第76話 魔将ゾーイ
少し時間を遡る。
ルーベンとゾーイが向かい合い
2人の魔力が膨れ上がる。
ゾーイは魔力暴走を使用している状態。
1度は効果により魔力を回復したが、度重なる攻防によって魔力残量は半分程になっている。
無駄撃ちは控えたい所。
まず先に動いたのはルーベン。
純黒の剣を握り、接近戦に移行しようとするが、ゾーイが伸縮自在の鞭を操りそれをさせない。
不規則な動きをする鞭を避けるので精一杯。
「ちっ!鞭はここまでやっかいなのか。」
逆にルーベンが追い詰められ、遂に剣で鞭の攻撃を防いだ。すると予想していた通り、剣に鞭が絡みつく。
単純な引っ張り合いなら、身体強化されているルーベンに分がありそうだが、ゾーイの狙いは他にあった。
「これは!?」
先程からゾーイの魔力が鞭を伝わりルーベンの身体に流れ込んで来る。
そして同時に甘い匂いも漂ってきた。
そう魅了を発動している。
相手を操る、誘導するなどの操作系のスキルには条件があるのは知っている。無闇矢鱈に操作出来るのなら無敵だからな。
魅了の詳しい発動条件は分からないが、一連の行動から匂いで誘惑して、相手に自分の魔力を流して虜にする感じだとルーベンは推測した。
それなら流れ込んで来る魔力を自身の魔力で押さえ込む。
これは魔力の制御、操作に長けた者にしか出来ない。
それに圧倒的に魔力量の多いルーベンは力技でも押さえ込む事が出来る為、魅了にはかからないのだが、ゾーイは初めての経験だった。
ゾーイの魔力総量は385。更に魔力暴走により魅了の威力も上がっているし、水聖の魔法使い。制御にも操作にも自信があるのに、1つも自身に見向きもしない所か、魔力が逆に押し込まれ始めた。
これによりルーベンを上位の称号を持つ魔法使いレベルと判断した。『王』の称号も可能性の視野に入れて。
「スキルの魅了を使っているな?これで冒険者を操ったな!!お前の魔力が流れ込むのは気持ち悪いから辞めてくれ。僕はおばさんには興味がないんだ。」
「そう…私の物にならないなら、ゴミと一緒よ。おばさん呼ばわりした事を後悔するのね。」
ゾーイは魅了を諦めた。
これでは魔力の無駄使い。同時に鞭も元に戻す。
ゾーイが水槍を使用する。
相変わらずの魔法の発動速度。
先程は黒炎の槍で威力は互角だった。
しかし発動速度に明らかな差がある為。
ルーベンは土壁に闇纏を使用した、純黒の壁を使用した。
放たれた水槍が純黒の壁に激突。
ドンッ!!
結果は…貫通こそしないものの、一撃で破壊。
「アハハッ。分かっていると思うけど、同時に発動出来るわよぉ。」
そう言ったゾーイは自身の周りに4本の水槍を作り出す。
「これが最後の忠告よ。私の仲間になりなさい。そうしたら命だけは助けてあげるわぁ。」
ルーベンはずっとゾーイを睨みつけている。
今までに見た事のない顔で。
「そう…それが答えなのね。残念ねぇ。」
そう言って水槍を4本同時に発射する。
威力はもちろん変わらない、今からでは防御も避けることも出来ないだろう。
しかしルーベンは静かに右手を魔法に向けた…。
「闇魔法•闇纏、領域侵食!!」
ある魔法を発動した。
瞬間、ルーベンを中心に半球状の透明な障壁が出現。
範囲も徐々に広がっていき
そこに向かってきた水槍は障壁を通過すると同時に闇に包まれる。
黒くなった水槍はルーベンの支配下に置かれた。
領域侵食は、自身の領域を設定して、そこに入ってきた魔法に闇を纏わせる事で自身の支配を得る闇魔法。
もちろん膨大な魔力を必要とするが、ルーベンの魔力量により問題はない。
領域の範囲はおよそ半径10メートル。
生物や無機物には作用しない。魔力の篭った魔法のみ作用する。魔法使いにとっては最悪の能力。
自身の放った魔法を奪われたゾーイは驚愕の表情を浮かべている。
「なっな何よ!その魔法は!!」
そんなのはお構いなしに黒に染まった水槍をゾーイに向けて発射した。もちろん闇纏の能力で威力は一段上がっている。
「くっ!?あなたは一体なんなのよ。」
ゾーイも水盾や水鞭で対抗するも、すべてを防げるはずもなく。
「ぐはぁっ!!」
1つの水槍が右肩を抉りとった。
その光景を見たルーベンは
「勝負あったな。その肩じゃ満足に鞭も振るえない。いまの攻防で頼みの綱の魔力暴走も切れた。魅了も僕には効かない。最後に答えろ。お前達魔族の計画はどこまで進んでいる?それと魔王ディノンについてもだ。」
「アハハッ。本当に何者なのよぉ。そうね……お姉さんに勝ったご褒美にひとつだけ良い事を教えてあげるわ。これを見て…これは魔物種子と言って、魔族が飲めば魔物化するの!!」
ゾーイは胸の間から取り出した魔物種子と説明した物を口の中に入れて飲み込んだ。そして魔力を体内で練り始めた。
「本当は使いたくないのよ。醜くなるから…でもぉあなたを殺せれば…そ…れ………で……あっあぁあっあアァー。」
一瞬の事でルーベンも理解するのに時間がかかる。
魔物種子?魔物化?
ゾーイの体が光始める。
白い煙が身体中から上がっている。
ルーベンも咄嗟に石弾で攻撃したが…突然の衝撃により弾き飛ばされた。
「くっ!?一体……。」
煙が晴れて出て来たのは、全身の肌が真っ赤に染まり、肉も膨張して先程のゾーイとは似ても似つかない生物が立っていた。
「ググガガガッ!!ココロロロス。」
「ゾーイか?あれが魔物化。おい!!分かるか?」
「ゴ…ゴコロ…ス。」
「ダメだ。完全に魔物化してやがる。鑑定!!」
名前 ■■■
種族 魔族 魔物
状態 魔物化
武器 鞭(■) B
魔法 水(A) A
%(C) ■
魔力量 ■%385
スキル 魅了 魔力暴走
鞭%2(中) 魔術(大)
称号 鞭% 水聖
「!?鑑定も出来ない。無理矢理に魔物化した影響か。仕方ない……もう殺すしか…。」
すると、視界から魔物化したゾーイが消えた。
瞬間、ルーベンは横っ腹に蹴りを喰らい、そのまま岩山に衝突した。
ドンッ!!
「グハッ!!」
(まずいっ。この痛み。骨が何本かやられたか。)
「くそっ。油断した。まさかここまで身体能力が上がるとは。しかし対応は出来る。」
すぐに起き上がり、痛みを堪えながらも攻撃を開始した。
相手は接近戦しかして来ない。
スキルや魔法といった能力も頭には入れていたが、使う様子もない。使えないと判断するのが妥当だが、それよりも抉れて無くなっていた右肩が治っていた事。
この魔物種子という物も大量にあるとすれば、魔族との戦闘も変わってくる。
魔族が魔物化するのであれば、確実に息の根を止めないと、傷を回復して身体能力も上がり襲ってくる事になる。
1つでも情報が欲しいルーベンは、観察しながら戦っていたが更に驚愕の出来事が目の前で起きた。
魔物化したゾーイの側に黒いモヤが出現して、その穴から…ある人物が2人出て来た。
ルーベンは、すぐにその場から距離を取る。
「反応があり急いで来てみれば……魔将に持たせてる魔物種子を最初に使うのがゾーイだとわ。あなたは使わないと思っていたんですがねぇ。魔将の魔物化……いいですねぇ。連れて帰りますヨ。」
「そうだな。私が止めておく。その隙におとなしくさせろ。」
あの2人の顔は忘れない。
『ウィング』そして………『レオンさん』!!




