第86話 闇魔法
D級冒険者に昇格した次の日。
ルーベン達は学園で授業を受けていた。
入学してから1週間。徐々に生活にも慣れてきた。
そして今日の午後は魔法の実習授業。各々、実力を伸ばす為、魔法を使用している。
そこでルーベンはある人物に話しかける。
「クレア。良かったら今日の実習一緒にやらないかな?力になれると思うよ。例えば君の闇魔法とか。」
クレア•ブルックリン。同じ魔術科で闇魔法の適正があるクラスメイト。
「えっえっえぇ〜!!そ、そんな学年トップのルーベン君に迷惑かけるから、それにアモちゃんもリリーちゃんも怒るよ。きっと。」
どこか、自分に自信がないのか、おどおどするんだよな。
「なんでアモとリリーが怒るんだ?気にしすぎだから。それに自身の闇魔法が分からないのだろ?僕も最初はそうだったからね。1度騙されたと思って僕の言ったことを試してみてくれないか?」
「う〜ん。そ、そ、そこまで言うなら。ルーベン君なら分かるかもしれないし。教えて欲しい…ずっとやっても発動しなかったから。」
これでクレアの了解を得る事が出来た。
アモもリリーも自分の魔法訓練を辞めて、注目している。
ルーベンが鑑定して、クレアの闇属性の魔法名は『黒墨』。内容まで分からないけど、墨だから…墨で何かを書いたり、墨で何かを塗り潰したり、色々な可能性を思い浮かぶ。
クレアは魔法の才能は高い方だ。
魔力の操作、制御は同学年の生徒より上手く出来ている。
そして、まず黒色の墨をイメージして、魔法を発動してみよう。とルーベンは提案する。およそ30分後。
「おぉ〜出来てるぞ。その調子だ。」
「やった。出来た!出来てますぅ。」
なんと手のひらから、少量の墨がポタポタと落ち始めてるではないか。クレアも嬉しそうだ。鑑定の儀から3年間、発動方法も分からない中、頑張ってきたのだろう。
それを見ていたリリーが声を上げる。
「発動したのは嬉しい事ですけど…この墨に何の能力があるのかしら?」
近付いて見ていたリリーだが、落ちる一滴の墨を指先で触ろうとするが、慌ててルーベンが止めに入る。
「待て、リリー。迂闊に触らない方がいい。能力の詳細が分からないからな。毒だったらどうするんだ。」
リリーも納得して手を素早く引っ込める。
それから黒墨の能力を慎重に調べ始める一同。
結果、黒墨は毒ではなかった。アモが調べてくれた。
それなら黒墨を使って色々な文字を書いてみたり、ルーベンが発動した石弾にかけてみたりしたが、何も変化はない。
最後に鑑定を発動しながらルーベンの腕に黒墨を塗ってみる。何か起こればアモが対処してくれる。
すると…塗った黒墨が腕に吸収される様に消えていく。
「これは!?」
アモが慌てて回復魔法をかけようとするが、ルーベンが制止した。興味深い解析が出ているから。
名前 ルーベン•アートルド
種族 人族 8歳
状態 黒墨
武器 剣(C) C
弓(C) D
魔法 ■(A) ■
闇(S) B 闇纏
雷(SS) A
魔力量 50100/50100
スキル 魔術(中) 魔力感知
称号 雷王 土豪 闇豪
固有 神の目 神の魔法
腕に吸収されると同時に、状態が黒墨となり、土魔法が塗り潰された。
土魔法を発動してみたが……予想通り発動しない。
(やはり…そういう魔法か。)
「分かったぞ。『黒墨』の能力が!!」
それから黒墨の能力を説明した。
土魔法が黒墨により使えなくなった事を説明する。
その効果に皆んな驚いている。
今まで魔法を使えなくする、魔法なんて聞いた事がないからだ。危険な能力、ひとまずは4人の秘密にする事にした。
『しかし本当に面白い魔法ですね。もっと調べる必要がありますね。塗り潰せるのは1つ?使えなくするのは魔法だけでしょうか?武器の適正やスキルは?今ので30秒程、それなら量を多くすれば黒墨状態も伸ばせるのでは?それには闇属性のレベルアップが必要ですね。ん〜。でも塗り潰せる適正を選べる様になれば…相手にとって最悪の能力に………ブツブツブツ。』
「はぁ。……あれは…いつもの事よ。自分の世界に入ると、こうなるの。クレアもこれから大変ね。ルーベンは知りたい事があると周りが見えなくなって、とことん突き詰めるから。良い所でもあり悪い所でもあるけど。頑張ってクレア。」
アモはそう言ったが、クレアは嬉しかった。
魔法が好きで、もっと伸ばしたくてテオドール学園に入った。結果は100位とギリギリだったけど。
「あのっ!ルーベン君。あ、ありがとう。これを伸ばして力をつけたら…これで私も皆んなの役に立てるかな?そしたら団体戦のメンバーに……ごにょごにょ。」
クレアも不正については思う所があった。
ルーベンが団体戦のメンバーを募集しているのも知っている。貴族の人が裏ではメンバーに入るなと圧力をかけている事も……それは違うと思った。力になりたい……だけど力になれない…私には力がないから。
でもこの能力を伸ばせば…変えられるかもしれない。
「いいの?クレアの事は団体戦のメンバーに誘おうと思ってたんだ。クレアは魔法の才能があるからね。絶対に伸びると思う。これからは一緒に頑張っていこう。」
こうして6人目のメンバーがクレアに決まった。
アモとリリーも大歓迎の様子。
それを横目で見てるクラスメイト。
「ハハハッ。100位を仲間にしやがった。メンバーが見つからないからって、そんな出来損ない。これで優勝なんて無理だな。アハハッ。」
そう言ったのは、魔術科1年コナー•ピーターソン。
周りに何人も取り巻きがいる。
親はピーターソン男爵家。
ルーベンも裏で貴族達が手をまわし嫌がらせをしてるのは知っていた。
そんな事をすると思ってもなかったので流石に呆れたが、でもクレアを馬鹿にしたのは許せない。
「クレアは出来損ないじゃない。武闘大会を楽しみにしているんだな。クレアの本当の実力にきっと皆んな驚くぞ。そしてコナー!!裏で動くのは自由だけどな……次、仲間の事をバカにしてみろ……僕が相手をしてやる。今回だけだ。分かったら消えてくれ…今は魔法の実技。貴族ごっこの時間じゃないからな。」
ルーベンはコナーを睨みつけて、そう言った。
「あんな事言ってますよ。」「やっちゃいましょう。」
「コナー君の魔法なら、あんな奴。」
取り巻きが好き勝手言っているが、コナーは睨みつけられて怯えている。ルーベンの実力を知っているからだ。
「行くぞ。用事を思い出した。あんな言葉で怒るとは、結果は武闘大会で分かるさ。」
そう言って取り巻きと一緒にいなくなってしまった。
「クレア。皆んなの驚いた顔が目に浮かぶな。団体戦は学年代表チームを1チーム決める予選がある。あいつらも団体戦に参加するだろう。その時はクレア1人であいつらの相手をして貰う事にしようか。ふふふ。」
リリーもクレアもルーベンの事を分かっていない。
この時は冗談を言っていると思っていた。
まさか本当に学年代表を決める予選でクレアが1人でコナーとのチームを相手にする事になるとは…。