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それから、数年が経った。
森の外れ、小さな丘のふもとにある古びた家。
赤い屋根はカナカが塗ったもので、うまくは塗れなかったけれど、わたしはそれが気に入っている。
玄関のベルがちりんと鳴るたびに、ちいさな犬がほえる。
薪のストーブがやわらかく燃えて、スープがぐつぐつと音を立てている。
わたし達は、庭で育てた野菜や花を、毎週市場へ売りに行く。
そんなある日、近くの小学校から依頼が来た。
文化祭の出し物で、得意としていた技を見せてほしい、と。
「……久しぶり」
カナカが目を細めて言った。
「ミアン、どうする?」
「跳びたい。子どもたちに、見せてあげたい。カナカはできる?」
「受け止められると思う」
「前より、重くなっているよ」
「じゃ、できるかどうか、少し練習してみようか。低めから始めてみよう」
跳ぶのは久しぶりなのに、驚くほど跳べた。
「どうしたんだろう。前より、跳べる気がするの。跳ぶのって、楽しい」
「楽しいのはいいね」
カナカが笑っていた。
当日、小さな舞台の上、子どもたちのまっすぐな目が、わたしに集まっていた。
カナカの足の上でバランスを取るわたしに、ふとあの日の観衆の声がよみがえる。
「跳べ、ミアン」
わたしは、空に吸い込まれるように、跳んだ。
小さなお客が喜んでくれたから、演技はものすごくうまくいった。
子供たちがたくさんの拍手をくれた。
「高くとぶのって、こわい?」
ある女子がきらきらした瞳できいた。
だから、わたしはこう答えた。
「怖くないよ。だって、しっかりと、支えてくれる人が下にいるのだから」
了