怒り
やっちまった………!
侯爵子息に飲み物をぶっかけてしまった。
でも、もう、あとには引けない。
「てめえ、何しやがる。」
「ごめんなさい。手が滑っちゃったわ。」
よくありがちなセリフしか出てこなかった。
彼は口の端を少し上に上げると何か考えがあるようで立ち上がった。
「嬢ちゃん、そりゃないよ。ほら、こんなに濡れちゃったじゃないか。この服、特注なんだよ。ひどいよなぁ。」
すると一緒にいた人たちも「そうだそうだ」と話に乗る。
「お詫びしてくれちゃってもいいんじゃねぇの。」
そう言うとこちらを舐め回すように見つめたあと、手をこちらに伸ばそうとする。
ゴオオオォ。
手から火の魔法を出す。
「っぶねぇ。物騒なもん出してんじゃねえよ。」
「あら、嫌だ。私ったらさっきから手が滑りまくってるわね。」
「やんのか、てめえ。」
護衛騎士が前に出てくる。
侍女もアイリを庇うようにして立つ。
「アイリ姉さん…?」
「テオくん!?」
「アイリって…ローゼン侯爵家の………」
彼らの顔が青くなる。
通りの向こう側にはテオドールがたくさん荷物を持って立っていた。
「アズファールサマ、何やってやがるんですか?」
テオくんは今にも殴り込みそうな目つきだ。あんなに怒っているところは初めて見る。




