第十五話 鎧の大男
で、でっけー……。
驚きすぎて、思わず右手に持っていた紙袋を離した。
地面に落下し、紙特有のパタッという音がした。
何センチ?
いや、何メートルあるんだ?
顔がほぼ真上に向いている。
僕の身長は、八十八センチ。
恐らくその三倍程度ある。
つまり、二メートルか三メートル。
鎧は紅葉色。
鎧の隙間から黒色をした革製の衣服が見える。
着ている鎧も分厚そうだが、手足自体が太い。
僕の胴体が余裕で入る程度。
胴体部分は更に大きい。
大人一人入れる程度の大きさだ。
肩甲は、蛙の手のようにな形。
肩幅が倍以上になるほど大きい。
膝甲にも同じように蛙の手みたいなのが付いている。
肩甲ほどではないが、まあまあの大きさ。
顔は……、兜が邪魔でよく見えない。
けど、一つの赤色をした丸い光がこちらを向いている。
人間の目? ではなさそう。
なら、魔獣……?
土霊兵も赤色の光のような目だった。
でも、魔獣は土霊兵しか見たことがないから、他も全てそうとは限らない。
それに、魔獣が鎧を見に纏っているとは考え難い。
つまり、魔獣の線も低い。
――じゃあ、一体なんなんだ?
この生物……。
無意識に口が開き、言葉にできないような緊張が全身を襲う。
この緊張は、恐怖とか……、色々だ。
すると、大男が片膝を立ててしゃがんだ。
それでも僕よりも遥かに大きい。
「大丈夫かい?」
突然声を掛けてきた。
発したのは人間の声。
言語もわかる。
つまり普通に人間。
魔獣が言語喋れなければの話だけど……。
けど、微妙に違和感がある。
真意が見えないというか、なんか不自然だ。
発音はしっかりしてる。
いや、はっきりしすぎている気がする。
まるで、ロボットみたい。
てか、声自体よくお掃除ロボットが出す音声に似てる。
と、とりあえず返事しよう。
「あ、はい。ダイジョブです」
発音のことを気にしてたら、若干片言になった。
あと緊張が抜けてない。
「そ、そう。すまないね。怖がらせる気はなかったんだけど……」
「もしかして、この中に入りたいのかい?」
大男が右手人差し指で、冒険者組合の扉を差した。
「え、はい。そうです」
「そうか。なら、僕が開けてあげるよ」
大男は立ち上がり、右側の扉を右手で軽々と開けた。
もう一度言おう。
僕の全体重を掛けてもビクともしなかった扉を、片手で軽々と開けた……。
「はい。どうぞ」
「おお。ありがとうございます。助かりました」
僕はそう言い、右手で紙袋を掴んで、開けてもらった扉から中に入った。
「いえいえ。ちょうど居合わせて良かったよ」
僕が入ったのを確認し、大男も後に続いて中に入って扉を閉めた。
どうやら、この大男もここに用があったらしい。
ということは、恐らく冒険者だ。
まあ、普通の人が鎧着て歩いてるわけないよな。
普通にカッコいいし。
でも、本当に助かった。
この大男が来なかったら、今頃腕が折れていただろう。
更に言えば、それでも開けられなかったはず。
何かお礼をしたいな。
今持ってる物は……、あ。
これだ。
「あの、これ良かったら」
僕は紙袋の中にある、クッキーが入った袋を一つ左手で取り、大男に差し出した。
「ん? クッキー? いいのかい、貰っちゃって。これ、本当は誰かにあげるつもりだったんじゃないのかい?」
「はい。扉を開けて頂いたお礼に受け取って欲しいんです。それに、まだまだあるので大丈夫ですよ」
「そうか。ありがとう。有り難く頂くよ」
大男は右手を突き出し、僕の左手からその袋を手に取った。
「はい。では、失礼します」
僕は大男に向かってお辞儀をし、カウンターに向かった。
「うん。気をつけて」
大男は最後に、僕が聞こえないような声で小さく呟いた。




