第三十一話 真っ黒な影
突如、目の前が真っ黒な影に包まれた……。
当然、僕は困惑した。
だって、この現象には見覚えがある。
ついさっきも起きた現象。
あの時(前世の最後)と同じ現象だ。
あの時も、目の前が真っ黒な影に包まれた。
その後、そのまま意識を失ってしまった。
てことは……。
……。
僕は無意識に息が荒くなった。
おいおいおい、嘘だろ。
まさか、また僕は死ぬのか?
ここから……。
また新たに始めようと思ったのに。
なんだよ、それ。
言われるがまま。
こんな得体の知れない鉄板に触れてしまったばかりに。
また……。
死んでしまうのか。
僕は両眼をギュッと瞑り、死を覚悟した。
……だが!
――今度は真っ白な光が僕の瞼を照らし、微かに侵入してきた。
恐る恐る瞼を開けた。
すると、さっきまで目の前に広がっていた真っ黒な影の密度が薄くなっている。
そのまま、徐々に鉄板の中に戻っていった。
先程の影が完全に鉄板の中に戻った。
僕は直ぐに周囲を見渡した。
最初に目に入ったのは、母親と乾牧さんの姿。
そして、先程と同じ建物の中だということを確認。
よ、良かった……。
どうやら、今回は死んでないみたい。
僕は胸に右手を当てて、深い息を吐いた。
その右手からは汗が出ており、若干湿っている。
でも、疑問は残る。
それは、あの真っ黒な影の正体。
今も……。
あの時も、全く同じ現象だった。
まず第一に、最悪の状態にならなかったのは良かった。
良かったけど、あの現象はもう真っ平ごめんだ。
うまく言葉にできない。
けど、なんか嫌だ。
なんというか。
元々僕の中にある力が抜けていくような……。
何もかも、失ってしまうような。
そう。
まるで……。
――絶望する感覚。
その感覚に近い。
とりあえず、もう出現しないことを願う。
二度と見たくない。
……いや、待てよ。
まだ一つの可能性が残ってる。
もしかしたら、この検査する時。
必ずあの真っ黒な影が出現する可能性がある。
つまり、これが普通なのかもしれない。
うん、きっとそうだ。
じゃないと、僕が覚醒した時みたいに。
母親が抱きついてくるはず。
僕は期待を抱きつつ、後ろを振り向いて母親の顔を確認した。
だが、僕の期待とは裏腹に、何やら不安そうな顔を浮かべていた。
しかも、なんか固まってる。
「ね、ねえ、掛保。私久しく人体検査してないから忘れてたんだけど……。こんな感じだったっけ?」
「い、いやー。こんな現象、私も初めて見る。ていうか、通常なら真っ白な光が発生するはずなんだけど……」
「そ、そうよね……」
乾牧さんも母親と同じように、不安そうな顔を浮かべている。
気になって周囲を見渡すと……。
周りに居る冒険者の人たち。
左側のカウンターに居る鼻寅さんも驚いている。
「お、おい。なんださっきの黒い影みたいなの」
「わからないわよ。あんなの見たことない」
「それに、受付嬢の人も驚いてるみたいだし、初めて起きた現象なんじゃないの?」
「マジかよ……。とんでもねぇな。しかも、あんな小さな子供がか?」
「恐ろしいわね……」
「ああ……」
などと言う声が聞こえる。
そんな皆さんの表情。
そして発言から、僕は今起こったことを確信した。
あー。
うん、なるほどね。
とりあえず……。
この場に居る人たちの反応からして、これは異常な現象ってことだな。
うんうん。
なるほどなるほど……。
これは……、困ったな。
なら、ますます意味がわからん。
まあ、恐らくあの現象が起きる原因は僕だ。
それだけはわかった。
けど、なんで僕の時だけ発生するのかはわからない。
わからないことだらけだ。
そもそも、あの時(前世の最後)だって、なんで発生したのかわかってない。
それに、あの時は真っ黒な影に包まれて、そのあと死んだ。
だけど、今回は生きてる。
この違いはなんなんだ?
もしかして、何かあるのか?
死ななかった理由が。
僕自身に……。




