第55話 大きな声で
明日の朝、王都に出発する。
夜は仲の良い人達を集めてアートルド家でご飯を食べた。
グルーガ兄さん、アモ、ルーカスさん。ペンスさん。ベン爺。
寂しくなると言われたけど、笑顔で見送りをしてくれた。
皆、優しい人達だ。
ルーカスさんは今も幸福亭で料理人として腕を振るっている。ベン爺も僕と一緒に様々な魔道具を作ってきた。
そういえば魔道義手、義足は、ネヴィル子爵がベン爺を考案者として国に提出した。今ではその制作方法も伝わり、たくさんの人の助けになっているらしい。
ペンスさんは相変わらず独り身だ。
でも副隊長として、それに僕とアモの弓の師匠として負けられないと日々鍛錬をしている。
王都で何かあったら、すぐに駆けつけると言ってくれた。
嬉しい事だ。
そんなこんなで夕食を食べ終え。
父ロキ、母アンネとも話をした。
皆には戦争が起こるかもしれないのは伝えてある。
父上も母上も気が気でないだろう。
でも2人とも背中を押してくれた。
頑張れと……。
日々の努力も知っているし、何よりも信じて貰える事は、力になる。
皆のおかげで自分の役割を、もう1度確認出来た。
堕神キリト、魔王ディノン。
そして6人の魔将達。
必ず倒し、戦争を止める。その事を思ってルーベンは眠りに着くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝、いよいよ出発する時間が来た。
家の前には父ロキ、母アンネ、ルーカスさんの3人。
言葉は昨日の夜に済ませてある。
それでも母アンネがルーベンとアモを抱きしめる。
「2人なら楽々合格出来ると思うけど、病気と怪我だけは気をつけるのよ。寂しくなったら帰ってきていいからね。」
ルーカスさんも袋を手渡してきた。
「お弁当だよ。今日のお昼に食べるといい。そしてアモ気をつけてな。それとルーベン君、娘を頼んだよ。」
父ロキも寂しそうだ。
「ルーベン。私は逆の意味で心配だ……いいか?絶対にやり過ぎるなよ。あとアモちゃん。ルーベンがやり過ぎだと思う時は止めてやって欲しい。」
アモも困った顔をして首を振る。
今まで止めようと思っても、止まった試しがないからだ。
それを見た大人達は笑う。確かにそうだと。
ルーベンは不服そうだが、一緒に笑い合う。
こんな幸せな場所を壊させたりしない。
守ってみせる。そう決心して、ルーベンは一歩を踏み出すのであった。
「では、行ってきます。」
「行ってきます。」
そうして出発した。
大人達は、今までの事を思い出し
離れる2人の小さな背中を見て
成長したなと涙を流す。
子供達は、寂しさや悲しさもあれど
これから起きる出来事に
胸を膨らませ歩み出す。
「アモ!まずは北門で待たせてる馬車に乗るよ。」
「うん。楽しみだなぁ。王都…それにフランお姉ちゃんにも会えるし。」
北門に着いた2人だが、手には荷物が増えている。
王都に出発することを知っている人達が
食べ物やら洋服やら持たせてくれたのだ。
それも積み込み馬車に乗る。
護衛はいらないとルーベンは断った。
父ロキも、確かに必要ないか…と納得していたし。
運転もルーベンとアモの交代で行うのだ。
「時間はあるし、ゆっくり目指そう。」
「そうだね。じゃぁーいくよ!!せーのっ!」
「「「行ってきまーーーーーす。」」」
街道が輝いて見える。
それぐらいに天気の良い、旅日和。
こうして街の皆に届くぐらいの声で挨拶をして
王都まで、初めての旅が始まるのであった。