第49話 喫茶店
大通りから少し離れた静かな小道。
いきなり、ぽつんと現れる喫茶店。
そこへ3人が入っていく。
カランカラン。
「いらっしゃいませ。」
「窓際が空いてます。あそこにしましょう。」
ルーベンに進められるがまま。窓際の席に座る大人2人。注文の方もルーベンが詳しいので、まかせることにした。
「それじゃ〜ブルーマウンを3つ。」
「かしこまりました。」
注文してから数分後。
「あっ来ましたよ。レオンさん飲むのは待って下さい。まずは香りを愉しむのです。スッー。良いですなぁ。この卓越した香気。」
「そうか。しかしペンスよ。ルーベンは本当に5歳なのか?中身は大人にしか見えぬが。スッー。うむ。いい香りだ。」
「私も最初は驚きの連続でしたよ。ルー坊の事を考えるのは時間の無駄です。子供として見てはいけませんぜ。1人の変人として見るのが丁度いいんです。スッー。本当だ。」
「ハッハッハッ。そうか変人か。確かにそうだな。あの顔を見てみろ。」
そこにはブルーマウンの香りを何度も嗅いで、幸せそうな顔をしたルーベンがいるのだった。
そしてブルーマウンを一口。ゴクッ。
「酸味、コク、苦みの奥に甘さもあり、調和がとれている味わい。そして…滑らかな喉越し。マスター。流石の一言です。」
「ハッハッハッ。」「フハッハッハッ。」
2人は笑い。喫茶店のマスターは驚いたのであった。
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落ち着いた所でルーベンが本題を切り出す。
「レオンさん。僕に聞きたい事とは?」
「エナ村での出来事だ。金色に輝く強大な魔法を使った者の調査を頼まれてな。実はつい先日までエナ村に行ってたのだ。そこで調べているうちに、ペンスの土魔法や、剣豪ロキが、まだ5歳の息子を戦場に連れて来たと聞いてな。そこで何か知っているのではないかと思ってな。」
やっぱりその話しか。冒険者や村人には別に僕がいた事は隠してないし、隠せるとも思ってなかったから、口止めはしなかったけど。
「それでレオンさんは僕達が何か隠していると思っているのですね。」
「そうだ。会って確信した。」
「……。そうですね…………。僕達は誰が魔法を使ったのか知っています。」
ピクッ。レオンが反応する。
ペンスが慌てて止めに入る。
「ルー坊!!」
「ペンスさん。大丈夫ですよ。レオンさんは人を傷つける用な人ではありません。それはペンスさんも分かっているはずです。ここは僕に任せてください。……レオンさん。あの魔法が放たれた時、僕達は壁の外にいました。父上が1人で敵と戦っていたからです。他の冒険者や村人達はちょうど壁の内側に避難していたので魔法を使った者を知りません。」
レオンが割って入る。
「そうか。それで今更、神様が使ったと戯言を言う訳ではあるまい?」
普通の子供ならレオンに睨まれた時点で泣き出すがルーベンは苦にもしない。
「そうですね。知っている者は3人。僕とペンスさんと父上です。…話せる事はここまでですね。その人の名前や情報を言うのは、その人に口止めされていますから。あんな魔法を使えるのですから、話した事が分かれば3人命にかかわるかと。」
「一理あるな。でもいいのか?私に話して…力ずくで白状させるかも知れんぞ。」
「だからレオンさんはそんな事はしません。……話を変えます。あの事件には魔族が関わっていました。それで言ってたんです。人間を滅ぼすと……魔族と人族は互いに嫌っている事は僕も知ってました。でもその理由は深くは知りません…そこで魔族の事を調べると、まずレオンさんの名前が必ずと言っていいほど1番に出てきます。魔族であり唯一の冒険者。A級まで上がり、拳王レオン、鉄拳レオンの異名を持つ。更に助けられた人は数知れず、魔物に襲われた町や村での活躍、悪徳ギルドの壊滅、上級魔物の単独討伐。色々あります。レオンさんは人族を嫌っている訳ではありませんよね?」
レオンも目を瞑り考える。
「………確かにそうだな。でも今話している事とは関係があるまい。」
「ここからは僕の推測です。まずレオンさんに個人依頼を出したのはアスタリア王国、ベルンド帝国の者の可能性は低いです。なぜなら依頼を出すには時間が経ち過ぎている。それにレオンさんじゃなくてもいい。それならガンダリアン魔国領の者になる。エナ村の戦いでは、魔族には転移魔法で逃げられています。死んでもおかしくない、もの凄い怪我を負っていたそうです。」
「………。」
「でも父上は生きているだろうと言っていました。おそらくその魔族が回復し、報告したのではないのでしょうか?だから今、調査依頼が出た……それで人族と関係もあり自由に動けるレオンさんに依頼があった……依頼主は、そうですね……可能性がある人は、例えば『魔王ディノン様』とか。どうです?ただの子供の推測ですよ。」
「………。」
緊迫した空気に包まれる。
ペンスはいつでも動きだせるよう。体に力を入れた。
しかしレオンは予想外の行動に出た。
「ハッハッハッハッハッハッ。」
そう笑ったのだ。
「面白い。私はルーベンが魔法を使ったと言われたら信じるぞ。それ程までに面白い。そして危険な子供だ。私で良かったなルーベンよ。そのような危険な橋を渡るような事はするな。命がいくつあっても足りんよ。」
「レオンさんだから言えたのですよ。それでまだ魔族について聞きたい事があったんです。」
それから2人は魔族の事やレオンが旅をして感じた事、色んな事を聞いた。
「レオンさん。魔王ディノン様は、民思いな優しい方なんですよね?エナ村での事はどう思っているのでしょうか。」
「そうだな。私にも…分からないのだ。数年前に久しぶりに会った時、人が変わったかのように感じた。…今の話しは忘れてくれ。」
レオンは深刻な表情をしている。
「例えばの話しです。…また戦争が始まったとして…レオンさんは魔族側です。僕達と戦えますか?」
「あぁ。魔族が危険に陥るのなら。私はこの拳を振るおう。例えお前達でもな。」
それを聞けたルーベンは嬉しそうに笑った。
「良かった。仲間が危険に陥らなければレオンさんは戦わないって事ですね。良かった…。戦争が起こりそうになったら僕達が止めますから。」
「フハッハッ。そうか…。ルーベン。世界は広いぞ。思い通りにならない事などザラにある。それでも同じように口に出せるか?」
「はい。例えレオンさんと戦うような事があっても……。」
「そうか。……街の外に出よ。私が相手をしてやる。」
「分かりました。ペンスさん。審判お願いします。」
こうして拳王レオンとルーベンの勝負が決まった。