私の彼がキモすぎる件。。。。
キモさ100%
ーーでも、彼の私に対する気持ちは本物。
……だと思いたかった。
彼の腕に抱き上げられた瞬間、風が私の頬を撫で、スカートの裾が軽やかに揺れた。
お姫様抱っこ――その頼もしい腕の中で、私は一瞬だけ安心感に浸っていた。
だが、ふと視線を上げた時、彼の髪に違和感を覚えた。
風に揺れるその髪が、不自然に整いすぎている。
あまりにも完璧で、まるで作り物のように見えたのだ。
「ねえ、あなた……」
疑念が胸をよぎり、私は思わず彼の頭に手を伸ばした。
指先が髪に触れた瞬間、衝動的に引っ張ってみると――それは呆気なく外れた。
カツラだった。
彼の頭には、薄く短い本物の髪が申し訳程度に残っているだけだった。
私は息を呑み、手に握ったカツラを見つめたまま固まった。
顔がみるみる青ざめていくのが自分でも分かった。
「え、ええっ!?」
声にならない叫びが喉に詰まり、彼の腕の中で身をよじった。
彼は慌てたように私を見下ろし、何か言い訳をしようとしたが、私の頭は混乱で一杯だった。
あの凛々しい姿は、どこまでが本物だったのだろう?
彼の腕の中で、私はまだカツラを握り潰したまま呆然としていた。
彼の顔はみるみる赤くなり、「ち、違うんだ、これはただの……!」と弁解を始めたが、その声は私の耳に届かず、ただ遠くで響く雑音のようだった。
頭の中がぐるぐると回り、現実が歪んで見えた。あまりの衝撃に、身体が勝手に反応してしまったのだろう――突然、下腹部から温かいものが溢れ出し、スカートを濡らしていく感覚に気づいた。
「うわっ!?」
彼が驚きの声を上げ、私を慌てて地面に下ろした。
私は失禁してしまったことにようやく気付き、顔が青を通り越して真っ白になった。
濡れたスカートが足に張り付き、冷たい風がそれを一層際立たせる。
恥ずかしさと混乱で立ち尽くす私を、彼は唖然と見つめていた。
「み、見ないで!」
私は叫びながら両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んでしまった。
カツラを握った手が震え、彼の足元にそれを放り投げる。
「君、大丈夫か!? いや、僕が悪いんだけど……!」
彼は慌てて私の肩に手を伸ばそうとしたが、私はそれを振り払い、涙目で睨みつけた。
「黙ってて! もう何も言わないで!」
地面に広がる水たまりが、私の屈辱を静かに映し出していた。
彼は言葉を失い、ただ立ち尽くすしかなかった。
風が冷たく吹き抜け、二人の間に重い沈黙が流れ始めた。
沈黙が重くのしかかる中、彼は突然膝をつき、私の目の前で地面に広がった水たまりに顔を近づけた。
私は目を疑った。
「何!?」
声にならない叫びが喉から漏れ、私は反射的に後ずさった。
だが、彼は躊躇うことなく、その濡れた地面に唇をつけ、私が漏らしてしまった尿をすすり始めた。異様な光景に、私の頭は完全に麻痺した。
恐怖と嫌悪が全身を駆け巡り、足がガタガタと震えた。
「やめて! 何!? 何してるの!?」
私は叫びながら立ち上がり、彼から距離を取ろうとした。
だが、彼は顔を上げ、私を真剣な目で見つめてきた。
口の周りが濡れ、異様な光を帯びたその表情に、私は言葉を失った。
「君がそんな気分でも、僕には関係ないよ。君の全部を受け止めるって決めたんだ」
彼の声は低く、どこか狂気を孕んでいた。
私は背筋が凍りつき、逃げ出したい衝動に駆られたが、足が動かない。
風が再び吹き抜け、彼の短い本物の髪を揺らした。
私はただ茫然と立ち尽くし、この異常な現実をどう受け止めたらいいのか分からなかった。
混乱と恐怖の中で、私の心は完全に彼から離れ始めていた。
彼は地面から顔を上げると、口の周りを拭うこともなく、私をじっと見つめたまま突然口を開いた。
「君の尿、ちょっと塩気が強めだね。でも、意外とクリアな後味があってさ……ほのかに甘みもあるかな。緊張してたからか、少し酸味が効いてて、まるでレモンを絞ったみたいなフレッシュさがあるよ。体温の温かさが残ってるのもポイント高いね。うん、悪くない」
彼が真顔でそんなことを言い出した瞬間、私の頭の中は完全に真っ白になった。
食レポのようなその言葉に、恐怖と混乱が極限まで達し、胃が締め付けられる感覚に襲われた。
「何!? 何!? 何!?」
私は叫びながら後退し、彼との距離を必死で広げようとした。
足元がふらつき、スカートの濡れた裾がまとわりつくのも構わず、ただ逃げることしか考えられなかった。
彼は立ち上がり、私に向かって一歩近づこうとしたが、その目はどこか満足げで、口元には薄い笑みが浮かんでいた。
「君の一部を味わえたんだ。僕にとっては宝物だよ」
その言葉が追い打ちをかけ、私はついに堪えきれずその場で膝をついた。
現実があまりにも歪すぎて、意識が遠のきそうだった。
風が冷たく吹き抜け、彼の声だけが不気味に耳に残った。
私の膝が地面に崩れ落ちた瞬間、風が急に強さを増し、木々の葉がざわめいた。
彼の声も、その不気味な笑みも、風の中に掻き消されていくようだった。
私は震える手で顔を覆い、深呼吸を繰り返して心を落ち着けようとした。
この異常な出来事が現実だなんて、まだ信じられなかったけれど、どこかで線を引かなければならない――そう強く思った。
「もういい……終わりよ」
私は小さく呟き、力を振り絞って立ち上がった。
彼が何か言おうと口を開きかけたが、私は手を上げてそれを制した。
「あなたとはもう関わらない。私には私の道があるから」
声は震えていたけれど、決意だけは揺るがなかった。
スカートの濡れた裾を握り締め、私は彼に背を向けた。彼が追いかけてくる気配はなく、ただ風が私の背中を押すように吹いていた。
一歩、また一歩と歩き出すたび、混乱と恐怖が薄れていく気がした。
遠くの空に夕日が沈み始め、オレンジ色の光が世界を優しく染めていた。
私は深く息を吸い込み、心の中で呟いた。
「これで終わり。新しく始めよう」
濡れた服も、失ったプライドも、時間が癒してくれるだろう。
彼の狂気的な姿は記憶の隅に封じ込め、私は自分の足で未来へと進み始めた。
風が最後に私の髪を撫で、すべてを過去へと流し去ってくれた。
【完】
こんな作品でしたが最後まで読んでくださりありがとうございました!
楽しめましたかね……?
今後の執筆のモチベーションにも繋がっていきますので☆☆☆☆☆での高評価、ブックマークで作者を応援していただけると嬉しいです。