表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5

それから、数年が経った。


森の外れ、小さな丘のふもとにある古びた家。

赤い屋根はカナカが塗ったもので、うまくは塗れなかったけれど、わたしはそれが気に入っている。


 玄関のベルがちりんと鳴るたびに、ちいさな犬がほえる。

 薪のストーブがやわらかく燃えて、スープがぐつぐつと音を立てている。

 わたし達は、庭で育てた野菜や花を、毎週市場へ売りに行く。

 

 そんなある日、近くの小学校から依頼が来た。

 文化祭の出し物で、得意としていた技を見せてほしい、と。


「……久しぶり」

 カナカが目を細めて言った。

「ミアン、どうする?」

「跳びたい。子どもたちに、見せてあげたい。カナカはできる?」

「受け止められると思う」

「前より、重くなっているよ」

「じゃ、できるかどうか、少し練習してみようか。低めから始めてみよう」

 跳ぶのは久しぶりなのに、驚くほど跳べた。

「どうしたんだろう。前より、跳べる気がするの。跳ぶのって、楽しい」

「楽しいのはいいね」

 カナカが笑っていた。


 当日、小さな舞台の上、子どもたちのまっすぐな目が、わたしに集まっていた。

 カナカの足の上でバランスを取るわたしに、ふとあの日の観衆の声がよみがえる。

「跳べ、ミアン」

 わたしは、空に吸い込まれるように、跳んだ。


 小さなお客が喜んでくれたから、演技はものすごくうまくいった。

 子供たちがたくさんの拍手をくれた。


「高くとぶのって、こわい?」

 ある女子がきらきらした瞳できいた。

 

 だから、わたしはこう答えた。

「怖くないよ。だって、しっかりと、支えてくれる人が下にいるのだから」



             了

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ