は「嘘…私の義兄…イケメンすぎ…!」とイケメンが一族に加わる幸福に酔いしれていた。酔いしれたあとに蛇耐性チェックシートを取り出して鷹野目を詰問していたが、合格と判断してから敬礼して「姉を末永くよろしくお願い致します!」と軍人の顔になっていた。美守は家族の受け答えが軍人めいていたことに一番戸惑った。何故。
しかし蛇はすぐに受け入れることができず、疑心暗鬼で身をくねらせた。
「怪しいわ…こんな短期間で怪しいわ! アンタ、アタシの可愛い美守に近付いて何が目的なの! 斑目家の繁栄に肖りたいのかしら? それとも美守を誑かそうって言うの!? そんなの許さないわよ祟り案件だわ!」
「鷹野目さんのお子さんは私の子なので蛇神様の祝福と祟りのハイブリッド世代になってしまうのですが」
「当たり前のように美守の将来設計にコイツとの子供が組み込まれている…!」
「だって私がプロポーズしたわけですし。彼の将来を案じるのは当然です」
「責任感!」
蛇神様に手足はないが、あったらなら頭を抱えていただろう。
身をくねらせる蛇神に、鷹野目はとてもいい笑顔だ。
「落ち着いてください蛇神様。私は美守さんのしっかりした性格と請け負った仕事を最後までやり遂げる責任感のある所。それでいておおらかな人柄に惹かれてアプローチしていただけです。婚約者がいながら他の異性に靡くような人でもないので今まで惨敗でしたが…諦めず挙手し続けた甲斐がありました。ぼんやりと結婚してもいい人(脈あり)に漕ぎ着けただけで、何も企んでなどいません。確かにアプローチしていましたが、弄ぶようなことはしていませんしするつもりもありません。斑目家の繁栄は、これから私も斑目家になるので是非このままであって欲しい所ですが、一番は美守さんとの安定した幸福な生活です。といっても、美守さんと一緒になれるなら貧乏でも構いませんよ。試しに我が家の守り神にお願いしに行ってみましょうか。蛇退治」
「アンタさらっと加護持ち主張したわね!? 鷹よね!? 名前とこの嫌な気配からして鷹よね!? 蛇を狙う猛禽類!! 他人のミスも狙った獲物も逃さない鷹の目を持っているわね!?」
「今後私は鷹と蛇の加護を得たハイブリッドに成るわけですね」
「加護したくないいいい! 養子縁組されてもしたくないいいいい! お世話されてもしたくないわぁああああああ!!」
さっきから加護がどうたらと言っているが、もしかして神様の加護持ちって意外と多いのだろうか。不思議そうに鷹野目を見上げた美守は、見るからに嬉しそうな鷹野目を見てまあいいかと疑問を放り投げた。
そちらより、まず蛇神様だ。
巨体をくねらせてじったんばったん抗議する蛇神に、美守は哀しげに問いかけた。
「蛇神様…お世話をする人間に、加護をくださるのですよね。だからお世話をする私のお家に、繁栄を約束してくださったんですよね…」
「…………そ、そうね……」
「鷹野目さんも一緒にお世話をしてくれるのに、加護は私だけなんですか…?」
「…………」
「蛇神様が、そう仰ったのに…?」
「神様に二言はありませんよね?」
「ギィ―――――――――――ッ!!」
美守は無事に婿を迎え、仲良く蛇神の世話をして過ごした。
鷹野目は羽で包むように美守を大事にし、子宝にも恵まれる。不思議と美守の子供達は、斑目家の人間なのに蛇に対して忌避感がなかった。幼い頃から一緒だったから、慣れの問題かもしれない。
きゃっきゃと蛇神様をアトラクションにして遊ぶ子供達を見て、一族もやっと安心したようだ。
それからも、蛇神様は斑目家の傍で、世話をしてくれる人々に対して加護を与え続けている。
蛇神はその昔、祟り神だった。
村に疫病を招き、人を唆して不幸を招き、木の上から嘲笑う祟り神。
けれど悪さをする蛇は鷹に木から振り落とされて、人に打ち倒された。穢れを宿したまま、地中へと封じ込められた。
蛇を封じる社は、蛇を倒した人々が建てた。長い年月を掛けて蛇の穢れを拭い去り、蛇が悪神から善神へとなれるよう、力尽きた蛇の世話をした。
自分を倒したのに献身的な態度をとる人間に嫌悪感を抱いた蛇は、力を振り絞ってその一族に呪いをかけた。
それは、蛇に対する嫌悪感。
人が少なからず持って居る部分を刺激して、蛇を恐れ嫌うように呪いをかけた。
そうすれば彼らは役目を放り出して、蛇は再び悪神として力を取り戻し、彼らを滅ぼすことができると思ったから。
思った通り、蛇への嫌悪と恐怖から、蛇の世話をできなくなった人間達。蛇は計画通りとせせら笑ったが、いつだって予想外な展開はやって来る。
それは、小さな少女。
なんの力もない幼気な少女には、蛇の呪いが効いていなかった。
少女はせっせと蛇の世話を焼いた。鱗を清めて供物を供え、蛇の話し相手となった。嫌われ者を選んだ蛇の傍で、少女は大人になって年老いても、嫌悪を抱かず蛇の傍にあり続けた。
『可哀想に。呪いが効いていないから、周りから役目を押しつけられて。お前が望むなら、身勝手な奴らを丸呑みにしてやろうか』
『わたくしはそのようなこと、望んでおりませぬ。お役目など関係なく、蛇神様のお世話がしたかったのです』
『世迷い言を。嫌われ者の呪われた蛇など、世話をしてなんになる』
『あなた様の銀色は、磨けば磨くほど輝いて、とても美しい。わたくしは美しい姿を愛でたいだけでございます』
すぐ穢れが溜まって薄汚れる蛇の鱗を拭きながら、女は笑った。
『蛇神様は美しいです』
そんな言葉を、女が老婆になって命が尽きる間際に思い出した。
ずっと傍にいた。年老いた女が命尽きるとき、ようやっと蛇は気付いた。
嫌われても、嫌われても。自分から嫌われ者になろうとしても。
それでも手を伸ばし続ける存在に、安堵に似た幸福を覚えていたことに。
穢れを拭う手の温もりを知ってしまった。
愛を知ってしまった。
嫌われるのは、本当は寂しいことなのだと気付いてしまった。
けれど気付いたときには少女は老婆となり、灯火は尽きた。
献身的に接してくれた一族に呪いをかけて、蛇は嫌われ者だった。
嫌われ者の蛇に、自分から近付いてくる者などいない。誰もが怯えて、遠ざけて、逃げだそうとした。
馬鹿なことをしたと後悔する蛇の前に、再び幼子が現れた。
鱗が汚れているのが可哀想だと、汚れを拭う小さい手が現れる。
その手は、蛇が失った温もりを持っていた。
蛇の目から、ほろりと涙がこぼれた。
その涙が加護となり、蛇の鱗を拭った者へ祝福を約束した。
そうして斑目の一族は、蛇からの呪いと加護を受けるようになった。
蛇の鱗に付いた穢れを拭う、その手がある限り。
けれどその手が、なくなったら?
「――あなたが悪神となる場合、我が家の鷹が召喚されます」
「やっぱり鵜の目鷹の目でこっち見ているじゃない…」
美守の居ない、薄暗い部屋で笑う鷹野目は、言葉は丁寧だがとても不遜だ。
神の前で大変不敬。けれど相手から、蛇神と同等…もしくはそれ以上の神の気配がする。
彼は、大盤振る舞いで特定の血筋に加護を与える神に、釘を刺しに来たのだ。
「…それを言う為に美守に近付いたんじゃないでしょうね…」
「まさか。惚れた女が偶然、大昔に接点のあった家だっただけですよ。俺にとっては渡りに船でしたけどね」
とぐろを巻いて鷹野目を睥睨した蛇は細く呼気を吐き、不機嫌そうに頭を伏せた。
そんなこと、言われなくてもわかっている。
蛇神は、神だ。神の前で誓った言葉は、嘘偽りがあってはならない。たとえ神のご加護があったとしても。いや、神のご加護があるからこそ偽れない。
鷹野目が蛇神に向かって言ったこと全て、嘘偽りない。
あったらここに、鷹野目は居ない。
「でも、やり過ぎましたね。斑目家は繁栄しすぎてパンクしそうです。あなたなしでは立てないほど、加護が強くなっている」
斑目家の人々が感じているように、蛇神の加護は一族纏めてとぐろを巻いて囲うような徹底ぶりだった。歴代のお世話女子達が献身的にお世話をした結果だが、確かにやり過ぎていた。
そう、転んでも怪我をしないよう、全身に巻き付き守っている。
だから斑目家は、大きな失敗をしない。できない。
大きな神に守られているから。
それに本能で気付き、慢心するのでなく怯える彼らは善良だ。
「今後、加護は少しずつレベルを下げていってください。過ぎたる加護の繁栄は毒です。諸行無常って知ってます?」
「ぎぎぎ…っ」
蛇神は邪神だった。
人が嫌いで、だから遠ざけようとした。だけど愛を知ってしまった。
愛を知った今は、人肌が恋しい、さみしがり屋の神様だった。
そしてこれからは、鷹野目の血筋を取り入れることで斑目の呪いは薄まり…。
蛇神はやっと、大袈裟な加護をしなくても、傍に居てくれる人々を得たのだった。
婚約破棄騒動は、結婚の選択を邪魔したくはないが嫁入りだけは認められないからずっとお家にいていいんだよと主張したい一族とそもそも嫁入りするつもりがないのに家族経由で男を紹介されて戸惑う美守のすれ違い迷走。
そして婿捜し? 立候補しますな猟太。
美守に婚約者がいたので表立ってアプローチはしていなかったが随所でアピールは続けていた男。何せ婚約者があれだったので。さらに美守の責任感をわかっていたので、別れてからが勝負と構えていたので色々即決した男。
蛇神様:色々自業自得で自らコブ結びになるようなお方。本質はかまってちゃん。
鷹野目家:あんな加護ヤンデレ手前じゃんヤバ。一言いわな。あ、うちの子がアプローチしとる。君がメッセンジャーしてくれるん? 頼んだ頼んだよろしくね位のノリでとっても軽い。
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