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  作者: 黒死
第三章 陰から影へ(知識編:月世界)
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第二十五話 クッキーのお陰

「あれ? でも、璃映先ぱ……。お母さんは今日一緒じゃないのですか?」


「はい。今日は一人で来ました」


「そうですか。久しぶりに璃映先輩にも会いたかったんですが、仕方ないですね……」


「な、なんかすいません」


 母親が居ないとわかった途端、めっちゃ落ち込んでる。

 よっぽど母親に会いたかったんだな。


 でも、大丈夫。

 それをなんとかできそうなものが今ここにある。


「母親は居ませんが、これを渡すように言付かってます」


 僕は左手に持っていた紙袋を両手で掴み、


「どうぞ」


 と言いながら、鼻寅さんに差し出した。


「え、そうなんですか。ありがとうございます。頂戴しますね」


 鼻寅さんは僕の頭から右手を離し、その紙袋を受け取った。

 直ぐに紙袋の中に目線を向けている。


 徐々にパァ〜っと表情が明るくなっていった。

 間違いなく、あれが目に入ったんだな。


「わあ〜、クッキーですね。野緖、璃映先輩のクッキー大好きなんですよ。まさか、また璃映先輩のクッキーが食べれるなんて嬉しいです」


 鼻寅さんはそう言い終えると、立ち上がってソファーの方向に移動。

 紙袋をローテーブルの上に置いた。


 次にこちらに振り向き、


「では、浸夜くん。そこのソファーに掛けて待ってて下さい。今飲み物入れるので」


 と言って、キッチンの方向に歩いて行った。


「はい。ありがとうございます」


 僕は返事とお礼を言った後、ソファーの方向に移動。

 ソファーに座る前に、紙袋の中からクッキーが入ってる袋を二つだけ取り出した。


 一つをローテーブルにあるマグカップの近くに置き、もう一つは僕が食べるので掴んでまま。

 そして、先程鼻寅さんが座っていたソファーに腰を掛けた。


 袋を開け、黙々とクッキーを食べ始めた。

 今日も美味である。


 鼻寅さんはキッチンにて、コトコトと何かを沸かしている。

 僕はやることがなくて暇なので、何かないかと周囲を見渡した。


 最初に目に入ったのは、鼻寅さんが先程まで読んでいた本。

 その本には、『非道組織:死五霊(しごれい) 異種族差別事件』と書かれていた。


 なんか物騒な本だな。

 事件って書いてあるし。


 死五霊(しごれい)? というのはよくわからない。

 けど、差別ということは、間違いなく悪人の集団的な存在のこと。


 しかも、結構分厚い。

 辞書程度のページ数。


 つまり、それほどの内容が書き記してあるってこと。

 なら、相当凄い事件だろう。


 少々気になるが、勝手に読むわけにはいかない。

 ここは我慢しよう。


 ちょうどその頃、右手にマグカップを持った鼻寅さんがこちらに接近中。

 マグカップからは、モクモクと白い湯気が立っていた。


「はい、どうぞ。熱いので気をつけて下さいね」


 鼻寅さんはそう言いながら、マグカップを僕に差し出してくれた。

 左手にマグカップを置き、右手で筒部分を支えている。


 僕が取りやすいように取っ手をこちらに向けてくれているみたい。


「ありがとうございます」


 僕はそのマグカップを受け取った、と同時にお礼を口にした。

 マグカップの取っ手を右手で掴み、筒部分を左手で支えた。


 マグカップの中には、子供が大好きなホットミルクが入れられていた。

 もちろん、僕も大好きです。


 前世では普通に珈琲を飲んでいた。

 因みに、ブラックで。


 でも、流石に今は珈琲は飲めない。

 前に一度だけ、母親にお願いして飲んだことがあるが、苦過ぎて悶え苦しんだ。


 そして、わかった……。

 三歳では珈琲を飲むことはできない。

 というよりも、やめておいた方がいい。


 僕にマグカップを渡した後、鼻寅さんはそっとソファーに座った。

 正確にいうと、僕の隣で右側。


 さっき僕が置いてた袋を右手で取り、さささッと瞬時に開けた。

 余程楽しみにしていたんだろう。

 口元が緩み、笑みが溢れている。


 その後、パクパクとクッキーを口の中へ。

 凄い美味しそうな食べている。


「ん〜! 美味しいです! やはり、璃映先輩が作るクッキーは格別ですね!」


 その言葉で、より一層美味しそうだということが伝わってきた。

 喜んでるみたいで何よりです。


 と思ったのだが、突然ムッと何か疑問に思ったかのような表情を浮かべた。

 その表情を見て、なぜか反射的にビクッと反応してしまう。


「そういえば……、浸夜くん」


「は、はい」


 なんか急に思い詰めた声で呼んできた。

 自然と言葉が詰まる。


 何か気に障ったのかな……?

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