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  作者: 黒死
第一章 陰から影へ(前世編:白龍)
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第八話 五歳の約束

 僕は女の子の前に移動。


「やめなよ」


 両腕を横に突き出し、自慢のクリクリとした目をやや鋭い目つきに変えて注意した。

 まずは定番の決め台詞で登場。


 これでやめてくれたらいいんだけど……。

 どうやらそういうわけにもいかないらしい。


 ヤクザと坊主は睨み返して来た。

 しかも、


「あ? なんだお前。邪魔すんな!」


 と暴力的な口調で反論するヤクザ。


「チビは引っ込んでろよ!」


 そして、痛いところをついてくる坊主。


 うるさい!

 成長期なんだよ!

 っと、ツッコミたい。


 だが、落ち着け僕。

 見た目で負けても、心は負けるな。


「邪魔? それは君たちの方だよ」


 僕はヤクザと坊主の言葉にイライラしつつ、正論を叩きつけた。


「は? 何言ってんだこいつ」


 相変わらず暴力的なヤクザ。


 でも、坊主は睨むだけ。


「ここは公園。子供が遊ぶ場所だ。なのに、こんなことをしている君たちの方が、よっぽど邪魔だよ」


「う、うるせえ! 妖怪を虐めて何が悪いんだよ!」


「そ、そうだそうだ! それとも、お前も妖怪の仲間か!?」


 明らかに動揺しているヤクザと坊主。


「ん? 別に、僕は妖怪でもいいよ」


「おいおい。じゃあ、お前も一緒……」


「でもさ。なら君たちは、悪人でもいいの?」


 ヤクザが腹立つ顔で挑発してくるが、僕がその上から問い掛けて言葉を遮る。


「はあ? なんで俺たちが悪人なんだよ! 悪いのは妖怪だろうが!」


 キレて更に腹立つことを口にする坊主。


「確かに、妖怪は悪いことをするのかもしれない。けど、じゃあ僕たちは今悪いことをしてる?」


「いや、それは……」


「うっ……」


 どうやら、二人とも僕に痛いところをつかれて、何も言い返せないでいるみたい。


 さっきのお返し。

 いや、今の僕はヤクザと坊主の言い方や態度で爆発寸前の状態。


 つまり……。


 ――倍返しだ!


「君たちがその妖怪を虐めている。つまり、悪いことをしているのは君たちの方だろ。じゃあ、君たちは悪人。いや、君たちの方がよっぽど妖怪だよ」


「お、おい。もう行こうぜ」


「あ、ああ……。お、覚えてやがれ!」


 ヤクザと坊主は何も言い返せず、諦めて帰って行った。

 しかも、よく悪人が言うお決まりのセリフを口にする坊主。


 へ!

 ざまぁ見やがれ!


 と、ドヤ顔をかます僕。


 その後、二人が公園を出て行ったのを確認し、僕は直ぐに女の子に駆け寄り、


「大丈夫? 怪我とかしてない?」


 と声をかけた。


「うん……」


 女の子は、掠れた声で返事をしてくれた。


「そっか。良かった」


 外見は水で濡れてはいるけど、怪我はしていない。


 だから、それは良かった。

 そういう意味での『良かった』だ。


 けど、あんなことをされて大丈夫なわけない。

 きっと心には深い傷が残っているはず。


「なんで……」


 すると、女の子は掠れて聞き取れないほどの声を発した。


「ん? 何か言った?」


 僕は反射的に聞き返した。


「なんで……、私を助けてくれたの?」


 どこかで聞いたようなセリフだ。


 僕が父親に助けてもらった時、同じことを聞いた。

 けど、まさか自分にその質問が返ってくるとは……。


「それは……」


 えっと〜。

 あの時、父親はなんて答えてたっけ?


 ……。


 そうだ。

 確か……。


「なんというか、助けたいって。そう思ったからだよ」


 父親はあの時、後悔したくないからって言ってた。


 つまり、それは失いたくなかったから。

 だから行動できた。


 それは、今の僕も同じだ。


 実をいえば、あのまま見て見ぬ振りもできた。

 けど、もしそうしていたら、僕は何かを失ってしまう気がした。


 だから、僕は助けたかった。

 そして、救いたかったんだ。


 そう思ったから、僕は行動できたんだ。


「で、でも……。私、貞子……だよ? 妖怪……なんだよ?」


 すると、女の子は震える声で言いたくないであろうその言葉を口にした。


 やっぱりさっき言われたことを気にしてる。


 そりゃあそうだ。

 誰だって、あんなこと言われたら傷つく。


 それが女の子なら尚更。


 今僕ができたのは、女の子を助けてあげただけ。

 だから、次は救う。


「それは、彼らが勝手に言ってただけにすぎないよ。君は妖怪なんかじゃない」


 僕は背負っているリュックを下ろし、中から一枚タオルを左手で取り出した。

 そのタオルを差し出しながら、


「君は、正真正銘、人間だよ。だから、気にしないでいいんだよ」


 と女の子にとっての、救いの言葉をかけた。


「そ、そっか。私は……、人間でいいんだね……」


「ありがとう!」


 女の子はそのタオルに右手を置き、安心した表情を浮かべてお礼を言った。

 

 その時、ちょうど東側から風が吹き、女の子の前髪が揺れて素顔が見えた。

 そこには、前髪に隠れて見えなかった綺麗な青色の瞳が輝いていた。


 目元を赤くし、涙を流して……。


「うん!」


 僕は、そんな女の子を見て思ったんだ。


 ――とても綺麗で、凄く可愛いって。


 僕の人生で初めての一目惚れだった……。


▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️▪️▫️


 その後、女の子は濡れた髪や服をタオルで拭いていた。

 僕はそれを確認し、その女の子に、


「じゃ、またね」


 と一声かけて、公園の出入り口に向かって歩き出した。


 すると、女の子が気づいて慌てながら、


「あ、あの。タオル……」


 と聞いてきた。


 まあ、そんな気はしていた。

 なので、女の子の方に振り向き、


「ん? あー、それはあげるよ」


 とキメ顔で返答した。


 前にテレビで見たことがある。

 こういう時は、返してもらうのではなく、そのままあげる。


 なぜって?

 それはそっちの方がカッコいいからだよ。


 で、多分女の子はこの後こう言うはずだ。


『うん。分かった。ありがとう』


 ってね。


 その言葉を最後に、僕は公園を出る。

 うん、完璧だ。


「え、いや。そんな……、悪いよ」


 おっと……。

 やばい、予想外の言葉だ。


 え〜と、どうしようかな。


「うーん。じゃあ……」


 僕は左手を握り、親指を顎に当て、悩んでます感を醸し出した。


 その結果、いい返答を思いついた。


 僕は左手を戻し、嬉しそうな笑みを浮かべ、


「じゃあ、次に会う時に僕が泣いていたら、それを渡してよ」


 と返答した。


 恐らく、そんな時はないし、また会えるかもわからない。

 けど、もしかしたらね。


 可能性はゼロじゃないから。


 そう。

 所謂、一つの希望ってやつだよ。


 すると、女の子は嬉しそうな笑みを浮かべ、


「うん。分かった。必ず渡すよ」


 と答えた。


 多分、これが口約束というやつだ。

 果たせる根拠もない、言葉同士の約束。



 その日僕がしたことは、父親と比べたら、そんな大層なことはしてないかもしれない。

 けど、当時の僕にとっては、大きな一歩を踏み出した感覚だった。


 それに、女の子が最後に言ってくれた、


『ありがとう!』


 という言葉。


 その言葉が、何よりも嬉しかった。



 そして、更に僕の人生を変える出来事が起きた。


 いや……。


 ――人生を変える出会い。


 と言うべきかな。

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