表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3

 カナカが足をねん挫して、しばらく演技ができなくなった。

 治るまでの間、サイルスと組むことになった。

 

 わたしは朝起きると、微笑んだ。

 だって、サイルスと練習をするのが楽しくてならないのだから。

 ふたりで新しい芸をいくつも考えて、何度も試した。

 それからサイルスが相手だと、彼のほうがカナカより脚力も腕力も強いので、もう少し食べることができたし、身長が伸びるのも、そんなに心配しなくてよかった。

 

 ある日、本番を終えてから、カナカの部屋に行くと、そこには誰もいなかった。外を探してみると、テントから離れた大きな木の下で、カナカが歌を歌っていた。それが明るい歌だったから、カナカがもう悲しい思いをしていないとわかって、うれしかった。


「カナカ、歌が上手なんだね。知らなかった」

「私の歌、うまいと思う?」

「とても」

「仕事になるかな」

「どうして」

「足はもうだめみたいだから、そのうちに、追い出されるだろう。だから、これからは、歌で食っていこうかなと思って」


「足はだめって、どういうこと?もうすぐ治るんでしょう?」

「歩けるようにはなるかもしれないけど、もうあの演技はできない。そんな身体で、ミアンを落としてしまったら、大変じゃないか」

 落とされてもいいよ、なんて言えないから、 わたしは泣いた。


「こっちにおいで」

 カナカが編みかけの赤い髪飾りをわたしの髪につけてみた。

「うん。よく似合う。かわいい」

 わたしが突然、笑い出した。

「どうして笑う?」

「だって、カナカが初めて、かわいいって言ってくれた」

「そんなこと、言った?変な子」

 カナカはもとのカナカに戻ってしまった。


「これ、わたしのために作ってくれているの?ああ、わたしのコスチュームが赤だから」

「それは……」


 その時、サイルスの声が聞こえた。わたしの名前を呼んでいる。

「サイルスだね」

「うん。きっと、また新しい技の打ち合わせだよ」

「そうかい。行っておいで」


*


「ミアンに話があるんだけど」

 サイルスが緊張した顔をしていた。


「はい。難しい技の話ですか」

「いいや、そうじゃなくて」

「なに」

「もっと大切な話だ」

「大切な話?」


「将来のことだよ。おれはこの曲芸団を抜けて、独立しようと思うんだ」

「そんなこと、親方が許してくれるんですか?はいる時に、契約金とか、もらったんでしょ」

「だから、そっと抜け出そうと思うんだけど、一緒に来ないかい」

 わたしはすっかり驚いて、まばたきを忘れた。


「ブラワ親方が稼ぎをひとり占めしているのを知っているかい」

「噂では、聞いたことがありますけど」

「あれは本当だよ。こんなところで、いつまでも、奴隷どれいみたいにこき使われてはいられない」


「ここを出て、どうするの?別の曲芸団にはいるの?」

「いや。ミアン、おれと組んで、芸をしよう」

「ふたりで」

「そうだよ。ふたりでやったら、稼ぎは全部おれらのものだ。もっと金をためて、家を買って、どこかに落ち着こう。そして、畑を耕して、子供を育てよう」


「今、家って言った?子供って言った?」

「言ったよ」

「だれの子供」

「おれたちのさ」

「わたし達、結婚するの?」

「そうだよ」

「うそっ」

 とわたしが叫んだ。


 どこかに家を買って、野菜を育てて、結婚して、子供も育てる。そんな普通の生活ができるなんて、そんな夢みたいなことができるの?

「うそじゃないし、夢でもない」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ