第四十話 まともな提案
「そ、そういえば。浸夜くんの適性能力って影だったんですね」
鼻寅さんが咄嗟に別の話を持ちかけた。
この重い空気を変えようとしてるんだと思う。
「そ、そうなんだよ。しかも、なんと唯一人しかいないみたいでね。きっと凄い能力に違いないよ」
乾牧さんがその話に便乗。
「確かに、それは凄そうですね。ね、菖蒲先輩もそう思いませんか?」
「う〜ん……」
巳手さんは、なぜか浮かない表情をしていた。
さっきのことを気にしてるように見える。
「あ、菖蒲先輩?」
「そんなことより……。どうやったら、浸夜くんと結婚できると思う?」
何を言っとるんだ巳手さん。
もしかして落ち込んでるのかな?
って思ったのに。
まだそのこと考えてたのね……。
「ちょっと! この後に及んで、まだそんなこと考えてたんですか! せっかく話変えようとしてたのに!」
鼻寅さんも僕と同じ考えをしていた。
というか、さっきまでは大人しくて。
しっかりしてるイメージだったんだけど。
結構感情的になって怒ってるみたい。
その時、母親と乾牧さんは深いため息を吐いていた。
巳手さんに呆れているらしい。
「ん? あー、大丈夫。ちゃんと話は聞いてたよ。でも、他に影の適性能力者が誰一人居ないってことはさ……。そもそも使い方がわからないんじゃない?」
「「あ……。た、確かに……」」
乾牧さんと鼻寅さんが同時に反応。
え、使い方って全部一緒じゃないの?
いや、みんなの反応からして。
それぞれの能力に決まった使い方があるってことだ。
てことは……。
そもそも、この影の能力を使えない可能性もあるってこと!?
「でしょー。だから、何か困ったことがあったら、またここに来たらいいよ。ここなら冒険者も集まって来るし、色々な能力の本も置いてあるから、浸夜くんの影の能力が使えるヒントが見つかるかもしれないよ。それに、僕たちが居るから、いつでも相談に乗ってあげれるしさ〜」
み、巳手さん……。
今日、初めて巳手さんの口からまともなことを聞けた気がする。
さっきまでは。
僕っ子巨乳おっとりお姉さんって思ってた。
けど、そんなことはないみたい。
「ね、浸夜くん。わかった?」
僕は巳手さんの問いに、大きく頷いた。
よし、必ずまたここに来よう。
「そっかそっか〜。じゃあ、僕と結婚する?」
巳手さんはニッコリ笑い。
隙を見て僕に結婚を申し込んで来た。
こ、この人。
まだ諦めてなかったのか……。
う〜ん。
巳手さんは普通にいい人。
それは、今日のみんなとの会話を聞いていてわかった。
ちょっとお馬鹿っぽいけど。
まあキャラとしてはいい感じ。
けど、それと結婚とは話が別だ。
僕は大きく首を左右に振った。
「だよね〜。まあ、そんな気はしてたけど」
巳手さんは本気で言ってる訳ではなさそう。
それは少し安心した。
まあ、本気ならある意味凄いけど……。
てか、さっきから母親たちが固まってピクリとも動かない。
目を点にして、信じられないものでも見たみたいな表情。




