第十九話 互いの想い
視点:〈乾牧掛保〉
「え? な……なんで……?」
「掛保が休み始めたのって、ちょうど私が辞めてからでしょ? それに、私が辞めるって言った時、掛保は本当は嫌だったんじゃない?」
「それは……」
璃映が言ったことは当たってる。
その通りだ。
でも……。
「あの時、掛保は『おめでとう』って言ってくれたけど、どことなく悲しそうな顔に見えたの。だから、本当は私と……。いえ、みんなと一緒にあのまま働きたかったんじゃないかって、そう思ったのよ。もしそうだったら、ごめ……」
「ちが……」
璃映が謝ろうとしたのを、私が強制的に遮った。
その言葉を、璃映を口から聞きたくなかったから。
謝るのは璃映じゃない。
謝るべきなのは……。
「え……?」
璃映は疑問を提示し、こちらに目線を向ける。
と同時に、私は目線を逸らし、先程と同じように顔を埋めた。
そして、ちゃんと言葉にした。
「違う。璃映のせいじゃない……」
「でも……」
「全部……。全部私のせいなんだよ……。私の自分勝手な考えで、本心で璃映を応援できなかったんだよ……。璃映の気持ちを無視して、自分は悪くないって言い訳してるだけだったんだよ……」
「だから……、悪いのは、私なんだよ……」
「謝るのは、私の方なんだよ」
本心を言葉にしようとしたら、自然と涙が溢れそうだった。
両手を強く握り、震えを抑える。
駄目だ。
今ここで私が泣いたらいけない。
今泣いてしまったら、絶対に璃映は心配してくれる。
長年、共に居るからこそわかるし、それは凄い嬉しい。
けど、それをさせてしまったら、私は自分を許せない。
同情させてるみたいで、自分のことがもっと嫌になるから。
だから、絶対泣かない。
「掛保……」
「ごめん……璃映。今まで、璃映のやりたかったことを邪魔して……。本当にごめん」
ずっと伝えたかった。
謝りたかったことを、今やっと口にできた。
心のどこかで、璃映は呆れて私のことが嫌になって、そのままこの部屋を出て行ってほしいと思ってた。
それで、もう一生関わらないでって言われると思った。
けど、次に璃映がとった行動は、私が予想したものとは違った。
璃映はソファーに女座りになって体をこちらに向き、私にギュッと抱きついた。
私の頭を自分の胸に沈め、右手で頭を撫でてくれている。
私は、されるがままに身を任せた。
なぜか、とても安心したから。
まるで、母親が我が子を我が子をあやしているかのように……。
「大丈夫。謝らなくていいのよ。それに、私は掛保に邪魔されてたなんて思ったことは一度もないわ。だって、私がやりたいことを一番に応援してくれたのは、掛保だったんだから」
「え……?」
璃映が発した最後の言葉。
それが引っ掛かった。
璃映がやりたかったことは、間違いなく服作り。
でも、私はそのことを応援してあげたことは一度もない。
「もしかして、忘れちゃった?」
「う、うん。ごめん……」
「そっか。まあ、忘れるのも無理はないわ。掛保にとっては、ごく普通の言葉だったと思うから」
「あれは、私と掛保が出会って間もない頃、二人で買い物に行った時の話……」
「あるお店で服作りの体験ができるところがあって、二人でやってみたの。その時、店員の人に褒めて貰えて、『センスがあるから、趣味でもいいから作ってみたら?』って勧められたんだけど、私はあまり乗り気じゃなくて、どうしようか迷っていたの」
「もちろん、その時から服に興味はあったから、褒めてもらえた時は凄い嬉しかった。けど、興味があったからこそわかってたの。ちゃんとした服を作るのはそんな簡単なことじゃないって。だから本当は断ろうと思ってたのよ」
「でも、その時に掛保が『璃映は几帳面でしっかりしてるから、将来もっとすっごい服を作れるようになるね! 私、陰ながら応援してるよ!』って言ってくれたの。その言葉が嬉しくて、私は自分で服を作ってみようって決めたのよ。だから、私が自分のお店を開いたのも、あの人と出会えたのも、全部掛保のお陰なの」
「そう……だったんだ」
璃映の話を聞いて思い出した。
今の今まで忘れてたけど、確かに私は璃映にそう言ってあげた。
そっか。
あの時の言葉が、璃映にとっては嬉しかったんだ。
けど、結果的にあの言葉とは違って、応援することはできなかった。
それでも、璃映にとっては本当にやりたかったことを始めるきっかけになったんだね。
それだけでも良かった。
本当に、良かった……。
私は足を地面に下ろし、璃映に抱きついた。
「うん。だから、ありがとうね、掛保。いつも私を応援してくれて。もし良かったら、これからも応援してくれると嬉しいな」
その言葉を聞いて、無意識に涙が溢れた。
それほど、私にとっての嬉しい言葉だった。
絶交されてもおかしくないことをした。
もう会えないと思った。
だから、足を止めてしまった。
ずっと下を向いて、ただ後悔し続けているだけしかできなかった。
それでも尚、璃映は私にまた前を向くチャンスを与えてくれている。
その気持ちに応えたい。
私は顔を上げ、璃映に目線を向けた。
璃映は察してくれたのか、私から離れてニッコリと笑みを浮かべている。
「うん。もちろんだよ、璃映」
今度こそ……。
「ずっと……、ずっと応援するね!」
もう二度と同じ過ちを繰り返さない。
これからは、ずっと璃映を……。
いや、璃映たちを応援する。
どんなことがあろうとも。
絶対に道を違えない。




