第60話 夜更け
ゴブリンキングをあっさり倒し、討伐の証拠に耳を切り飛ばす。そして村に戻ろうと出発するのだが。
「ギャァーーー。やっぱり怖い。降ろしてぇー。」
「もっと高く飛んでよぉー。」
ナタリーは忘れていた。飛んで来た事を…。
「ゼェーゼェー。もう絶対飛ばないわ。」
村に戻ったルーベン達。
ゴブリンキングの討伐、集落の壊滅を報告。
数匹程度は森に残っているだろうが、村に常駐する騎士が余裕で対応出来る。
驚かれたが、証拠の耳と集落があった場所を説明して、討伐完了が受理された。
そして臨時収入。
金貨30枚。
アモは騒いでいる。
「フランお姉ちゃんが言ってたのよ。王都に可愛い洋服屋さんと美味しいお菓子がいっぱい食べられる所があるんだって。そこに行きましょう。」
うるさい子供は置いておくとして……ルーベンは村の宿をとり、ナタリーも部屋に呼んだ。
そして僕達の事を詳しく話した。
「………という事なんだ。」
話した事は、魔族が人族に戦争を起こそうとしているかもしれない事と、それを僕達が止めようとしている事、相手の知っている情報。最後にルーベンの能力について、神様の事は誰にも話していないので、それ以外はすべて包み隠さず話しをした。
それを聞いて断るのも自由だと、前もって話しをしていたが、ナタリーは即答で『仲間になる。』と言ってくれた。
それから、新しい仲間と乾杯すると言い出したアモ、やっぱり同い年の友達が増えて嬉しいようだ。
その夜の夕飯はちょっと豪華にした。
臨時収入もあったし。
そして2人同じ部屋で寝ると言ったアモ。
女の子同士で話す事もあるんだろう。
そしてその日は、お開きになった。
ルーベンは夜1人で考えていた。
ナタリーを誘った事。
確かに王都に行く理由の1つとして、仲間も増やそうと思っていた。自分だけで止められると思う程、自惚れてもいないし、1人では無理だと分かっている。
相手の戦力は少なくとも称号持ちの魔将が6人。魔王…そしてキリト。危険な戦いになるだろう。
それに大きな戦いになれば無傷ではすまない。死人も出るし、僕も相手を殺す事もあるかもしれない。
そんな戦いに誘ってしまった事に責任を感じていた。
ナタリーにも家族はいる。大切な人もいる。
もしナタリーを危険な目に合わせて死なせてしまったら?考えただけで怖くなった。
気がつくと1人夜道を歩いていた。
明日もう1度ナタリーに聞いてみよう。
そう思って部屋に戻ると2人が部屋にいるではないか。
最初に声を上げたのはアモだった。
「外に出て行くルーベンを見たから…分かるよ?ナタリーを誘った事で悩んでるんでしょ?でも大丈夫。2人で話したから…ナタリーも気持ちは一緒。守りたいって言ってくれた。それに1人で悩まないで、私もいる!言ったでしょ?怪我したら私が治すって。だから誰も死なせない…私が守ってみせるから。」
自然と涙が出てきた。
1人で背負い込んだ使命と重圧。
辛い事も…仲間と分けてもいいんだ。
それが溢れて、アモの優しさも心に響く。
「私はそんなに弱くないぞ。1人で抱えこむな。危険な事だと分かって仲間になったんだ。もしなにかあってもルーベンの責任ではない。それにそういう風に悩めるルーベンとアモだからこそ、一緒に居たいと思える。もう1度言うぞ!私は弱くない……将来は…。」
ナタリーも必死に気持ちを答えてくれる。
「うん。うん。そうだね。ありがとう…改めてよろしくねナタリー。」
心にあった重いものが、軽くなった気がした。
「私は?ねぇー。私は?」
何だその目と顔は…涙を流した事が今になって恥ずかしくなってきた。
「言おうと思ったけど…アモには前に言ったから。言わない。」
それを見ていたナタリーが気になっていた事を口にする。
「2人って両思いだよね。どんな所が好きなの?どうして好きになったの?教えてよ。」
ナタリーは恋愛話に興味が無いと思っていたが
どうやら女の子は皆、恋愛話が好きらしい。
ここは大人の行動をするか。
「そうだね。アモと初めて会ったのが鑑定の儀なんだ。そこで可愛い子がいるなぁって、思って…ある事件で再会して。運命だと思ったよ。それで気になっていったかな。」
「へー。色々聞きたい事があるけど、アモは?」
「………寝る。……もう寝る。おやすみらさい。」
顔を真っ赤にして走って自分の部屋に行ってしまった。
作戦通りだな。
「ルーベン。分かってやってるでしょ。だいたい分かってきたわ。あなた達の距離…アモも言われると恥ずかしがるのねぇ……それじゃ私も部屋に戻るわ。それと王都まで一緒に行っていいって事よね?仲間なんだし。」
「もちろん。馬車に空きはあるし。ナタリーこれからよろしくね。アモをお願いするよ。同い年の友達としても仲良くしてあげて欲しい。」
そう言って別れたのであった。
アモには救われてばかりだな。
王都に着いたら付き合ってやるか。
洋服屋にお菓子屋だったか。
でもフラン姉さんが一緒なのか?
それはそれで…嫌だな。
そんな事を考えながら眠りについたルーベンだった。
一方アモは……。
(もう……眠れないじゃない。あのバカ…。)