第十七話 過去の過ち
視点:〈乾牧掛保〉
私の名前は、乾牧掛保。
淡黄色の髪に、赤紫色の瞳をしている。
誕生日は、五月五日。
現在、二十七歳。
独身。
でも、結婚願望はある。
というか、今居る受付嬢は全員誕生日が同じ。
更に言えば、全員独身。
住んでる場所も全員同じ、総合集合住宅。
因みに……。
私は、一番端の五十四号室。
居散は、五十三号室。
菖蒲は、五十二号室。
野緖は、五十一号室。
璃映は、結婚するまで四十六号室に住んでいた。
十六歳の時から冒険者組合で受付嬢として働いている。
居散・菖蒲・璃映とは、同時期に働き始めた。
野緖が働き始めたのは、その三年後。
でも、野緖とも歳は同じ。
いつも敬語じゃなくてもいいって言うんだけど、
『いえ。すいませんが、それはできません。歳は同じでも、私はみなさんの後輩です。なので、タメ口で話すわけにはいきません』
と頑なに拒否。
真面目でしっかりしてる。
頼りになる後輩。
けど、怒る時は口調が荒くなる。
まあ、今のところ菖蒲に対してだけだけど……。
私は今の仕事が好き。
一緒に働いてるみんなも大好き。
ここは冒険者の人たちの休憩場所であり、仕事の受諾場所。
いつも多くの冒険者が仕事をするべく、ここに集まって来る。
冒険者の人たちは、いつも沢山の人のために働いてる。
つまり、この場所があることで沢山の人が救われているってこと。
そんな重要な立ち位置にいる仕事が嫌になるわけがない。
寧ろ好きになる一方。
それは受付嬢のみんながそう思ってるはず。
だからこそ、璃映がここを辞めるって聞いた時は本当に驚いた。
しかも、結婚して自分のお店を開くなんて……。
もちろん親友として、璃映が幸せになるのは心から嬉しい。
でも、それと同時に少し悲しかった。
今までずっと一緒に働いてきたからこそ、離れ離れになる気がして嫌だった。
ここを辞めても、別にもう二度と会えないわけじゃない。
それがわかっていても、できればずっとここにいてほしかった。
自覚してる。
これは……。
――嫉妬だ。
璃映にじゃない。
璃映がやりたいことを導いてあげた、あの冒険者に対して。
璃映はずっと衣服に興味があり、いつも自分で作ったものを着ていた。
それほどに衣服が好きだってわかってた。
当然、お店を出す提案が頭を過った事も何度かある。
けれど、その提案を口にしたことは一度もない。
理由は、さっき言った通り。
璃映と離れたくなかったから。
でも、お店を出してからの璃映は、ここにいた時よりも元気で、いつも楽しそうだった。
その姿を見て、やっとわかった。
璃映にとって、本当にやりたかったことはこれなんだって……。
受付嬢の仕事が嫌だったわけじゃないと思う。
けど、一番やりたかった仕事でもなかったはず。
それがわかって、自分の愚かさを呪った。
私が抱いていたのは、ただのわがまま。
自己中心的な気持ちだということに気がついた。
璃映の気持ちを考えず、自分のことしか考えてなかった。
私がやっていたことは、ただ璃映を檻の中に閉じめていただけ。
本当に、最悪な人間だって思った。
それからというもの、私はよく仕事を休むようになった。
何度か仕事を辞めようと思ったこともある。
休んだ日は、いつも布団に包まって中に顔を埋める。
けど、全く寝られない。
次第に目の下には隈ができ、人前に出れる状態じゃなかった。
そして、気づいたら無意識に辞表を書いていた。
どこから紙を取り出したのかも覚えてない。
そもそも、そんな紙があったのかもわからない。
まあ、もうそんなことはどうでもいい……。
何も考えたくない。
いっそのこと、このまま死んでしまいたい。
その考えが頭を過ぎる。
そんなある日――。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴り響いた。
更に、誰かが玄関の扉をノックしている。
ノックの音は硬く、そして執拗。
私は重怠い体を動かし、玄関まで移動。
恐る恐るドアノブに右手を伸ばし、扉を開いた。
そこに立っていたのは……。
――璃映だった。
息を切らし、慌てた表情を浮かべて立っている。




