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  作者: 黒死
第三章 陰から影へ(知識編:月世界)
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第十一話 塞養さんのこと

 知りたいことといえば……。

 まだ塞養さんのこと何も知らない。


 家のことを知ろうとしてたから、母親にも聞いたことがない。

 それに、今まで全く話す機会がなかった。


 まあ……。

 一番の理由は、僕が人見知りでコミュ障だから。


 流石に母親とは緊張せずに話せる。

 普段から話してるし、一緒に居るから自然と慣れた。


 でも、他の人とは無理。

 たまにお客さんが話しかけてくれるけど、全然言葉が出てこない。


 今は子供だからっていう理由で誤魔化せるが、一生このままという訳にもいかない。

 まずは、この人見知りとコミュ障をなんとかしたい。


 この二つの壁は、長年の悩みでもある。

 前世では諦めてしまったけど、今なら乗り越えられる気がする。


 なぜなら、今は一人じゃない。

 だから、その一歩を踏み出そう。


 僕はお店の衣服を整えている塞養さんに話しかけた。


「あ、あの……。そ、そそ、塞養さん、今お時間よろしいでしょうか?」


 緊張しすぎて足ガックガク。

 言葉も詰まり、口調も変になった。


 自分の声より、心臓のドクンドクンという鼓動の音の方が大きい気がする。

 それほどに緊張を隠せない。


「ん? 大丈夫だけど……。どうしたの、浸夜くん。なんか改まって、お偉いさんみたいだよ?」


「あー、えっと……」


 まあ、そうですよね。

 自分でもわかってはいるのだが……。


 一旦落ち着こう。

 深呼吸、深呼吸。


 僕は右手を胸に当て、大きく息を吸って、ふう、と息を吐き、気持ちを落ち着かせた。

 足の震えが少しマシになった。


「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


「うん。いいよ。私が答えられる範囲なら、なんでも答えるよ」


 塞養さんはこちらに近づき、取次に腰を掛けた。

 僕の右側に居る。


「ありがとうございます」


 僕は塞養さんの方向に体を向け、星座して一礼。

 ズボンのポケットから、メモ帳とボールペンを取り出し、目の前で構えた。


 塞養さんも一礼し、口元が緩んでいる。

 目元は見えないけど、恐らく微笑んでいるはず。


「じゃあ、まず塞養さんのフルネームを教えて下さい」


「あ! そっかそっか。ごめんね。そういえば、自己紹介まだだったね」


「おっほん。私の名前は、塞養役雇(そくようやくこ)。ピチピチの女の子だよ。よろしくね」


「よ、よろしくお願いします」


 自分のことをピチピチって言う人、始めた会った。

 確かに若い……、気がする。


 それに、いつも明るくて元気なんだよな。

 明らかに陽キャって感じ。


 まあ、それはいいとして……。

 そくようやくこさん、か。


 ……。


 なんていう漢字なんだ?


 そのまま塞養さんに聞くのも手だが、僕は漢字が苦手。

 しかも、読みよりも書く方が苦手だ。


 聞いても書けない可能性の方が高い。

 かといって、間違った漢字で覚えてしまうのは失礼すぎる。


 どうしよ……。

 塞養さんニコニコしながら、こっち見てるし。

 目元見えないけど。


 僕は眉間に皺を寄せ、目を細めながら、メモ帳を凝視した。

 右手に持ったボールペンを、メモ帳に触れない程度の位置で固まっている。


「あ、漢字わかる? 私書こっか?」


「あ、はい。お願いします」


 僕は少し不思議そうな表情を浮かべながら、メモ帳とボールペンを手渡した。


「OK。ちょっと待ってね〜」


 塞養さんはメモ帳とボールペンを両手で受け取った。

 すると、右手でボールペンを持ち、メモ帳に書き始めた。


 その姿を見て、ハッとあることに気づいた。


 あ、そうか。

 そもそも、子供だから漢字書けなくてもおかしくない。


 いや、逆に三歳で漢字書けたら凄すぎる。

 最悪、凄いを通り過ぎて怪しまれそう。


 結果的に、何も書かなくて正解だったな。

 もし、これで中学生レベルの漢字を書いてたら……。


 うん。

 間違いなく、子供じゃないとバレる。


「はい、どうぞ」


 塞養さんは手を止め、メモ帳とボールペンを手渡してくれた。


「ありがとうございます」


 僕はメモ帳とボールペンを両手で受け取り、メモ帳に目線を向けた。


 ふむふむ……。

 塞養役雇って書くのか。


 名前だけで良かったのに、なぜか『ピチピチの女の子』って書いてある。

 しかも太文字。


「さあさあ。どんどん聞いてきていいよ」


「えっと、塞養さんの誕生日と年齢を教えて下さい」


「誕生日は、九月二日。年齢は、二十二歳だよ」


「なるほど」


 僕は塞養さんが言ったことをメモ帳に書き始めた。


 誕生日は、九月二日。

 四日前に誕生日だったのか。


 年齢は、二十二歳。

 自分でピチピチって言うだけあって、本当に若い。


「塞養さんはいつからこの店に勤めてるんですか?」


「えっと、確か……。去年の六月四日からだね」


「なるほど、なるほど……」


 去年ってことは、僕が覚醒する約三ヶ月前から。

 つまり、今年で一年ってことか……。


「塞養さんは服が好きなんですか?」


「うん。すっごく好きだよ。たまに自分でも作ってるし」


「そうなんですか。あれ? でも、お店で作ってるところ見たことないような……」


「あ〜、私はいつも家で作ってるの。今日も何着か持って来たよ」


 塞養さんはそう言いながら、右手人差し指で僕側の右斜め上を指差した。


 僕は首を右に曲げ、その方向に目線を向けた。

 そこには、レジカウンターテーブルの上に置いてある一つの紙袋があった。


 恐らく、あの中に作った衣服が入っているのだろう。


「そうなんですね。ここでは作らないんですか?」


「うん。お店では作らないかな……」


 塞養さんは掠れた声を発し、顔をやや右に傾けた。


「その理由って、聞いてもいいですか?」


「う〜ん……。それはね〜」


「秘密だよ!」


「わ、わかりました」


 やっぱ駄目か。

 まあ、そんな気はしてたけど。


 けど、少し気になる。

 衣服を作る過程で、何か秘密があるのかな?


 もしかして……。

 見られたら、正体がバレるとか?


 ……。


 いや、なんの正体だよ。

 鶴の恩返しじゃあるまいし。


 気になるけど、ここは諦めよう。


 塞養さんは言いたくなさそう。

 なら、無理に効く訳にはいかない。


 それよりも……。


「そういえば、塞養さんってどこら辺に住んでるんですか?」


「ここから歩いて一時間くらいのところにある、総合集合住宅っていうところに住んでるよ」


「なるほど」


 住まいは、総合集合住宅。

 ここから歩いて一時間程度。


「あ、因みに私はそこの大家もやってるよ〜」


 さらっと凄いことを口にする塞養さん。


「なるほ……、ど!?」


 書くのに夢中になっていて反応が少し遅れた。


「え! じゃ、じゃあ、もしかして掛け持ちしてるんですか?」


 僕は今日一番の大きな声を発した。

 驚きの余り、目を見開き、少し前のめりになった。


「う、うん。そうだよ。すっごい驚きようだね……。なんかごめんね」


 僕の驚きように、少し引いているみたい。

 なぜか謝られてしまった。


 その姿を見て我に返り、僕は姿勢を元に戻した。


「い、いえ。でも、凄いですね。大変じゃないですか?」


「ううん。結構大丈夫だよ。大家って言っても、精々家賃の回収をするくらいだからね。そんなに忙しくないの。だから、ぶっちゃけすっごく暇なんだよ」


「な、なるほど」


 本当にぶっちゃけてる。

 それに、塞養さんは凄くっていうのを強調する癖があるみたい。


 けど、そうか。

 忙しくないのであれば一安心。


 もし、多忙の日々を送っていたらどうしようって思っていた。

 でも、暇なら良かった。


 他に聞きたいことは……。

 特にないな。


「塞養さん、ありがとうございました。とりあえず、今聞きたいことは全てお聞きできました」


「そっか。それは良かった。また聞きたいことがあったら、いつでも話しかけてね」


「はい。ありがとうございます」


 塞養さんは立ち上がり、先程整えていた衣服の方に向かった。


 最初にしては、結構いい感じに話せた気がする。

 この調子で、他の人とも話していこう。


 けど、今日は辞めておこう。

 緊張しすぎて、もう体力が残ってない。


 また数日後にしよう。

 無理は良くないからね……。

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