第77話 5つの…
ウィングとレオンが現れた瞬間ルーベンは叫んでいた…ある人の名前を。
『レオンさん!!』
レオンは一瞬目を見開いたが、魔物化したゾーイの攻撃を片手で軽々と防御した後、そのまま押さえ込んだ。
「早くやれウィング!!」
「流石レオンさん。」
押さえ込んだゾーイにウィングが魔力を送り込んでいる。
すると暴れていたゾーイがおとなしくなり動かなくなった。
「レオンさんの名前を呼んでいますヨ。あの子供は誰なんです?それにしてもゾーイがやられるなんて、興味がありますねぇ。あの子供…ついでに連れて帰りましょうヨ。」
ウィングはルーベンの事を気が付いていない。
それもそうだ。エナ村の事件は3年前。
ルーベンは身長も伸びたし、顔も少し変わった。それにあの時は遠くからしか見られていない。
「あいつは冒険者時代の知り合いだ。あいつは私が倒すと決めている。今はその時ではない。ウィング!!手を出したら殺すぞ!!約束はゾーイの回収だったはず。」
レオンはウィングを睨みつけている。
「分かりましたヨ。戻りましょう。」
そう言って胸にかけてある魔道具に魔力を流すと、また黒いモヤが発生した。
また転移するつもりの様だ。
ルーベンはレオンの元へ駆け寄った。
色々聞きたかったから。
でも…もう行ってしまう。
「ハァハァ。待ってレオンさん。戦争は僕達が止めますから…魔族の領民に手は出させません。だから…だから…」
ルーベンの言葉をレオンが遮った。
「どうやら強くなったみたいだな。魔将ゾーイを追い込むとは成長した。でも何か勘違いしているようだ…私はゾーイと同じ魔将!!魔将レオン!!もう遅いのだ。次に会う時があれば戦場…魔族の為に必ず人族を滅ぼす。嫌なら殺しに来い。そうでもしなければ私は止まらぬぞ!!」
ブンッ!!
そう言って目の前から消えていった。
こうして予想だにしない形でディアマンテ鉱山での戦いが幕を降ろす。
それぞれが複雑な心境を残して……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後はすぐアモとナタリーと合流した。
お互いの事の顛末を話しながら
折れているであろう骨の治療をアモにお願いした。
ゾーイの魔物化。ウィングとレオンが回収しに来た事。
レオンの決別とも取れる言葉。
少し情報の整理が必要だ。
アモもナタリーも、そんな事になっているとは思っておらず、驚いていたけど。
まずは生きて戦いを終えたこと。
そして何よりゴールドロックドラゴンの討伐に喜んだ。
しかしナタリーが良くやってくれたと思う。
そこからその場で2時間程、休息をとった。
魔物は周りにいないし、目の前に倒れているゴールドロックドラゴンのツノを回収しなくてはならない。
それにアモが周りを探索した結果。
メタルロックドラゴンのツノを2本発見していた。
おそらくゾーイが置いていた物だろう。
それには皆で大喜び。
回復した所でルーベンがツノを回収しに動く。
1時間程で骨がくっつくのだから、アモの腕も上がった。
硬くてなかなか折れなかったけど、なんとか回収することに成功する。
この黄金に輝くツノは、おそらくオリハルコン。
もしそれが事実なら一生遊んで暮らしていけると言ったら、2人は動かなくなった。
でもオリハルコンの武器は憧れるから、売りたくないんだよなぁ。
これは後で皆と相談する事に決めた。
これで目標としていたツノを得る事が出来た。
ナタリーは全快とはいかない、だからゆっくりと下山する事にしよう。
今回は相手との相性が良かった。
魔物化は別として、魔法主体の遠距離型。
最も得意とするタイプ。
それに体力も魔力も向こうは初めから減っていた。
有利な状態からの戦闘。
それなのに蓋を開ければ結局は逃げられた。
反省点を上げればキリがないが
1つ上げるとすれば、剣術での戦闘。
鞭の攻撃に対応出来なかった。ゴールドロックドラゴンには威力が足らずダメージを与えられない。
まだまだ鍛錬が必要だな。
もちろん嬉しい点もある。
何よりナタリーとアモの成長だ。
上級の中でも、おそらくトップクラスであろう魔物の討伐をやってのけた。
後は、雷魔法を使う事も考えていたが、使わないでも称号持ちを追い込む事が出来た。
これらは何より自信に繋がる。
まだ雷魔法は使えない。追い込まれればその限りではないが、相手にまだ情報を与えたくない。
本当に今回は運が良かった。
まずは無事に戻れる事を喜ぼう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜魔王ディノン〜
「…………という事です。魔将ウィング様と魔将レオン様からの報告は以上になります。」
「そうか。ゾーイがやられ自ら魔物化に手を出したか。この時期に魅了のスキルを失うのは損失が大きいな……ウィングには引き続きゾーイの魔物化を戻せないか研究を続ける様に伝えよ!!もし無理でも魔将の魔物化だ。安定させれば戦力にはなろう。あと世界にいる『王』の称号を持つ魔物達はどうなっている?」
「それが…現在、居場所を特定出来たのが2つ。1つは有名な『竜王』ですが、魔王様の指示通り手は出しておりません。もう1つの場所のベルンド帝国にいる『蛇王』の所に2人の魔将が向かっていると報告がありました。残りは調査中です。」
「あの2人か。それなら問題ないな。本格的に動くまでは誰も死ぬ事は許さぬ!!そう伝えておけ。下がっていいぞ。」
「はっ!!」
(厄災竜と呼ばれる、『竜王ガノンドロフ』は、時が来たら我が相手をしよう。)
「フハハッ。あと少し。あと少しで……。」
こうして新たな動きが起ころうとしていた。
舞台はベルンド帝国。
世界に5ついるとされる『王』の称号を持つ魔物の1つを狙って。
その名は『蛇王ザッハーク』
その凶暴性と強さから、およそ1000年前。
若かれし頃の大賢者テオドールにより封印された。
この事件をきっかけに、世界は大きく動くことになる。