第41話 対グルーガ
次の相手はグルーガ兄さん。
強敵だな。正直弱点という弱点はない気がするのだが、どうやって戦うか……考えていると。
「いやぁ。幼い頃からルーベンは天才だと思っていたけど、これほどとは。僕も兄として、武人としても負けられないからね。全力でいかせてもらうよ。」
グルーガ兄さんが言い放つ。圧が凄い。
油断はしてないね…どっちにしろグルーガ兄さんの全力の戦闘は知らないんだよね。
「父上。休憩はもう大丈夫です。息も整いましたし。」
「よし。グルーガ。ルーベン。この勝負も3本勝負だ。魔法の使用も構わない。ルールは一緒。準備はいいな。」
「はい。」「はい。」
ルーベンは木剣を、グルーガは木槍を手に持つ。
「では1本目…始め!!」
ルーベンが最初に動く。
槍の弱点は小回りが利かない、まずは懐へ。
くそっ。
牽制が上手い。
グルーガの対処は完璧だ。
それはそうだ。何度も練習してるのだろう。
これで正攻法では近づけないことが分かった。それならとルーベンは石弾を発動する。
「石弾×10!」
10連の石弾を放つ。
小回りが利かないとはいえグルーガはこんな事ではやられない。
柄を短く持って対処したり、時には長く持って石弾を一斉に払いのける。
そんなグルーガを見て思った。騎士団の人より槍を使うのが上手いような気がする。学園上位は伊達ではないな。
「さっきも魔法使っていたし、ルーベンの魔力量はもの凄いな。一体いくつなんだい?」
「勝負中です。教えませんよ。グルーガ兄さんこそ弱点を教えて貰えると嬉しいんですけど。」
「いつの間に口も達者になって。」
そう言うと初めてグルーガから攻撃を仕掛ける。
槍での刺突。その威力、速さは申し分ない。
ルーベンは神の目を発動していたが、かろうじて見える程度。普通ならこの一撃で終わっている。
だが、かろうじてでも見えていれば対処は出来る。
何度も連続で放たれる突きに剣を当て軌道を少しだけずらす事で、ルーベンは紙一重で躱していく。
「なっ!?」
これに驚くのはグルーガの方。
1度ならまだしも、すべての攻撃を躱すのを見て、ルーベンの力を認める。強敵だと。
グルーガの手数が減った事で、すかさずルーベンは魔法を使用する。
「石槍×2。」
魔力を込め石で出来た槍が2つルーベンの周りを浮遊する。それを見たグルーガも、まずいと思ったのか魔法を放つ。
「風刃、石弾。」
風の刃と石弾がルーベンに向かって来るが、石槍を操作してガードする。
ズシャ。ドンっ!!
「発想が凄いな。石槍で防御か。しかも僕の魔法では、びくともしない…魔法に関してルーベンの方が遥かに上をいくな…。」
そう。ルーベンの石槍は、無傷の状態で浮遊している。
本来の石槍の使用方法は、目標に向かって放つことで石弾よりも単体での攻撃力、貫通力が上位の魔法だが、ルーベンの使い方は異なるものであった。
神様に言われ魔力の操作•制御の訓練をしてきたルーベンは、もちろん上達をしていた。
今は思い通りに操作出来る石槍の数は2つ。それでも相手からしたら脅威なのだが……その後が凄かった。
「闇魔法•闇纏、黒の剣、黒の槍。」
今度は自身の体ではなく。闇魔法をルーベンの持つ木剣と操作している石槍に纏い始めた。
闇魔法も扱えるようになってきたのである。
グルーガは闇纏については、ある程度理解していた。
マルクとの勝負で見ていたからだ。纏った箇所が単純に攻撃、防御力が上昇していた事を。
(ただの石槍なら、魔法は無理でも僕の槍で壊せていたのに……。)
「ルーベン。その黒の槍は、手足のように操作出来るのだろ?」
「当たり前です。手加減は出来ませんよ。このまま続けたらグルーガ兄さんに怪我をさせてしまうかもしれません。」
「そうだろうね。次の僕の攻撃で…その黒の槍を壊す!!壊せたら僕の勝ち。壊せなければルーベンの勝ちだ。どうだい?分かりやすくていいだろ?僕も流石にルーベンと合わせて3方向の攻撃は受けられない。」
「分かりました。全力で攻撃して下さい。受け止めて見せますから。」
グルーガは集中し…自身のスキルを発動。
「風ノ槍!!」
ヒュルルルルル。
グルーガが持つ木槍に風が纏う。
攻撃力、何よりも貫通力が、かなり上がったように見える。
これにより元々、発動していた身体強化ならびに槍術のスキルも合わせて、グルーガの全力。
「行くぞ。ルーベン!」
ザッ!!
グルーガは勢いよく地面を蹴った。
自身の全体重を乗せた一点突破、最大威力の刺突。
ビュー、ゴォー。
スキルの効果も合わさり、もの凄い風が吹き荒れる。
対するはルーベン。
浮遊している黒の槍を操作して回転を加える。
ギュルギュルギュルギュル…キィーン。
黒の槍は高回転により発する音が変わり、熱を持ち槍の先端が赤みを帯びる。
シュン。
そして、グルーガに向かって黒の槍を放つのであった。
ドドンッ!!!!
グルーガの風槍とルーベンの黒の槍が……激突した。
もの凄い爆風が起きる。それにより訓練場の砂が舞い上がり視界を奪う。
勝敗は単純明快。黒の槍が残っていればルーベンが、黒の槍が壊れていればグルーガの勝ちとなる。
徐々に砂埃が晴れていく。
立っているグルーガ……
「まさか…ここまでとはね。」
ピキピキッ。ボロボロッ。
手に持つ木槍が衝撃に耐えられず崩れている。
しかし黒の槍の方は……
グルーガの前に、ほぼ無傷の状態で浮遊していた。
「1本目……勝者。ルーベン。」
その場に大の字に倒れるグルーガ。
「ハァハァ。父上。僕は次の試合の事を考えず、ほとんどの魔力を使ってしまいました。3本勝負の内、1本でも勝とうと…この試合に僕の全力をかけてこのざまです。」
「そうか…。」
さらにグルーガが父上に話し出す。
「ハァハァ。なので僕の負けです。少し学園でチヤホヤされて…僕はどこかに驕りがあったのかもしれませんね。だから気を引き締めようと、ルーベンと勝負をさせた。マルクも同様ですよね?父上は…すべてを見抜いていたのでしょ?」
(うーん。勝負するのを見たかっただけで、別にそういう意図はないのだが……そんな顔で『見抜いていたのでしょ?』とか言われたら、否定も出来ん。こうなったら……)
「そうだ。グルーガもマルクも武器同士でなら、ルーベンに余裕で勝てるだろう。しかし戦いは武器だけでない。その事を知ってもらいたくてだな。」
「流石は、父上。これからは、より一層気を引き締め精進致します。」
「おっおう。」
それを横で聞いていたルーベンは…これで良いんですよね?父上。と訴えかける目を送っていたという。
コクリッ。
父ロキは、とりあえず頷いておいた。
こうして久しぶりに息子達の実力を知れて満足のロキであった。
「さぁて、帰って夕飯食べるか、アンネがご馳走用意しているぞ。久しぶりだろ?アンネの料理。」
そう言って皆で仲良く家路についたのである。