第56話 アモの武器
ドライカの街を出発して2時間。
「腰が痛い。」
「私も……。」
2人して初めての長時間の馬車移動。
道もある程度整備してあると言っても凸凹な所もあるのが、この世界。日本の道路は良かったなと思い出す。
「ドライカの街から離れるにつれて道が酷くなる。皆凄いね。これ王都に着くまで慣れるかなぁ?」
「ねぇ。私良い事思いついた。ルーベンが土魔法を使いながら進めばいいのよ。」
「……それだ!!なんで思いつかなかったんだ。僕には魔力がある。ふふふ。ついでに魔法で圧縮して固めれば……。一旦アモが手綱を握って。僕は試しに道を整備してみる。」
そう言われてアモは手綱を渡される。
(あっ。私変な事言っちゃったかな?やりすぎたなら止めるよう言われてるけど…でも皆が使う道だし。大丈夫だよね。)
そして出発したのだが、馬車に乗りながら器用に道を整備しているルーベン。
「凄い。凄い。全然揺れないし。痛くないわよ。これで行きましょ。」
「そうだね。しかも魔法の訓練にもなって一石二鳥だし。」
ついにそんな事まで言う始末。
この時アモは甘く見ていた。
進みながら整備しているので、馬車に乗りながらじゃ見えないのだ。
ルーベンが整備した道は、真っ平で固く、綺麗な道が出来上がっていた。
そしてドライカから出発して3日目。
2つの村を経由しながら進んでいたルーベン達
今日は3つ目の村を目指していた。
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ドライカの街
騎士団隊長室。
「フフッ。ロキ隊長。商人や冒険者からの報告と陳情です。」
ペンスが笑っている。
「………どうした?何か事件か?」
「事件と言えば事件ですが…それが、王都方面の街道が何者かにより整備されていまして……あんなに素晴らしい道は初めて通った!と王都方面から来た商人と冒険者達が言っています。そして…それをぜひ他の方面の町や村にもと言う声が上がってまして。実際に調べに行った隊員も本当に素晴らしい道だったと。一体誰がやったのでしょう。フフフ。」
「………。そうか…犯人はルーベンだな。あれ程やらかすなと言ったはずだが。」
「でしょうね。でも悪い事でもないですし。なんて報告しましょう。」
「………。」
ルーベンが居なくなっても頭を抱えるロキであった。
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一方その頃
父ロキが悩んでいる事など知る由もないルーベン達。
森の中を進んでいた。
ここを抜ければ今日泊まる村がある。
するとルーベンが声を上げる。
「アモ。魔物だ。ここら辺は、たまに魔物が出てくると聞いていたから魔力感知を使っていたんだけど。西側100メートル先、3体。おそらく低級の魔物だ。」
それを聞いたアモも驚きはしない。
「そう。何もなくて退屈だったのよ。それなら私がやるわ。」
そう言って馬車の上に飛び乗ると、アモは両手に赤い玉を握っている。
その両方の赤い玉に魔力を流し始めた。
すると左手の赤い玉から木が生えて弓の形になっていく。
右手の赤い玉からは、木の矢が出来上がっていく。
この弓は僕とベン爺とで作った特注品だ。
その名も『ヤドリギの弓』
マヤの森に出現する、木の姿で動く中級の魔物…トレントから採れる木と核を加工して作ったものだ。
トレントの木は熱や火に強く。頑丈でしなりもある。弓にするにはうってつけだった。
赤色の玉は、トレントの核だった部分だ。それをベン爺が加工した。核に魔力を流す事により、弓の形と矢を作る。
少しトレントについて話をしよう。
トレントの攻撃方法は自身の木の部分を伸ばして突き刺したり、絡めたりと厄介な魔物だ。
そこに僕は目を付けた。
魔力を使って伸ばしているのなら、魔力を使えば矢を作り放題では?と……。
まぁ研究の結果、流石に作り放題とはいかなかったが、1つの核で矢を1000本程作れる事が分かった。
弓にする核。矢にする核。
弓は本来、移動には不便。しかも必ず矢には数に限りがある。しかしこれがあれば2つの核を持つだけで済む。
何という発明。流石ベン爺だ。
そこのあなた……作り放題でも、所詮は木だろ?と思うだろう。
しかしそうではない。先に説明した通り。トレントの木は熱や火に強く、とにかく硬い、そして頑丈なのだ。
普通に使う矢よりも下手したら性能は上だ。
それが、ほぼ作り放題だよ?ふふふ。
パンッ!パンッ!パンッ!!
アモが馬車の上から魔物を発見し矢を射抜いたようだ。
「終わったわ。」
そう言って僕の隣に戻って来る。
一応確認したが、どれも眉間に矢が刺さっていた。
流石はアモの腕。
「低級魔物はゴブリンだったか…弱いと言っても、ここからは慎重に進もう。」
「そうね。」
そうして3つ目の村へと進み始めた。