第七話 五歳の行動
陽暦二一〇一年七月二日。
五歳の時にあった出来事。
この頃から、父親の仕事が忙しくなり。
なかなか一緒に遊んでくれなくなった。
それに、母親は銀行に勤めている。
だから、当然忙しい。
更にいえば、家事もしてるから。
もちろん、多忙な日々を送っていた。
流石の僕もそんな状態の両親に遊んでもらうのは忍びない。
なので、僕は基本一人で公園に行くようになった。
必ず黒色のリュックを持参して……。
というのも、母親から、
『陽。一人で公園に行ってもいいけど、万が一怪我をしたらいけないから、公園に行く時は、必ずこのリュックを持って行くのよ。いい?』
と言われ、小指の約束を交わしたから。
そういう理由で。
絆創膏やタオルなどをリュックいっぱいに詰め込んでいる。
しかも、当時の僕がギリギリ背負えるくらいの大人用。
因みに、今でも中学校に行く時に使ってます。
昔から母親は父親に負けないくらいの心配性だった。
けど、その頃から更に心配度が増田気がする。
思えば、僕が軽自動車と事故りそうになった時からだ。
あれから母親は、異常なほど僕に対して心配しているように感じる。
あの日も家に帰ったら、血だらけの父親を見て心配する母親。
優しい。これぞ夫婦って感じがした。
けど、僕が事故りかけたことを知り、直ぐに激怒する母親。
変わりようが凄い。
でも、ちゃんと手当てをしてあげる母親。
やっぱ優しい。
そして、必死に謝る父親。
反論しないのは流石だ。
とりあえず、それほど大事にされてるってことだと思う。
少し度がすぎている気もするけど……。
てなわけで、その日も一人気ままに遊具で遊んでいた。
因みに、公園名は『三光公園』っていうらしい。
遊具は全部で七種類。
滑る台・ジャングルジム・鉄棒・シーソー・ブランコ・雲梯・砂場。
その中でも、特にシーソーやジャングルジムで遊んでいた。
ふと、シーソーの方に目線を向けた。
すると、二人の男の子から水鉄砲を向けられている一人の女の子を発見。
黒色の髪を目元が隠れるほど長くしている女の子。
その女の子はしゃがみ、両手で耳元を押さえていた。
男の子の一人は、黒色の髪を坊主にし、黒色の瞳。
更に目つきが悪く、ガキ大将的な風貌。
仮で、坊主と呼ぼう。
そして、もう一人は、茶色の髪をオールバックにし、黒色の瞳。
目つきは悪くないが、生意気な風貌。
こっちは仮で、ヤクザと呼ぼう。
しかも耳を澄ませると、二人の男の子が、
「おい、貞子! あっち行けよ!」
「妖怪が人間界に降りてくんな!」
などと口にしている。
更に、両手に持っている水鉄砲を発射。
狙いは……。
言うまでもなく、その女の子。
その水が女の子に直撃。
結果、女の子は水を被ったようにずぶ濡れだ。
これは、間違いなく虐めだな……。
まあ、貞子って正確には妖怪ではなくて幽霊らしいけど。
確かに、その女の子は髪が腰くらい長い。
しかも、数日前にテレビで『貞子』っていう映画が放送されていた。
恐らくその影響だろう。
けど、だからといって虐めてもいい、なんて理由にはならない。
周囲を見渡すと、他にも子供がいるのを確認。
だけど、誰もが見て見ぬ振りをしていた。
きっと、関わりたくないんだろうな。
まあ、僕も人見知りでコミュ障だから、気持ちがわからないでもない。
そう思うと同時に、僕は下に目線を向けた。
……。
で?
だからなんだ?
すると、僕の中に居る、もう一人の僕が語りかけてきた。
正確には、居るというより、僕が勝手に作り出しただけなんだけどね。
更に言えば、自問自答しているだけ。
違いをわかりやすく説明すると。
今の僕が黒色で、もう一人が白色の僕。
その理由は。
作り出したきっかけが父親に憧れてからだから。
だから、中に居る僕は白色。
対して、白色の対比は黒色。
つまり、白色に憧れる僕自身は、黒色ってわけ。
はい、説明終了。
では、二人の会話をどうぞ。
人見知りでコミュ障を理由に、お前も見て見ぬ振りをするのか?
……いや、もしそれをしたら、きっと僕はずっと下を向いたままだ。
なら、お前はどうするべきだと思う?
……女の子を助けるべきだと思う。
けど、僕にそれができるのかはわからない。
わからないから、前を向けないでいる。
おいおい。お前は誰に憧れたんだ?
……それは、父親だ。
なら、父親がどう行動するのかを考えればいいんじゃないか?
……父親なら、迷わずに女の子を助け。いや、救ってあげると思う。
じゃあ、父親ならするその行動を、お前がやってあげればいいんじゃないか?
……そんな簡単に言われても、できるもんじゃないよ。
じゃあ、お前はいつまでに、父親のようになるつもりなんだ?
……それは、今すぐにでもなりたい。
なら、父親がこの場に居たらするその行動を、お前が今しないでどうする?
今前を向き、一歩踏み出さなければ、お前は一生変わらないぞ。
それでもいいのか?
……そうか。そうだよな。
だろ?
そもそも、お前はくよくよ考えすぎなんだよ。
お前がコミュ障とか、人見知りとか関係ない。
それは、ただ言い訳にしているだけだ。
確かに、僕が人見知りとか、コミュ障とか、そんなのはどうでもいい。
父親ならどうするかを考えて、行動すれば良かったんだ。
よし、状況を整理する為に聞くけど、今の状況は?
……二人の男の子が、一人の女の子を虐めてる。
その状況は、通常の出来事なのか?
……いや、今の状況はどう考えても異常事態だ。
では、悪いのはどっち?
……二人の男の子。
じゃあ、女の子は何を望んでる?
……誰かに助けてほしいって、救ってほしいって思ってるはずだ。
なら、お前はどう行動する? どうするべきだと思う?
それは……。
――助けたい。そして、救いたい。
その瞬間、体が勝手に動いていた……。