第90話 王城
学園の食堂でチームのメンバーと仲良く昼食をとっていたのだが、ルーベンがベンジャミン先生に呼び出される。
「また何か問題起こしたわね。」
「いや…何も思い浮かばない。一体僕は何をしたんですか?ベンジャミン先生!!」
ルーベンがベンジャミン先生に訴える。
「いいから、来い。ここでは話せない。」
そしてご飯の途中で呼び出された。
ルーベンは嫌々向かったのだが、話の内容を聞いてビックリ。なんと王城から呼び出しがかかった。
しかも今から……。
「先生。僕の事は忘れないで下さいね。」
「はぁ。とにかく粗相のないようにな。」
(さぁて。街道整備をした成果がやっと王城まで届いたかな。作戦通りだけど、果たして誰が出てくるか…。)
ルーベンは王城へと向かった。
富裕層と呼ばれる城壁に囲まれたエリアに入る。
もちろん、門兵がいるのだが、王城の手紙を見せる事で問題なく通過する事が出来た。
これで入るのは2度目なのだが、1度目は剣聖アーサー様との会談の場。ベンジャミン先生の馬車に乗って向かったので周りは良く見えなかった。
「ここが貴族街と呼ばれる所か。確かに建物一つ一つが豪華だ。貴族が住むエリアなだけあるな。それにゴミひとつ落ちてないぞ。一般層とは大違いだ。」
それに歩いていると、ある事に気付く。
「僕しか外にいないな。いや僕しか歩いていないと言う方が正しい表現かな。」
そう。ルーベン以外、誰も外を歩いていない。
通り過ぎるのは馬車だけ。皆んな馬車移動なのだろう。
「貴族は大変だなぁ。外を歩いた方が気持ちいいのに。」
そんな事を考えながら王城を目指す。
王城が近くになるにつれて建物も更に豪華になっていく。
「さてと…ここが王城か。遠くから見ても圧倒的なオーラを出していたけど…近くで見ると更に凄みが増すな。」
ついに王城に辿り着いたルーベン。
警備していた王国騎士に手紙を渡すと、すぐに待合室に案内された。
ついつい周りを見てしまう。彫刻に絵画に絨毯に。
近くで見たいが、王国騎士の人が壁際に立って警備をしている。どうせ田舎者だと思われているだろうな。
大人しく待つ事、数十分。
白髭を生やし、服装も刺繍が入った豪華な服を着ている。
どこから、どう見ても偉い人だと分かるのだが、果たしてどれ程の大物なのか。
ルーベンはその人の前で跪く。
「ルーベン•アートルドと申します。この度は王城にお招き頂きありがとうございます。」
「急に呼び出して悪かったな。私はヒュバート•ベリサリオ。ベリサリオ公爵と言った方が分かりやすいかな。今は宰相の役職を仰せつかっておる。」
(なっ!宰相公爵か…国の実質ナンバー2。予想よりも、かなり上の人が対応してくれたな。)
「ベリサリオ公爵の手腕は聞き及んでおります。私を呼びましたのは、街道整備の件でございますね?」
「そうだ。話が早くて助かるよ。まだ幼いというのに聡明な子供だ。ミールの町までの街道は私も見た。あれを1日で完成させたというのは本当かね?」
「はい。少し細部まで拘りましたので時間はかかりましたが、街道だけを平らで頑丈な道にするだけならば3時間程あれば出来ます。」
「それは本当か。ふむ……。正直驚いておる。実力のある土魔法使いを1000人集めても1日で出来るかどうか。それ程の工事を1人でやるのだからな。しかも3時間ときたか…。ハハハッ。」
「はい。」
「今回の件で君の事は多少調べた。5歳で初陣を経験し、功績の影には必ずと言っていいほど君がいる。意図的に隠そうとしている事もな。それで何を望む?今までその力を隠していたのだろ?なぜ今になって騒ぎになる様、自分から動いた?金の為ではないようだしな。」
「簡単な話です。今の状況が、なりふり構っていられないからです。自分から動く事で、国に自分が有能だと思わせる為に力を使いました。このままでは必ず魔族と戦争が起きます。ちなみに僕は『豪』の称号を2つ持ってます。土と闇を。」
「2つもか……。その話は私も剣聖アーサーからの報告で聞いている。でも証拠もなく国軍を動かす事は出来んのだ。100年続く平和条約もあるしな。理由もなく破ってみろ、それこそ2国同時に狙われて王国が滅ぶ。そういう決まりがあるのだ。」
「分かっています。だからこそ街道整備なんです。それなら堂々と国境を越えられる。アスタリア王国が唯一、ガンダリアン魔国領と交易している町、ガンダリアン魔国領のバイロン町。確か今は国境を少し越えた所まで整備が完成していますよね?その先を僕達4名に整備させて貰えませんか?チームを組んでいます。完成する間に魔族が戦争を起こそうとしいる証拠も掴んでみせます。その許可を頂きたく力を使いました。お金もかからず、安全に町に潜入出来ます。」
「確かに我が国がバイロン町までの道の整備はしているが、なぜ君達がそこまでするんだ?」
「戦争を止めたいからです。誰かがやらなくちゃ止められない。僕は魔族に殺された人達を何人も見てきました。救えなかった……だから止まっていてはダメなんです。このままじゃ更に多くの人が犠牲になる。1人でも多く救えるように、やれる事はやりたい…それが例え危険な道であっても。その為に鍛錬してきました。力は示しました…後は国の許可を貰えれば、必ず証拠を掴んで見せます。」
「ふむ……。」
「お願いします。」
「君の考えは分かった。確かに考える余地はある。力がある事も認めよう。……少し待っておれ。」
そう言って待合室から出て行ってしまった。
果たして答えは出るのだろうか。
待つ事、1時間。
ガチャ。
部屋に入って来たのは3名。
宰相ヒュバート•ベリサリオ公爵。
剣聖アーサー•ヒル。
そして初めて見る美人な女性の方。
茶髪で体型はスラッとしている。
公爵と剣聖と並び歩いている事から偉い人なのだろう。
「お久しぶりです。アーサー様。そして、お初にお目にかかります。僕はルーベン•アートルドと申します。」
「私はブルーナだ。王国騎士第5部隊の隊長を務める。よろしく頼む。ルーベン。」
なんと王国騎士の隊長だった。
確か…第5部隊は実力もあり、前線から裏方の任務もこなす、何でも屋として有名な部隊。
(でも…なんで、第5部隊の隊長さんが?)
考えているとアーサー様が話に加わる。
「以前ルーベン君には言ったね。ガンダリアン魔国領を偵察しようとしていた事を。私の知り合いで偵察が得意な者がブルーナだ。ブルーナには1人で潜入してもらおうと思っていたが、ルーベン君の話を宰相公爵から聞いてね。ブルーナと街道整備を口実に偵察してもらいたい。ルーベン君の能力とブルーナの能力を使えば確実に証拠を掴む事が出来ると思って、私が進言したんだ。それに君達に何かあった時はブルーナが守ってくれる。」
「そういう事でしたか。ありがとうございます。分かりました。必ず成功させて戻ってきます。それならば僕の能力を詳しく説明しますね。」
そして宰相公爵、ブルーナさんにもルーベンの能力を説明した。相手の事を調べられる能力に驚きの表情を浮かべていたが、ブルーナさんの能力を聞いたルーベンも同じ表情を浮かべた。
「確かに…ブルーナさんの能力と僕の能力を使えば、安全かつ確実に証拠を掴めますね。では、さっそく日程を決めましょう。僕達の人数は4名。学園は休校する事になるので、ウィリアム校長には説明して頂けると嬉しいです。」
こうしてバイロン町の偵察任務が決まった。
後、ベリサリオ公爵には学園の休みの時に、他の街道整備もお願いされた。
断る理由もないので、もちろん冒険者ギルドに指名依頼をお願いします。と答えたのだが、皆んな苦笑していたな。
当たり前だ。お金も必要、冒険者のランクも上げなくてはならない。
最後にベリサリオ公爵に聞かれた事がある。
「ここだけの秘密にする。ルーベン君の魔力量はいくつなんだ?」
(そりゃ聞いてくるよな。アーサー様も聞きたかったのだろうが、あえて触れなかったんだと思う。もう隠す必要もないか。戦場に行けば分かる事だ。)
「分かりません。魔道具の水晶では測れませんでしたから。」
ルーベンはそう言った。
魔道具で測れる魔力量は999まで。
歴代最高の魔力量は大賢者テオドールの900。
その意味を知っている3名は今日一番驚いていた。