第89話 兄貴
ルーベンは朝練を毎日欠かさずに行う。
それは5歳からの習慣になっている。
今日も朝早く、学園の訓練場で素振りをしていた。
シュッ!……シュッ!……シュッ!
基本の型を一通り素振りをするのだが、型も音も実力のある剣士だと分かる。
「ふぅ〜。いい汗をかいた。ん?あの子は?」
いつもはルーベンを含めて朝練をしているのは数人程度なのだが、初めて見る顔の少年が素振りをしている。
バッジに星が1つ。1年生だと分かった。
テオドール学園では、バッジの着用が義務付けられている。単純に星の数が学年を表す。
ブンッ…!ブンッ!…ブンッ!
もう少し腰を据えて、剣を振る角度を若干変えれば良くなるのになと思っていたのだが、練習中に声をかけるのも悪いと思い。その子が素振りを終えるまで待つ事にした。
(暇だしな…鑑定!!)
名前 ガスパー•ウッド
種族 人族 8歳
状態 ー
武器 盾(A) E
剣(D) D
魔法 火(C) D
魔力量 74/74
スキル なし
称号 なし
(ふむ。ふむ。まぁ僕も剣のレベルがカンストしていても、剣の修行は続けているし、意味があるとも思っているけど……勿体無いな。盾のレベルがEってことは、ガスパー君は盾の修行をほとんどしていないのでは?以前のマルク兄さんと一緒かな?)
「おい。何見てんだ!!邪魔だからどっか行け。」
(なんか…口調といい、悪ガキみたいな見た目といい、小さい頃のマルク兄さんに見えてきたな。)
「聞こえてるだろ?こっち見るんじゃねぇよ。」
「ごめん。ごめん。少し君の素振りが気になって、腰を落として…肩の力を抜いて、それから……。」
説明している最中に声を上げてきた。
「うるせぇ。ザコ剣士の癖に教えてんじゃねぇ。剣聖様でも呼んで来るんだな。そうしたら聞いてやるよ。」
(落ち着け…ルーベン。たかが子供の言うことだ。僕は大人だろ。そうだ…広い心で対応しよう。)
「そうだね。でも僕の父上は剣豪なんだ。だから型なら教えられると思ってね。」
「フッ。剣豪?オレは剣聖様を呼んで来いって言ったんだ。剣豪なんてお呼びじゃねぇ。豪の称号なんてコロコロ変わるザコ剣士じゃねぇか。分かったらどっか行け。」
プチンッと何かが切れた音がした。
「ルーベン!!」
誰かが僕を呼んでいる。
でもこのガキをボコボコのバキバキにして…。
「ルーベン!!」
肩を揺さぶられ、我に返る。
「はっ。僕は一体何をしようと。無意識のうちに、このガキを土に還そうとしていたのか?それよりも、ナタリー?なんでここに?」
「私も朝練しようと来てみたら、丁度ルーベンが見えて、ガスパーを襲おうとする雰囲気だったから止めたのよ。事情は大方想像がつくわ。ガスパーは口が悪いから。同じ剣術科で、誰にでも突っ掛かるの。素直になれって言ってるのに。」
(なぜかナタリーが来てから、大人しくなったな。もじもじして……ふふふ。僕は気付いてしまった。ガスパーはナタリーの事が好きなんだな。一目惚れってやつか。)
「ガスパーって言ったな。ちょっと耳を貸せ。ゴニョゴニョゴニョ。」
ルーベンはガスパーにある事を提案した。
ナタリーは団体戦のメンバーだと言う事。
それにガスパーもメンバーになってみないかと提案したのだった。そしてナタリーを落とせるとっておきの方法があると。
それを聞いたガスパーは手を握って頼み込んできた。
「ルーベンの兄貴と呼ばせて下さい。兄貴!ぜひその方法を教えてもらえないでしょうか。」
(チョロい奴だ。マルク兄さんよりも……。)
「どうだ。ナタリー。僕とガスパーは勘違いをしていた。もう仲良しだから大丈夫だぞ。朝練してこい。」
そう言って、ほぼ無理矢理、ナタリーを朝練に行かせた。
「それで、兄貴!ナタリーを落とす方法とは?」
「焦るなガスパー。まず話を聞け。いいか…想像しろ……団体戦で1番危険なのは、相手と接近して戦う前衛達だ。ナタリーは知っての通り前衛だ。ナタリーは強い!!それは周知の事実。敵なら強いナタリーを最優先に狙ってくるだろう。周りから攻撃を受け危険なナタリー。そこにガスパーが助けに入ればどうなる?」
「はっ!!オレが敵をボコボコにして、危険になってるナタリーを助ける……完璧だ。完璧な作戦です。でもオレには、そんな力がありません。……あっ!だから素振り教えてくれようとしていのですね。生意気言って、すみませんでした。」
『バカやろー!!』
「ガスパー!!よく聞け!!お前に相手を倒す力はない。剣術を頑張っても底が見えている。」
「なっ!なんでそれを。兄貴は何でも分かるのですね。」
「そうだ。ガスパーが盾術の才能を持っている事もな。」
「なっ!!!!!」
「そして…ガスパーが盾術をカッコ悪いと思っている。その考えは違うぞ。盾術には盾術のカッコ良さがある。もう1度想像してみろ……ナタリーの元に相手の全身全霊の攻撃が迫る。まずい…避けられない……そこにガスパーが割って入り、軽々と攻撃を受けてナタリーに言うんだ…『安心しろ。防御はオレにまかせろ』と。仲間に傷を1つも負わせる事のない、最強の盾ガスパーの誕生だ。」
「兄貴!!オレやります。盾なんか地味でカッコ悪いと思ってました。盾術を教えて下さい。」
「だから焦るな。女の子は余裕のある男の方が好きなんだ。ガスパーに盾術を教えてくれる師匠にも心当たりがある。それは僕の兄、マルク兄さんだ。盾術も剣術も一流でガスパーの力になるだろう。」
「兄貴の兄貴。大兄貴ですね。」
(ガスパーはマルク兄さんと上手くやってくれるだろう。なんせお互い単純でバカだからな。これで上手くいったな。7人目のメンバーになってくれそうだ。)
こうして、ガスパーが7人目のメンバーに決まった。
マルク兄さんは、大兄貴と呼ばれ、子分が出来たみたいで嬉しそうに教えている。単純で良かった。
将来ガスパーは大楯のガスパーとして名を轟かせるのだが、恋の結果は、また別のお話で。




