表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

怪物誕生








『これは…職業(ジョブ)、怪物創造師?』


『なんだ!?そのジョブは…』


『見た事も無い!…まったく新しいジョブだ!』


確か、七歳になった頃。市のジョブ診断にて、そう言われた。


そのジョブは物珍しかったようで、周囲の大人がうるさかったのを良く覚えている。


そして、そんな珍しいジョブが自分の物だと分かって────ひどく喜んだことも、良く覚えている。


ああ!このジョブで僕は何ができるんだろう!!


どれほど強いモンスターを倒せるんだろう!!


そんな淡い期待を胸に抱いて、未来を夢見て、怪物創造師がどんな適性を持っているか、診断結果を心待ちにしていた、周りの大人達もどんな適性があるか、多大な期待を持っていた。








その期待が、直ぐに失望に変わったことは────当然、良く覚えていた。










チュンチュンと、うるさい小鳥の(さえず)りに目を覚ました。


丁度窓から眩しい太陽光が、起きたばかりの遊魔の顔を染めている。目の下は赤みがかっており、頬には薄い涙の跡が残っている。


自身の惨めさを、これでもかと知らしめているようだ。気に入らない。





「いつまで夢に見てるんだ……僕は」


見るなら過去じゃなくて、今だろう────。

幸い、今日は休日。ダンジョンに潜るには適した日だ。


今日こそは強くなると決意を固め、遊魔は歩き出した。








「はぁぁぁ!!」


『ギャ!?ギュアぁ゛ー!?』


手慣れた動きで剣を振るう。戦う相手はゴブリン。言わずと知れたダンジョン上層のモンスターだ。


スライムと並び評される、()()のモンスター、その程度であればどんな冒険者でも軽々倒す事ができる。


「はぁ……はっ、はっ……」



ただし、それは()()()なジョブを持つ冒険者であったらの話だ。『怪物創造師』のジョブは如何なる適性も与えない。


故に遊魔は、自分自身のステータスに頼るしか無い。故に、ただのゴブリン一体を倒すのにですら苦戦する。


『『ギャッギャッ』』


「う……四匹か…」


いつの間にかゴブリンに囲まれて、逃げ場を失っていた。しかしこんな状況であっても、遊魔の目は死んでいない。


「うぁぁぁ!!」


『ギャアアアア!?ガァ──!!』


背後に回られないように警戒しながら立ち回る。

前のゴブリンを斬りつけ、怯んだら別のゴブリンへ、時には顔面を殴りつけ距離を離す。


(よし!……今のところ上手く戦えている!!)


背後を取られるという不安要素を徹底的に排除するその戦い方は、多対一において完璧と言える動きであった。

攻撃力も速度も足りていないが、それでも戦えている、こちらが押している。現に四匹いるゴブリンのうち一匹を斬り倒したところだ。




遊魔に希望が宿る。

いける、勝てる。

ここを切り抜ける事ができる!!




目の前に映るのは、こちらを向いている一体のゴブリン。その頭、激しい敵意を持った目で睨みつけているが、()()()()()


相手はまだ攻撃の準備中。対して遊魔は既に剣を振るっている。このまま首を斬り落とせば、後に残るのは大きくダメージを負ったゴブリン二匹だけ。


そのまま、遊魔は剣を振り切ろうとして、そして────。

 







ぱきん、と音が鳴り、遊魔の剣がへし折れた。


「────え?」


『──ギャ♪』







ゴブリンの顔に歓喜が宿る。その顔はまさに怪物(モンスター)に相応しい、邪悪にして殺意の籠った笑みだった。




「ごお゛ぉ!?───」


ゴブリンに蹴り飛ばされ、遊魔の身体が大きく吹っ飛ぶ。ダンジョンの岩壁に叩きつけられ、とうとう逃げ場を失った。


『『ギャアぁー♪ゴブブ♪……』』


ゴブリン達が愉快そうに笑い、遊魔に近づく、ひたひたと足音を鳴らし、近づいて来る。


「が……は、ぁぁ……」



愉快そうなゴブリンとは対照的に遊魔の顔は絶望に満ちていた。


あれほど勝てそうだったのに、剣が折れていなければ、勝てたのに。


腕も、脚も、もはや動かない、このまま自分はゴブリンに殺されるのだろう。

ああ、自分に、まともなジョブさえ有れば、適性さえ有れば────変わったのだろうか?


この絶望的な現状は、起こらなかっただろうか?







きっと、そうだ。


『剣士』のジョブであればあのゴブリンの頭を切り飛ばせたはずだ。『魔術師』のジョブであれば遠距離から倒せたはずだ。


そもそも、なんの適性も無い、怪物創造師(こんな)ジョブでさえなければ、クラスの生徒数人とパーティを組めたはずだ。


"無職"と蔑まれること無く、パーティを組めたはずだ。


そうすれば、こんな事になってなかった。


「ははは……ははははは!!」


気付けば、口から笑いが溢れていた。

だって、そうだろう。

今思った全てが"だったら"の無いものねだりだ。


──見るなら過去じゃなくて、今だろう──。


そんな考えはどこに行ったのか、あまりにも惨めで、情けなさ過ぎる。


そして、こんな状況であっても奇跡を願う自分自身を笑ったのだ。







怪物(モンスター)のソウルを合計100個取得しました、『怪物創造』に移りますか?】


「───え……?」



そして、奇跡は訪れた。











これは一体、どういう事だろうか。


【現在、初回限定サービスにより、現実世界の物理的時間は停止しています。心ゆくまでお選び下さい】


遊魔の頭に鳴り響く、無機質な機械音が、その質問に答えてくれた。

辺りを見渡せば真っ白な空間で、自分以外には誰もいない。

さっきまでダンジョン内部にいたはずなのに。


目の前には、青白い光を放つスクリーンが映っている。


その中には、見た事も聞いた事も無いモンスター達。


「なんだ?このモンスター……」


【これらは、現在貴方が《《創造》》できるモンスター達でございます、貴方が今までの冒険で集めてきたモンスターのソウル。それを必要数支払う事でモンスターを創造する事が可能です】


「うぉわ!?」


またもや頭に鳴り響く機械音が、丁寧に説明してくれる。

つまりは、『怪物創造師』のジョブはその名の通り、モンスターを創造できるジョブだった。そういう事なのか…?


【正解です。創造したモンスターは貴方の支配下に入り、貴方の命令に従う"仲間"となります】


「っ!?」


それは、凄い…!!

自分だけで戦力を増やせるジョブは貴重だ。

怪物を造るだけで無く、使役さえも可能とは…


【創造、しますか?】


「──ああっ!!」


そうとなれば話は早い。

スクリーンを指で操作しながら、創り出すモンスターを選ぶ。何度もスクロールしながら、選択する。


そして、創り出すモンスターが決まった。

 




【特攻兵 ハバリ】

属性:闇

種族:ダーク・モンスター アンデッド

職業 ソルジャー

体力 20

攻撃 15

防御 35

魔力 0

魔防 5


──────────────────────


生成コスト 怪物のソウル:闇 3個






しいて言えば、初めて目についた人型のモンスターだったから。幾ら使役が可能といえ、いきなりゴブリンやゴボルト系統のモンスターを創るのに抵抗があったから。


【特攻兵 ハバリでよろしいですか?】


「ああ、よろしく頼む」


【────生成、完了】


ピロリンと、通知のような音が聞こえ、モンスターの生成が完了した。




▪︎怪物のソウル

遊魔がモンスターを倒した際、入手できるアイテム

実体は無く、ただ数値として溜まっていくだけなので遊魔自身、その存在に気付かなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ