第三話 聞きたいこと
お店を開くのは、大体九時から。
因みに、塞養さんは八時四十分くらいに来る。
今は八時十分くらい。
この時間なら、母親はいつもリビングにいる。
僕はリビングに移動した。
入った瞬間、左側からテレビの音声が聞こえてきた。
その方法に目線を向ける。
そこには、ソファーに座っている母親が居た。
マグカップに入ったコーヒーを飲みながら、寛いでいる。
母親はテレビに夢中。
僕が入って来たことに気付いていない。
僕は少し母親に近づいて話しかけた。
「ねえ、母さん。ちょっといいかな? 聞きたいことあるんだけど」
「ん? 大丈夫よ」
母親は僕の声に反応。
持っていたマグカップをテーブルに置いた。
立ち上がって、こちらに向かって来る。
「どうかした? 浸夜」
僕の目の前まで来たら。
しゃがんで目線を合わせてくれた。
クリクリした大きな目をキラキラさせて、ニッコリ笑っている。
思えば、僕がきちんと喋れるようになった時から。
なぜか、母親はいつも以上に明るくなった気がする。
多分、我が子の成長が嬉しいのだと思う。
だが……。
「あのさ……。そ、その〜」
僕は目線を右下に逸らし、言葉に詰まった。
聞こうと決めたが、いざ母親を目の前にすると、緊張してうまく言葉が出てこなかった。
「大丈夫、ゆっくりでいいのよ。そうだ、一度深呼吸してみよっか」
そんな僕に見かねて、母親が提案してくれた。
「うん。スゥーー……、ふぅ〜」
僕は母親の言う通り、右手を胸に当て、深く息を吸って、ゆっくり吐いた。
すると、自然と緊張が消えていく感じがした。
「どう? 落ち着いた?」
「うん。落ち着いた。ありがとう、母さん」
「ううん。じゃあ、浸夜は母さんに何が聞きたいのかな?」
「えっと。な、なんで、あの二つの部屋にだけ、鍵を掛けてるのかなって……」
「あー。……そのことね」
母親は目線を下に向け、ぼそっと呟いた。
徐々に顔から笑みが消え、どことなく寂しそうに見える。
更に、右手を握り、親指を顎に当てて考え込んでいた。
何かを決めあぐねている様子。
「うん……。そろそろ、いいかもしれないわね。浸夜、教えてあげるから、付いて来て」
けど、母親はその何かを決心したのか、僕にそう言い、スッと立ち上がって扉を開けた。
その表情には笑みを浮かべていたが、寂しそうなのは変わらない。
「う、うん」
僕は母親の後に続いて、リビングから出た。
母親の足取りは、いつもよりも重く、ゆっくりだった。
「本当は、浸夜がもう少し大きくなってから話そうと思ってたんだけど……。やっぱり気になっちゃうわよね」
廊下を歩いてる最中に、母親が呟いた。
僕はその言葉に、少し疑問を感じた。
「え、そうだったの? それって、もしかして僕に関係すること?」
さっき母親が言った、
『大きくなってから』
と言うのは、今の幼い状態では理解できないかもしれないっていう意味。
幼過ぎたら、記憶に残ってないかもしれないから。
だから、もう少し大きくなってから言うつもりでいた。
つまり、それは僕に関係する重要なことの可能性が高い。
「ええ、そうよ。浸夜にとっても、母さんにとっても……。大切なことよ」
母親は、その鍵が掛かっている部屋の前で立ち止まった。
すると、急に胸元に右手を突っ込み、ゴソゴソしている。
ん!?
何やってんの?
僕は思わず二度見してしまった。




