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お父さんの心境

作者: はやはや

 娘がこの春から保育園に通い出した。


 再来年、還暦を迎える。五十四歳で父親になった。まさか自分が、子どもを持てるとは思わなかった。

 しかも娘。


 妻とは知人を通して知り合った。俺より二十歳近く歳が離れている。小柄で長い黒髪。実年齢よりさらに若く見える女性だった。

 俺のどこを気に入ってくれたのかわからないが、出会って一年後に結婚した。そんな妻の趣味は百人一首。大学でも研究していたとかで、全て暗記しているだけでなく、歌の背景も説明できてしまう程だ。

 娘の沙羅さらも妻の影響で百人一首に興味を持った。若干、四歳にして半分くらい覚えているようだ。天才じゃないか?


 水曜日。仕事が休みの日は、妻と一緒に保育園へ迎えに行く。でも、どうしても場違いな気がして、俺は中には入らず門の外で待っている。

 カラフルな遊具とか、妙に明るい先生とか。定年間近のくたびれた俺には眩し過ぎる。



 一度だけ勇気を出して妻と一緒に園内に入ったことがある。教室の前にある廊下で待っていると教室の中から先生と妻の会話が聞こえた。


「今日はおじいちゃんが一緒ですか?」

「いえ、あの」


 と妻が言葉を濁していると、妻の横にいた紗羅が「おじいちゃんじゃないよ! お、と、う、さ、ん!」と腰に手を当てぷりぷり怒る仕草をした。

 その瞬間の気まずさといったらなかった。


「すいません……」と小声で謝る先生に対して妻は「気にしないでください」と言っていた。



 ⁑⁑⁑ ⁑⁑⁑



 他の子どもが親と一緒に門から出てくる度、「ちがう! 俺が待っているのは、この子じゃない!」と思う。まるで誘拐犯の気分だ。


 しばらくして、「おとーさーん!」と我が子がこちらに向かって、全力で駆けてくる。その顔を見た途端、顔がデレデレに緩むのがわかる。



「帰り、アイス食べようか」

 娘と繋いだ手を揺らして言うと、「やったー!」とこの世で一番キラキラした笑顔を見せる。可愛過ぎる……

「もぉ、甘やかさないでよ」と後ろから妻の声が聞こえるが、俺にはもう娘の笑顔しか見えていない。

読んでいただき、ありがとうございました。

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