第五話 父親の仏壇
「父……さん」
そんな気がしていた。
というよりも、それ以外の人が思い当たらなかった。
僕は転生してから、一度も父親の姿を見てない。
それに、この家に居る形跡も一切見当たらない。
だから、鍵が掛けられている部屋に、そのヒントがあるんじゃないかと思ってた。
で、いざ入ってみたら、僕の部屋とほぼ同じ配置の家具が並んでいる。
更に、僕の部屋にある家具の配置を決めたのが、その父親。
だとしたら、恐らくこの部屋を使っていたのも……。
「うん。ここは、父さんが使ってた部屋。父さんが亡くなってからは、なんとなくそのままの状態にしておきたくて、いつも鍵を掛けてたの」
やはりそうか。
それに、通りで机や床に凄い埃が溜まっていると思った。
母親は綺麗好きで、暇があればいつも掃除をしている。
その母親が、この部屋に入ったのを一度も見たことがない。
それは、父親が生前まで使っていた状態を維持するため、敢えて何も手を付けなかった。
この部屋に鍵を掛けていたのも、その理由。
まあ、鍵を掛けていたのは、僕が入るのを防止するためでもあったのだろう。
子供の僕なら、気になって引っ掻き回すかもしれないから。
母親はクローゼットを開き、中から座布団を二つ取り出した。
仏壇の前まで移動し、その座布団を左右に並べた。
母親は左側の座布団に座った。
僕に目線を向けてニッコリ笑い、右隣にある座布団を右手でポンポンと叩いた。
多分、座ったほうがいいっぽい。
僕はその座布団に座った。
もちろん、正座です。
因みに、母親も。
仏壇の前には、経机がある。
その上の中央に、左から花立・香炉・火立・おりんがある。
花立には、白色の小菊が備えてある。
火立には、蝋燭が刺してある。
右側には、マッチのカス入れ・線香差がある。
左側には、ライター・火消しがある。
母親は仏壇に向かって一礼。
右手でマッチを掴み、蝋燭に火を灯した。
そのマッチを元の位置に戻し、次に線香差から線香を一本取り出し、さっきの火に翳した。
線香に火が付いたら、左手で軽く扇ぎ、火を消す香炉に立てた。
最後に両目を瞑って合掌し、深く一礼。
十秒程度したら、両目を徐々に開いて、仏壇を見つめた。
僕がその母親の姿を見つめていた。
すると、母親がその目線に気づき、両手を膝に置いて、僕に目線を向けた。
母親はニコッと笑みを浮かべ、大きく頷いた。
これは……。
同じようにやってみて、ということだな。
そう解釈した僕は、先程母親がやった行動をそのまま行った。
最後に僕も両目を瞑って合掌し、深く一礼。
その姿を確認した母親が、右手で火消しを掴んで、蝋燭の火を静かに消した。
そして、火消しを元の位置に戻した。




