第二十五話 クッキーのお陰
「あれ? でも、璃映先ぱ……。お母さんは今日一緒じゃないのですか?」
「はい。今日は一人で来ました」
「そうですか。久しぶりに璃映先輩にも会いたかったんですが、仕方ないですね……」
「な、なんかすいません」
母親が居ないとわかった途端、めっちゃ落ち込んでる。
よっぽど母親に会いたかったんだな。
でも、大丈夫。
それをなんとかできそうなものが今ここにある。
「母親は居ませんが、これを渡すように言付かってます」
僕は左手に持っていた紙袋を両手で掴み、
「どうぞ」
と言いながら、鼻寅さんに差し出した。
「え、そうなんですか。ありがとうございます。頂戴しますね」
鼻寅さんは僕の頭から右手を離し、その紙袋を受け取った。
直ぐに紙袋の中に目線を向けている。
徐々にパァ〜っと表情が明るくなっていった。
間違いなく、あれが目に入ったんだな。
「わあ〜、クッキーですね。野緖、璃映先輩のクッキー大好きなんですよ。まさか、また璃映先輩のクッキーが食べれるなんて嬉しいです」
鼻寅さんはそう言い終えると、立ち上がってソファーの方向に移動。
紙袋をローテーブルの上に置いた。
次にこちらに振り向き、
「では、浸夜くん。そこのソファーに掛けて待ってて下さい。今飲み物入れるので」
と言って、キッチンの方向に歩いて行った。
「はい。ありがとうございます」
僕は返事とお礼を言った後、ソファーの方向に移動。
ソファーに座る前に、紙袋の中からクッキーが入ってる袋を二つだけ取り出した。
一つをローテーブルにあるマグカップの近くに置き、もう一つは僕が食べるので掴んでまま。
そして、先程鼻寅さんが座っていたソファーに腰を掛けた。
袋を開け、黙々とクッキーを食べ始めた。
今日も美味である。
鼻寅さんはキッチンにて、コトコトと何かを沸かしている。
僕はやることがなくて暇なので、何かないかと周囲を見渡した。
最初に目に入ったのは、鼻寅さんが先程まで読んでいた本。
その本には、『非道組織:死五霊 異種族差別事件』と書かれていた。
なんか物騒な本だな。
事件って書いてあるし。
死五霊? というのはよくわからない。
けど、差別ということは、間違いなく悪人の集団的な存在のこと。
しかも、結構分厚い。
辞書程度のページ数。
つまり、それほどの内容が書き記してあるってこと。
なら、相当凄い事件だろう。
少々気になるが、勝手に読むわけにはいかない。
ここは我慢しよう。
ちょうどその頃、右手にマグカップを持った鼻寅さんがこちらに接近中。
マグカップからは、モクモクと白い湯気が立っていた。
「はい、どうぞ。熱いので気をつけて下さいね」
鼻寅さんはそう言いながら、マグカップを僕に差し出してくれた。
左手にマグカップを置き、右手で筒部分を支えている。
僕が取りやすいように取っ手をこちらに向けてくれているみたい。
「ありがとうございます」
僕はそのマグカップを受け取った、と同時にお礼を口にした。
マグカップの取っ手を右手で掴み、筒部分を左手で支えた。
マグカップの中には、子供が大好きなホットミルクが入れられていた。
もちろん、僕も大好きです。
前世では普通に珈琲を飲んでいた。
因みに、ブラックで。
でも、流石に今は珈琲は飲めない。
前に一度だけ、母親にお願いして飲んだことがあるが、苦過ぎて悶え苦しんだ。
そして、わかった……。
三歳では珈琲を飲むことはできない。
というよりも、やめておいた方がいい。
僕にマグカップを渡した後、鼻寅さんはそっとソファーに座った。
正確にいうと、僕の隣で右側。
さっき僕が置いてた袋を右手で取り、さささッと瞬時に開けた。
余程楽しみにしていたんだろう。
口元が緩み、笑みが溢れている。
その後、パクパクとクッキーを口の中へ。
凄い美味しそうな食べている。
「ん〜! 美味しいです! やはり、璃映先輩が作るクッキーは格別ですね!」
その言葉で、より一層美味しそうだということが伝わってきた。
喜んでるみたいで何よりです。
と思ったのだが、突然ムッと何か疑問に思ったかのような表情を浮かべた。
その表情を見て、なぜか反射的にビクッと反応してしまう。
「そういえば……、浸夜くん」
「は、はい」
なんか急に思い詰めた声で呼んできた。
自然と言葉が詰まる。
何か気に障ったのかな……?




