第二十三話 冷たい目線
あれ?
なんでここに鼻寅さんが居るんだろう?
と思ったが、そもそもこの部屋は休憩室。
つまり、受付嬢が休憩する時に使う部屋だ。
更に言えば、恐らく交代で休憩を取っている。
ということは、鼻寅さんは現在休憩をしてる最中。
何も変ではないね。
逆に、そのことに疑問を抱いた僕の方が変だったわ。
鼻寅さんは分厚い本を両手で掴んでる。
その本を読むのに夢中で、僕が入ったことに気づいてないみたい。
もしかして休憩中にも関わらず、勉強してるのかな?
前に会った時からしっかりしてる人だとは思ってたけど、本当に真面目なんだな。
邪魔するのも悪いから、ゆっくりと扉を閉めて中に入ろう。
と思ってたんだけど……。
間違えてドアノブから手を離してしまった。
普通なら、そのままの位置で扉が止まっているはず。
だが、この扉は何かが違う。
なぜか自動的に閉まろうと、勢いよく戻っていく。
これはやばい。
間違いなく凄い音が鳴り響いてしまう。
僕は扉を止めようと、右手をドアノブに向かって突き出した。
掴もうとしたが、思っていた以上にその速度は速く、見事に空振りしてしまった。
「あ……」
不意に声が漏れる。
次の瞬間……。
バターンッ! というけたたましい音が部屋一面に響き渡った。
その音の影響でビクッと体が反応。
瞬時に目を瞑ってしまった。
や、やってしまったー。
てか、いくらなんでも音デカすぎだろ。
建物全体が揺れたんじゃないかと思うほどの音。
当然、鼻寅さんも何かしらの反応を示しているはず。
ま、まずは鼻寅さんの状況を確認しよう。
怖いけど。
もしかしたら、この音に気づかないくらい集中してる可能性もある。
いや、そうであってくれ。
僕は淡い期待を抱きつつ、恐る恐る鼻寅さんが居る方向に体を向けた。
そして、目に映った鼻寅さんの姿は……。
酷く驚いてこちらに目線を向けている。
目を見開いて、ビクついている様に見える。
ですよね〜。
ほんと申し訳ありません。
その姿を見て、僕も唖然としてした表情を浮かべた。
驚きと申し訳なさのダブルパンチがみぞおちに減り込むような感覚。
まあ、あの音に反応しなかったとしたら逆におかしい。
極小の可能性を抱いていたが、呆気なく消え去った。
すると、鼻寅さんはハッと口を開けて、何かに気づいたようだった。
両手に持っていた本をソファーに置いた。
次にソファーから立ち上がり、こっちに近づいて来た。
顔は無表情、目線は僕に向いている。
その目線はどことなく冷たい。
うまく言葉にできないが、子供を見るような目ではないのは確かだ。
これは、まさか……。
――怒ってる?




