第75話 ゴールドロックドラゴン
反対側で魔力の高まりを感じる。
ルーベンとゾーイの戦いが始まろうとしている。
そしてアモとナタリーもゴールドロックドラゴンと向かい合っていた。
「アモ。お互いを信じ合うと言うのは、ここまで力が湧いてくるのだな。」
ナタリーは今までにない気持ちになっていた。
胸の奥から湧き上がる、とてつもないパワー。
村では時間があればずっと1人で鍛錬をしていた。
周りは農業をするのが当たり前だったから。
ルーベン達と出会って自分の小ささ、
そして世界の広さを知った。
自分の為に拳を振るって来たナタリーには、仲間は邪魔な存在だと思っている部分もあった。
しかしルーベンとアモと出会い、それが変わる。
自分だけの世界から、皆の世界へ。
鍛錬をするのは、この時の為だと、
仲間を守り、相手を倒す為にあるのだと。
そう昔の自分に伝えたい。
信じる仲間がいる。
仲間から信じられている自分がいる。
なんて幸せな事だろう。
でもゴブリンキングの時は何も出来なかった。
ルーベンと組手をしても勝った事がない。
今だって魔法で守ってもらった。
自分は弱い。
そんな事は自分が良く知っている。
…それでも信じてくれる。
2人は優しいから
弱くてもきっとそばに置いてくれる。
甘えるな……。
それじゃダメなんだ。
もっと強く。強く。強く。強く。強く。
この世界を一緒に救うって決めただろ。
そばに置いてくれるのではなく!!
肩を並べて、そばにいる存在に!!
「「「強く!!!」」」
そう己の魂に刻み込め!!
『セカンドギア!!』
ドンッ!!
ナタリーの腕全体にオーラが纏う。
地面を蹴ってゴールドロックドラゴンの腹付近まで移動する。
相手は気が付いていない。
そして下から上に拳を振り上げた。
「「「発勁!!!」」」
新たなスキルの発動。
元から化ける片鱗はあった。
自身の気持ち(内)と身体(外)の動きが一致する。
その能力は衝撃を伝えて内部から破壊する。
その衝撃によりゴールドロックドラゴンは初めて苦悶の表情に変わる。
「ゴッガァ!!!」
何をされたのか分からないが、危険と判断。
下にいるのなら、押し潰せばそれで終わりだと、そのまま倒れ込む。
ドシンッ。
しかしナタリーは空中に浮かぶ石弾を足場にして今度は背中の上に移動していた。
やる事は、ただ1つ。
「「「発勁!!」」」
かなりのダメージ。しかしまだ倒れることはない。
流石、上級でも屈指の防御力。
それならとナタリーは
『サードギア!!!』
もう一段ギアを上げた。
今度は身体全体にオーラを纏った。
純黒の鎧とオーラの輝きにより、黒く光っている。
そこからはナタリーの独壇場だった。
援護しようと離れていたアモですら、ナタリーの動きについていけない。
ゴールドロックドラゴンのスピードでは攻撃を当てる事は出来ないだろう。それ程の圧倒的な速さ。
スキルや魔法も使える暇など与えない。
その怒涛の攻撃は倒れるまで続いた。
「おぉー。これで終わりだぁー。」
ドンッ!!
「ゴゴガ……ガァ…ァ。」
ドシンッ!!!!!
「ハァハァハァハァ。倒したぞ。これで…次は…。」
ナタリーが倒れる前にアモが支える。
「もう…いいのよ。あっちはルーベンがなんとかしてくれるわ。それよりも…回復魔法!!無理しちゃって。私の出番も残しときなさいよ。……でもありがとう。凄かったわ。」
そう言って、回復魔法をかけていく。
「ハハハッ。こんなに暖かいのだな。アモの回復魔法は。これならすぐに………うっ!イテテ。」
「いい加減にしなさい。筋肉に負担が掛かりすぎてるわ。無理しないで安心して横になってて。きっとルーベンが勝って戻ってくるから。」
「そうだな……すまない。本当は限界だった…少しだけ目を瞑っていいか?」
「えぇ。お疲れ様」
ナタリーはゆっくりと目を閉じた。
こうしてゴールドロックドラゴンの討伐が完了した。
アモはルーベンのいる方を見つめる。
「ルーベン必ず勝って戻ってきて…。」
膝枕しているナタリーを必死に看病しながら。