第54話 修羅の道
〜ガンダリアン魔国領〜
ルーベン達との戦いから、およそ1ヶ月。
レオンはガンダリアン魔国領に帰還する。
そして首都ディーンライトに足を踏み入れた。
「3ヶ月振りか。魔王様に報告する前に、荷物もあるしアイツらに会って行くか。」
そう言ったレオンは、大きな荷物を持ち、町の外れにある孤児院に立ち寄った。
ディーンライトの地に来たら必ず寄る孤児院。
レオンは、そこで土産と冒険の話しをする。何より子供達が喜んでくれるから。
門を開けて孤児院に入るが、子供達がいない。
どこかに出掛けているのかと思ったが、全員がいないなんて事があるのかと疑問に思う。
人の気配を感じ、部屋の中へ向かうと…孤児院のシスターが1人…椅子に座っていた。
シスターもレオンに気が付いたのか、声を上げる。
「レオン様。子供達は何処へ連れて行かれたのでしょうか?大切な役割があると、軍の方々に連れて行かれて1ヶ月…軍の方に聞いても教えてくれません。誰も戻って来ていないのです。魔将レオン様なら何か知っているのでしょう?」
いきなりの話しで、レオンも困惑した。
子供達を軍の作戦に使う事など言語道断。
そんな事を魔王様が許すはずもない。
それならば他の誰かが、子供達を攫ったのか。
考えても分からない。
レオンはその時の話をシスターから詳しく説明して貰うことにした。
すると1ヶ月程前に正規軍の制服を着た軍人10名が孤児院に来て、子供達一人ひとりの適性値とレベルを水晶で確かめたのだそうだ。
その後に子供達全員が連れて行かれたのだという。
シスターが聞いても、軍の秘密作戦だと言われ。
悪いようにはしないからと、ほぼ無理矢理だったそうだ。
「子供達に適正が高い者は居たか?」
レオンがシスターに聞く。
確かに適正が高ければ、将来を見越して引き取る事も考えられるが…。
「いいえ。そこまでの子供は居ませんよ。」
そうだろう。子供じゃないとダメな作戦なんてあるはずがない。レオンは嫌な予感がした。
「シスター。私が調べてくるから待っててくれ。」
そう言い残したレオンは魔王城へ急いで向かった。
魔王城の門番に声をかけられたが、それどころじゃない。
すぐに魔王様に聞かなくてはならない事が出来た。
魔王様が居る部屋の扉をノックもせずに開けた。
「ハァハァ。魔王様!!お聞きしたい事が。」
急に入って来たレオンに怒りもせず、驚きもしない魔王ディノン。
「レオンか。任務ご苦労だったな。しかし何をそんなに慌てている?」
まるでレオンがやってくる事を知っていたかのようだ。
「孤児院の子供達が軍の者に連れて行かれたと聞き。その理由について知っている事があれば教えて頂きたく。」
「……。その件か。それなら我よりそこにいるウィングの方が詳しいであろう。教えてやれ。」
急ぎ入ったので気が付かなかった。
壁際にウィングが立っているではいか。
今の言葉で魔王様もこの件に関わっている事が分かった。
更にウィングが関与しているとすると、悪い予感しかしない。レオンはウィングを睨みつける。
「そんな睨まないで下さいヨ。簡単な話ですヨ。ある実験の治験体として、この国の為に利用させて頂きました。大丈夫ですヨ。きちんと適正も調べて、全員低い事も分かりましたからね。」
『そう言う事ではなーーい!!!!』
レオンが大声を上げた。
最近のウィングは危険な実験をしているのは知っていた。それでも魔族の為にやっているものだと。魔族に手をかけるとは思っていなかった。
しかも魔王様も知っていると言う事は了承したと言う事。
「ふーふー。子供達は…どうなった?生きているのか?返答次第では…貴様を殺す!!」
2人のやり取りを玉座に座りながら観察している魔王ディノン。
「まぁ落ち着いて下さいヨ。まず実験について話をしましょう。レオンさんは魔物を操る魔道具が完成したのは知っていますよね。その過程で面白い物が出来たんです。それがコレです。」
ウィングが指に3センチ程の植物の種に見える物を見せてくる。
「これは『魔物種子』と言いましてね。これを取り込み、ある一定の魔力を流すと。体内で発芽します。発芽したらどうなるか分かりますか?」
「………。」
「フフフ。『魔物化』するんですヨ。魔族にだけ効果があります。魔族は魔物の血が流れていると言われてましたが、あながち嘘でもないのかもしれませんね。」
「それがどうした?それを子供達に飲ませたのか?答えろ!!ウィング!!」
「そうで……」
床を蹴ってウィングに拳を突き出した。
ドンッ!!
ウィングは魔力障壁でガードする。
「魔物化させたな?殺してやる。」
殺気と怒気も混じったレオンの表情。
「話は最後まで聞いて下さいヨ。それに怒っていても冷静じゃないですか…魔王城の中でスキルを使ったら城が壊れてしまいますからね。どっちにしろ、私はレオンさんに勝てませんが…。」
「いいだろう。すべて話せ。そしたら外に連れ出して殺してやる。」
「分かりました。ある一定の魔力を流すと魔物化すると言いましたが、その魔力を流す魔道具がこちらです。」
ウィングは大きな黒い水晶が付いている杖を見せる。
「魔力を波長のように流せる魔道具でして、この杖の効果範囲は、この首都全域は届きます。そして魔物種子はすでに国民全員が口にしています。何が言いたいか分かりますよね?」
顔がみるみる青ざめていくレオン。
思い浮かぶのは親、友人、子供達。
ウィングは手に持っている杖を魔王ディノンに手渡した。
そこで魔王ディノンが口を開いた。
「レオン!そう心配するな。魔物化するのは我々魔族が追い詰められた場合だ。前にも言ったはずだ!人間を滅ぼすと。戦争を起こす……勝てば我々魔族がこの世界を…負ければ人間に魔族を滅ぼされる!!勝つ為にお前の力を貸せ!!それとも我々魔族を裏切るとでも言うか?」
「引く気はないのですね。」
(魔族全員を人質に取られたようなものだ。)
「当たり前だ。準備が整い次第動く。」
「分かりました。でもこれだけ聞かせて下さい。魔王ディノン様は何の為に戦争を?」
(私の知る魔王様はどこにいった…)
「……決まっている魔族の為だ。」
「それを聞ければ十分です。……ウィング!!子供達の場所に案内しろ。どうせお前の事だ。何かに使えると思って魔物化した子供達をとっておいてあるのだろ?安心しろ…今はお前を殺しはしない。大切な戦力だからな。すべてが終わったら……その時は殺してやるからな。」
そう言って魔物化した子供達の所へやって来た。
それぞれ檻に入れられており、その数は12。
「ヒッ!!それでは私は……。」
ウィングがレオンを怖がったのか逃げていく。
一体どんな顔をしているのだろう。
孤児院には18人の子供達が居た。
6人は実験で命を落としたのだろう。
一つ一つ顔を見る。よく見ると、皆どこか見覚えがある。あれは……こっちは……。
「タ…ス……ケ…。」「イ……タ…イ…ヨ。」
「コ……ロ……シ……テ。」「クル…シ……イ。」
魔物化したら元に戻れない。
記憶もなくなる。
「苦しいよな…そうだよな。安心しろ。今助けてやるから。」
レオンはそう言って一発一発、魔物化した子供達に拳を振り下ろす。
(これで最後の……すまない。皆。)
「ア…リガト…レオ……ニ…イ。」
「なっ!!」
ドン!!
『うおぉーーーーーーーーーーー。』
レオンは自分の弱さに叫んだ。そして……
「「「私は修羅と化す!!」」」
そう言ってレオンは血の涙を流すのであった。