第42話 最後の夜
兄弟対決が無事に終わり、その日の夕食は母アンネが作るご馳走が並んだ。
皆、久しぶりの母の料理を食べて嬉しそうだ。
学園での話しも色々してくれたし、楽しそうでなにより。
ちなみに僕達、兄弟で勝負していた時、母上とフラン姉さんは、アモを呼び出してお茶会ならぬ女子会を開いていたという。
そこで、アモはフラン姉さんに気に入られ、お泊り会をするのだとか…アモには悪いが、これで僕の負担も減るので、これからもぜひ仲良くしてもらいたい。
アモもひとりっ子だから、お姉ちゃん的な存在が出来て嬉しそうにしてるみたいだし。
しかし、帰って来て初日でこんなに疲れるとは思わなかったな。
今日は、すぐ眠れそうだ。
コンコン!!コンコン!!
ノックする音が響く。
夕食を食べていたが、皆は何事だと身構える。
「夕食時にすいません。ネヴィル子爵の使いの者です。急ぎロキ隊長にお伝えしたい事が。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は遡り…夕方
ドライカの街 領主邸
領主ネヴィル子爵、43歳。
15年程前に、親から子爵の爵位とドライカ周辺の領主を受け継いだ。
スラっとした体型に高身長。真面目で勤勉な性格で領主としての能力が高い。民からも慕われている。
ネヴィル子爵の仕事部屋。
「ふぅ。これで今日の仕事は終わりにしよう。」
机の書類を片付けて、整理していると走る足音が聞こえてくる。
ドタバタ。ドタバタ。
コンコン。
(これから夕食だというのに…。)
「空いている。どうした?何があった?」
「はい。緊急の用件な為、急ぎ領主様にと。それが…コカトリスと思われし魔物がフーリの湖に現れました。まだ人への被害は出ていませんが、湖と周りの森に毒を撒き散らし被害が発生中との事。」
「なに?コカトリスだと?……討伐隊を結成するにも、まずはロキに伝えねば、急ぎアートルド家に使いの者を!!」
「はっ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
アートルド家
「…………という事態でして。」
ネヴィル子爵の使いを家の中に招いて話しを全員で聞いている。確かに緊急事態だな。
その話に母アンネと姉フランが割って入る。
「明日、パパも休みをとってあるのよ。家族全員でフーリの湖に行ってピクニックに行く予定なのに。なんとかならいのかしら?」
表情が笑っていない。姉フランも続く。
「そうよ。たかが鳥1匹に何を慌ててるの。お弁当の準備
もアモちゃん一家も呼んでるのよ?パパも休みなんて簡単に取れないんだから、なんとかしなさい。」
こうなった女性陣は強い。
正直言われているこの人が可哀想だ。
伝えに来ただけなのに。
ネヴィル子爵の使いの者も慌てている。
「聞いて下さい。コカトリスは鳥の頭に胴体はドラゴンの様な皮膚、尻尾は蛇の形をしています。鳥の頭からは毒を撒き散らし、ドラゴンの様な皮膚は魔法も剣も弾いたとされ、尻尾の蛇に噛まれたら、その部分は石化するとも言われており。以前…30年程前にフーリの湖に現れた時は、当時の騎士団総出で挑み、犠牲者も10を越えたとか。」
ロキも話しに加わる。
「あぁ。昔の騎士団の記録に書いてあったな。コカトリスは上級の魔物として登録されているが、怖いのは毒の攻撃と石化。身体能力は大した事はないとされている。」
そこでフランが、
「それなら大丈夫じゃない。パパの剣で一撃よ。」
自信を持ってそう言った。
ロキも娘に言われ嬉しそうだ。
「まぁそうだな。」
ここでロキはルーベンがいない事に気がつく。
そしたらベン爺を連れてきたではないか。
なにやら、2人で盛り上がっているが…
「……という事なんです。ドラゴンの様な皮膚。魔法と剣の攻撃を弾くらしいんです。ベン爺どう思います?」
「ふむ。これなら考えていた魔道武具の1つが作れるかもしれぬな。鍛冶屋にも手伝ってもらう事になるだろう。そうと決まればルーベンよ。」
「はい!!!皆さん。コカトリスは僕達で倒します。大丈夫です。100%安全で確実な倒し方がありますから……ふふふ。」
また変な事を…と頭を抱えるロキ。
するとアモ一家が家に入ってきた。
「こんばんわぁ。フランお姉ちゃん。泊まりに来たよー。明日ピクニック楽しみだね。」
「夜、娘をよろしくお願いします。明日のピクニックなんですけど私も自信の料理を作っていますから、楽しみにしていて下さいね………どうしたんですか?何かありました?」
ルーベンは答える。
「ルーカスさんも皆さんも、何も心配はありません。明日は楽しいピクニックですから……ネヴィル子爵にお伝え下さい。明日の朝、ピクニックのついでに、コカトリスを討伐しますと。」
とりあえず討伐に動いてくれるならネヴィル子爵にも良い報告が出来るなと、納得し…
「分かりました。ロキ隊長お願いします。」
そう言って、急ぎネヴィル子爵の元へ帰っていったのである。
「あっ待って……。」
父ロキは止められなかった。
母アンネと姉フランは、
「そうよね。そんな必死になって…ルーベンちゃんもアモちゃんと一緒にピクニックしたいわよね。」
「ルーベン。良く言ったわ!!それでこそ剣豪の息子よ。たかが鳥1匹。私達で倒してあげるんだから。フンッ。」
兄グルーガと兄マルクは、
「学園の実習で魔物を倒す事はあれど。上級の魔物は見た事がありません。父上、明日は勉強させて貰います。」
「父上。コカトリスって鳥なんでしょ?上級の魔物の肉は美味しいと聞きました。ついでに食べれたらいいですね。」
否定する暇も怒る暇もなく。話しが決まってしまった。
ロキは頭を抱えるも、少しだけコカトリスに同情するのであった。
(上級の魔物とは一体?)
一方…話しを聞いたネヴィル子爵。
(そうか、ピクニックのついでにか……以前の記録にコカトリスの記録も残っている。強者でないと、攻撃は加えられない。部下思いで民思いのロキの事だ。私にも心配させまいと、そのような事を……今頃は、1人震えているやもしれぬな。明日の朝、我々ネヴィル子爵家も南門に向かうとしよう。)
「話しは分かった。剣豪ロキの事だ、今回も大丈夫だろう。コカトリスは水源を好む。街に来ることはないと思うが、明日の朝まで警備を怠るな。我々にしか出来ない事をやるんだ。」
「はいっ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドライカの街、南門から歩くこと約1時間。
そこにはフーリの湖と言われる、とても綺麗な湖が広がる。周りも緑豊かな土地で、ドライカの民から憩いの場としても使われる有名な場所だ。
魔素も少なく、魔物は出ない。
それでも、綺麗な水が好きなコカトリス。
どこから来たのか不明だが、ルーベン達がいるこの地に来たのは運の尽き。
最後の夜になるとも、つゆ知らず。
大きな声で鳴いていた。
コケーーーッ!!
次回予告!!
『最大出力。放て剛腕!魂の一撃!』