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  作者: 黒死
第三章 陰から影へ(知識編:月世界)
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第十六話 相も変わらず

 カウンターに向かう途中、最初に目に入った人物……。

 それは、巳手さんだった。


 と認識した瞬間、咄嗟に足を止めた。

 反射的に体が反応した。


 巳手さんはいい人だ。

 それは間違いない。


 ちょっと抜けてて、たま〜に突拍子のないことを言うだけ。

 更に母親より少し胸が大きい。ここ重要。


 だが、二歳の僕に結婚の申し込みをしてきた人物でもある。

 本気じゃないとは思うけど、油断できない。


 ここは別の人に……。


「あ、浸夜くんだ〜」


 と思ったが、時すでに遅し。


 巳手さんがこっちに向かって右手を振っている。

 間違いなく僕に対してだ。


 これは……。

 無視するわけにはいかない。


 諦めよう。


 僕は巳手さんが居るカウンターに向かって歩き始めた。

 なんか足は重いけど。


「お、お久しぶりです、巳手さん」


 ちょうどカウンターの少し手前まで移動。


「久しぶり〜。浸夜くん、大きくなったね。元気だった?」


「はい。至って健康です。それに、母さんも元気にしてますよ」


「そっか〜。それは何よりだよ。あれ? もしかして、今日は一人で来たの?」


「はい、そうです。初めてする一人だけの外出なんです」


「お〜、それは凄いね。でも、なんで一人で……」


「あ! そっかそっか〜。そういうことだね」


 巳手さんは何かを察したように、胸部付近で両手同士を合わせた。

 その後、右手を握って顎に当てて両目を瞑り、コクリコクリと二回頷いた。


「ん? どうかしたんですか?」


「今日浸夜くんがなんで一人でここに来たのか……。その理由がわかったんだよ」


「は、はあ……。一応聞きましょう」


 一応聞いてみよう。

 けど、なんか嫌な予感がするな。


 多分……。

 いや、間違いなく違うだろうし。


 僕は無意識に目を細くしていた。

 疑念を感じていた影響だと思う。


「ズバリ! 僕に結婚の申し込みをしに来てくれたんだね!」


「違います」


 即答した。

 巳手さんの言葉との差……、約一秒程度。


 その言葉を発する準備をしていた。


 なぜなら……。

 巳手さんは、多分そのことを言うと思ったから。


 てか、巳手さんまだ諦めてなかったのか。

 結構粘着質だな。


「えー、てっきりそうだと思ったのに〜。残念だな……」


 あ、やっばい。

 なんか明らかに落ち込んでる。


 巳手さんの表情が一気に沈んで笑みが消え去った。

 声も同様に、いつもの元気な感じが全くない。


 流石にバシッと言い過ぎたかもな。

 なんとかしていつもの状態に戻さねば……。


「そ、そんな本気で落ち込まないで下さい。今日はちょっと聞きたいことがあって来たんですよ」


「そうだったんだね……」


 駄目だ。

 逆に悪化してる気がする。


「ん? もしかして、僕に?」


 けど、急に巳手さんがピクッと反応。

 目を見開き、キラキラさせながら僕を見つめてくる。


「え? あ〜、はい。そうです。巳手さんに聞きたいことがあるんです」


 正直なことを言うと、別に巳手さん限定で聞きたかったわけじゃない。

 でも、別に嘘はついてない。


 僕がここに来た理由は、一年前に巳手さんが


『何か困ったことがあったら、またここに来たらいいよ』


 と言ってくれたから。

 あの時の言葉がなければ、僕はここに来なかったはず。


 それに、この返答を『YES』か『NO』のどちらを選んでも、今の状況が一変する。

 良い方向にも、悪い方向にも……。


 そして、僕は『YES』を選んだわけだが、その結果は如何に。


「そっか〜、嬉しいな。えへへ」


 よし。

 どうやら良い方向になったみたい。


 巳手さんはニッコリと笑い、頬を赤らめている。

 口元辺りで両手の指先を合わせてニギニギし始めた。


 見るからに喜んでる。

 とりあえず一安心。


 てか、普通に可愛いんだよな。

 なんでこれで結婚できないのか不思議でならない。


 すると、巳手さんがカウンターに設置してあるスイングドアを左手で押さえてくれた。


「さあさあ、入って入って〜。僕が手取り足取り教えてあげるよ」


「ありがとうございます。でも、そこまでは大丈夫です」


 僕はそのままカウンターの内側に入り、巳手さんにお礼と申し出の否定を口にした。


「えー。そんな遠慮しなくてもいいのに。謙虚だね〜」


「いえ、そういうのじゃないです」


「そうー? もう、璃映に似て頑固だね〜。まあ、そういうことにしとこう」


 巳手さんはそう言った後、カウンターの後ろにある扉を開けてくれた。

 中は長い廊下になっている。


「浸夜くん、この廊下を歩いて突き当たりを右に曲がったら、扉に休憩所って書かれてる部屋があるんだけど、そこで寛いでてくれるかな? 僕、ちょっと居散に伝えてくるから」


「わかりました」


 僕は廊下を歩いて行った。

 その姿を確認した巳手さんが、そっと扉を閉めた。

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