接続
『魔力欠乏症』
ダンジョンが生まれた八十年前、同時に現れたそのそれは、主に魔術師のジョブがなる症状だ。
症状の内容としては、倦怠感、頭痛、視界のぼやけ、立ちくらみ、吐き気などだ。
いずれも体内の魔力が急激に消費された事で発祥する。
「うぐ……な、なんで…?」
初めての感覚に、戸惑いを隠せない。
突き刺すような痛みと、ぼやける視界の中で必死に頭を回す。原因はいったい、なんだ。
魔力を使った行為と言えば、ハバリを召喚して、使役した。
この二つだけだったはずだ、なら、何故───
まさか、それか?
「──ステータス」
そう呟くと、目の前に青白く光る半透明の板が出現する。ジョブを授かり、レベルを1でも上げれば誰でも習得できる見慣れたスキルだ。
【遊魔綾人】
レベル:3
職業:怪物創造師
体力 35/35
攻撃 6 (+0)
防御 15(+0)
魔力 10(+0)
魔防 0(+0)
現存魔力 8/30
【スキル】 『怪物使役』『接続』
──────────────────────
相変わらずひどいステータスだと思うが、今はそんな事を気にしている場合では無い。
「現存魔力8……!?」
ハバリを召喚してゴボルト達を倒させている間、この短時間でもうここまで減っている。これなら魔力欠乏になるのも納得だ。
今日の朝、初めてハバリを使役した時、それほど魔力の消耗を感じなかったのは、単純にそれ以上に疲れていたからだろう。
「ぐ、も、戻れ!!」
これ以上魔力を消耗する訳にはいかない!!
一通りゴボルト達を倒し終えたハバリを戻す。
ゴボルト達の返り血を浴び、赤黒く染まったハバリは、突如現れた空間の歪みに吸い込まれていった。
「はぁ……はぁ…」
まさかこんなに消耗するとは、これではせっかく創った怪物を思う存分振るえない。
僕の基礎ステータスはまだまだ低いままだ、長い時間怪物を使役できない。となると、その低いステータスで戦わなくてはいけない。
それでは、何も変わらない。
せっかく、今まで気づけなかったジョブの真価に気づいたと言うのに。
「…なにか……何か無いか!?」
何か怪物を使役する以外に、できることは無いのか!? 一通りゴボルトは倒したが、ダンジョンはどんどんとモンスターを産み出す。
ダンジョン内にいる、獲物達を殺す為に。
そうしたら、貧弱なステータスしか持たない獲物は、直ぐにでも嬲り殺されるか、喰われて骨となるだけだろう。
「何か、何か……───あ?」
ステータスを見ていて、見つけた。
スキル欄『怪物使役』の横に、見慣れないスキル。
「接続?…」
何かと繋がること、しかし、何と繋がるというのだろうか。
「──ッ!?も、もう…」
ヒタヒタと足音がしたかと思い、ふと視線をやると、もう居る。
小さい身体ながらも、分厚い毛皮に包まれ、鋭い牙を唾液で濡らしている。モンスター、ゴボルト。
それが複数体。湧いてきている。
もう迷っている暇は、無い。
「──接続!!」
『──接続を開始します』
そうスキル名を叫んだ、直後。
身体に赤黒い無数の筋繊維のような物が、僕の身体を囲い込む。
身体中に張り付いて、血管にも侵入してくる。
「ゔぁ!?なぁ────」
『接続完了────』
そうして全てが終わった時、全身に力が沸いて来ていた。
見れば、両腕に紫色の血管のような物がドクドクと脈打っている。
「どうなってる!?何が──ステータス!!」
【遊魔綾人】 (接続:特攻兵 ハバリ)
レベル:3
職業: 怪物創造師 兵士
体力 35/35 (+20)
攻撃 6 (+15)
防御 15(+35)
魔力 10(+0)
魔防 0(+5)
現存魔力 8/30
【スキル】 『怪物使役』『接続』
──────────────────────
「これは、ハバリのステータス…?」
僕のステータスが上がっている。いや、違う。
ハバリのステータス値が、付け足されている。 だから力が沸いてくるような感覚になったのか。
思えばさっきから、ハバリの気配が、ずっと近くに感じられる。側に居るのを感じるなんて物じゃなく、もっと近く。例えるなら、僕自身の身体の中にいるような。
「……だから、接続」
怪物と繋がることによって、その力を身に宿す。それが接続の力なのだろう。
だからこそ、『怪物創造師』の職業にはステータス補正も、適性も持たないのだ。
「これなら!!」
地面を蹴飛ばし、目の前のゴボルト達目掛けて走り出す。その行動は、言わば自殺行為と呼べる行動。しかし…
「はぁぁぁ!!」
『がるぅ゛!?ギャいぃ゛!!』
接続により、怪物の力を宿した遊魔にとって、唯のゴボルト達など脅威では無い。
牙を剥いて襲いかかるゴボルト達を一息で斬り刻む。普段では考えられない膂力で、滑らかに肉を切断する。
「凄い……!!」
接続により上がった自身のステータスを実感し、ゴクリと唾を飲む。
怪物使役と違い、接続は魔力をあまり消費しない
しばらくはこのスキルを使って戦う事になりそうだ。
「…と、そうだそうだ」
塵となって消えたゴボルト達の、残った魔石を回収してバックに詰める。
この魔石こそ、冒険者の主な収入源なのだ。
「協会の調査によると、このダンジョンは
ゴボルトしか出ない…ゴボルト達も、接続時なら敵じゃ無い……」
なら、行けるんじゃ無いか?
自分には無理だと、諦めていた。夢物語だと思っていた。
ダンジョンのソロ踏破。
今なら成し遂げられるんじゃ無いか?
「……行こう」
意を決して、暗闇の中を進む。
暗闇の先には死が待ち構えているかもしれないのに、その足取りは────何故か弾んでいた。