第14話 少女の決意
時は少し遡り、エナ村。
冒険者がアモの父に鬼気迫る表情で伝える。
「一斉に数多くの魔物が森から出てきている。ゴブリンにオーク、コボルト、ウルフに多種多様だ。とにかく数が多すぎる!戦える者は村の防衛を!ドライカには救援を向かわせた。」
「なんだって!?」
その話しを聞いたアモの父は、急ぎ村の中央へ避難することに決めた。
「アモ!!話しは聞いていたな。ここも危険だ。塀や柵がある、村の中央に避難するぞ。」
「……このお店はどうなるの?」
「いいから、それどころじゃ……」
「やだ……やだよ。このお店はママとパパとわたしの……。」
「そうだけど。それどころじゃ…!?」
「魔物だぁー。みんなぁ〜早く村の中央へ。早く避難をー!!」
声が聞こえて来た。おそらく冒険者だろう。
「アモ。早く避難するんだ。魔物がすぐそこまで来てる。」
「でも…でも……。あっあっパパ…うしろ。うしろ。」
「ギャッ!ギャッ!!」
ゴブリンが現れた。体長は150センチ程だろうか。
「くそっ!もう魔物が?アモ逃げるぞ。」
アモは足が震えて動かなかった。
家が食堂ということもあり冒険者達から魔物の話しを聞いていたし、素材なんかも見たことがある。
それに魔物と戦って倒した話しを聞くのはとても楽しかった。
森から魔物が出てくる事は滅多にない。それに出て来たとしても今まで冒険者達が倒して村を守ってくれていた。
だから魔物なんて怖くないって思ってた。
でも違った……足が動かない。地面に足がくっついているんじゃないかと思う程に。
ゴブリンが木の棒を振りかぶってくる。
「アモ!!危ない!!」
ドンッ!!
「うっ…この!!」
バンッ!!
なんとか父が木の棒を腕で防御して、ゴブリンに蹴りを入れることに成功する。
「アモ、大丈夫か?今のうちに避難するぞ。」
「パパ!!」
パパが魔物の攻撃から守ってくれた。
そして、アモを抱っこしながら走って村の中央へ避難する。でも、ある事に気が付いた。
「パパ。腕から血が……わたしのせいで……ひぐっ…ごめ…ごめんなさい。」
「なぁに。アモが無事ならそれでいいさ。大丈夫。このぐらいの傷なら寝れば治るさ。」
「うわぁ〜ん。」
泣いて必死にパパにしがみついていたら、いつの間にか村の中央に避難していた。
どこもかしこも慌ただしい。こんな光景は初めて見る。
「子供達はこっちへ。戦える者は塀の上からでも攻撃をしてくれると助かる。君は腕を怪我しているな。これは酷い…この回復薬を使ってくれ。」
冒険者が、回復薬を渡してくれる。
「ありがとう。感謝する。」
ゴクッゴクッ。
白い光を発しながら徐々に傷が塞がっていく。
「良かった。パパ…行っちゃうの?」
「あぁ。ここはママとアモと過ごした大切な村だからな。魔物なんかすぐ倒して必ず戻るから。」
(本当は行って欲しくなかった。でもみんな戦っている。我が儘なんて言えなかった。)
「約束だよ?」
「あぁ。行ってくる。」
力強く抱きしめられた。でもその腕は震えていた。
(パパも怖いんだ……わたしに魔物を倒せる力があれば)
それからパパは戦いにいってしまった。
あれからどれぐらい時間が経っただろう。
子供や戦えない者が集められた中でわたしは今は亡き母の言葉を思い出していた。
大好きだったママは、ある病で半年前に亡くなってしまったが、口癖のように言っていたことがある。
「困っている人がいたら手を差し伸べ自分に出来ることをしなさい。」
なんとなくだけど少しだけ分かった気がした。
みんなが協力している。
冒険者の人達は逃げようと思えば逃げられたのに村の為に戦っている。
鑑定の儀で光属性の適正が分かってから村の先生と魔法の練習も始めた。
まだひとつしか使えないけど、回復魔法を覚えた。
でもパパが怪我をした事に気が付いて、抱っこされながら魔法を唱え続けたけど発動しなかった。
魔法の発動には心の強さも関係するって先生も言ってた。発動しなかったのは動揺してたし、わたしの心が弱かったから。
パパ達は今も勇気を持って立ち向かっている。
だからわたしも……勇気を持って立ち上がるんだ。
「わたしに出来ること……ママ…よし。わたしだってみんなを守るんだ!!」
1人の少女が動いた瞬間だった。