第三十九話 重い空気
「いや、いきなり何言ってるのよ……。それに、そんなの駄目に決まってるでしょ。あと、だとしても菖蒲のお母さんにはならないわよ」
当然、呆れている母親。
いや、呆れるを通り越して、少し怒ってるように見える。
「え〜。でも、そしたら璃映は、僕の義母になるよね?」
「あ、あのねぇ……。例えそうなるとしても、菖蒲と浸夜がどれだけ歳が離れてると思ってるのよ」
「璃映……」
「ん?」
「愛に、年齢の差なんて関係ないよ……」
巳手さんはキメ顔をしている。
「キメ顔で言っても駄目よ」
母親はその顔を見て即答。
「大丈夫。僕、浸夜くんのこと好きだから」
「それは、子供としてでしょ。恋愛はまた別よ」
「そっかー、違うんだ。じゃあ、浸夜くん抱っこしてもいい?」
「『じゃあ』の意味がわからないけど……。まあ、それならいいわよ。但し、急に動かしたりしたら駄目だからね」
「わかってるよ。まだ病み上がりだもんね。流石にそれは僕でもわかるよ」
巳手さんのその言葉を発した途端。
乾牧さんがビクッと反応。
「ん? どうしたんですか、乾牧先輩。なんか汗すごいですよ?」
鼻寅さんが言うように。
乾牧さんは物凄い汗が噴き出ていた。
「い、いや。なんでもないよ。あは、はははは……」
「そ、そうですか……?」
「いや〜、璃映に似て可愛い顔だね。目もクリクリでおっきい」
母親のOKをもらった後。
巳手さんは両手を僕の両脇に入れて優しく掴み、そのまま抱き上げた。
僕を包み込むように、自分の胸にピッタリとくっつけている。
落ちないように両腕でしっかりと支えている。
僕の顔を凝視し、褒めてくれてるみたい。
ちょっと恥ずかしい。
僕はどうしたらいいのかわからず。
巳手さんの顔をじっと見つめた。
その時、僕はあることに気づいた。
凄い重要なこと。
巳手さんは、恐らく……。
――母親よりも胸が大きい。
そんな、今はどうでもいいような。
重要なことのような考えが頭を過った。
「それに……」
「ちょ、菖蒲!」
巳手さんが言おうとして言葉。
それを乾牧さんが強制的に阻止した。
「あ、ごめん。そうだった……」
巳手さんは何かに気づいて誤っている。
「ん? どうかした?」
母親が気になって問いかけた。
「ううん。ごめん……。僕今、言っちゃいけないことを……」
「言っちゃいけないこと?」
「ん、なんですか? それ?」
母親と鼻寅さんが不思議そうに首を右に傾けている。
「うん……。私も少し思ったんだけど……。その、雰囲気が……、ね」
その問いに答えたのは乾牧さん。
何か言いにくそうに、言葉を選んでいるように見える。
「……あ、そういうことね」
どうやら、母親には伝わったらしい。
けど、僕と鼻寅さんはさっぱりわからず放心状態。
「ごめん、璃映……」
「もう、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。全然気にしてないから。それに……、それはいいことだもの」
「うん……」
な、なんだろ?
なんか、一気に空気が重くなった気がする。
恐らく、今ここに居る母親と乾牧さんと巳手さん。
この三人だけが、そのことがなんなのか知ってる。
そして、それは言いたくない……。
いや、言ってはいけないようなことだ。
とりあえず、それだけはわかった。




