第二十五話 冒険者
そんな状態の鎧男を右眼で確認した土霊兵。
恐らく、その土霊兵にも伝わったはず。
鎧男の思いが……。
その後、土霊兵が次に起こした行動は至ってシンプル。
鎧男に向かって左腕を振り下ろし、殴り掛かった。
先に振り上げていたこともあり、攻撃準備は万全だった。
鎧男は反応できるのか。
観客は不安に駆られていた。
咄嗟に全員が鎧男に目線を向ける。
その目線は応援と心配からくるものだ。
だが、問題ない。
鎧男は両手で持ってる剣を突き刺すように構えている。
こちらも攻撃準備はできている。
鎧男はフゥーと息を吐いた後、
「炎纏:鋭!」
と言葉を発言。
両手で持っている剣を中心に炎を纏った。
今回は炎が槍のように鋭く尖っている。
土霊兵が繰り出した左拳に向かって剣を突き刺した。
互いの攻撃が激突。
威力であれば土霊兵の方が有利。
速度や刺突による攻撃は鎧男の方が有利。
結果……。
勝ったのは鎧男。
土霊兵の左拳に、炎の槍が突き刺さる。
突き刺した剣を中心に炎が燃え上がる。
土霊兵の左腕を徐々に侵食し、網目状に広がっていた。
炎が土霊兵の左腕全体に行き渡り、左肩から炎の槍が突き出した。
肩部分に存在する関節が破壊され、左腕が崩れ落ちた。
岩片が地面に落下。
多少の砂埃が発生。
左腕を破壊された衝撃で、土霊兵は思わず一歩左足を引いた。
流石に動揺している様子。
けど、土霊兵もまだ諦めてはいない。
今度は右手を握り締め、鎧男の頭部に向かって殴り掛かった。
今度は振り上げる動作がない分、動きに無駄がない。
だが、諦めていないのは鎧男も同じだ。
剣の刃先が右側の壁に向くように構えながら、
「炎纏:円!」
と言葉を発言。
再度、両手で持っている剣を中心に炎を纏った。
炎の形状は先程に比べたら、余り威力がないように見える。
そのまま剣を円を描くように振り上げた。
と同時に、徐々に炎が鋭く燃え上がり、紙のように薄く鋭い刃に変化。
薄い形状にしたことで風の抵抗が少なく、速度は素早い。
目にも止まらぬ速度で、土霊兵の右腕を一刀両断。
切断された右腕は崩れ落ち、巨大な岩の塊が地面に落下。
周囲には砂煙が舞っていた。
本当に凄い反応速度。
けど、明らかに対応が早すぎる。
何も外傷がない状態なら、恐らく可能だったと思う。
でも、今は重症と呼べるほどの大ダメージを負っている状態。
そんな状態で反応できるものなのか。
少々疑問に感じた。
結果、それでも鎧男は反応。
更に、適切な対応をした。
だとしたら、考えられるのは一つ。
多分、土霊兵の動きを先読みした。
だから適切な対応をすることができた。
土霊兵なら、きっとこうしてくるって。
頭の中で考え、予想していたんだ。
さっきは、土霊兵が状況を一変した。
だが、今回は鎧男が即座に状況を逆転した。
土霊兵の両腕は完全に喪失。
攻撃の術がない。
対して、鎧男の手には剣がある。
ダメージは負ってるものの、攻撃手段はある状態。
決して油断はできない。
けど……。
――一つの希望が生まれ始めた。
両腕を失った土霊兵が次に取った行動。
その行動は、成す術を失ったからこその思い付きによるものだった。
土霊兵は、鎧男に向かって頭突きを繰り出した。
間違いなく最後の攻撃だ。
それは、鎧男も同じ。
鎧男は剣を背中につく程度の位置まで振り上げ、
「炎纏:激!」
と言葉を発言。
口から血を吐き、限界が近いことがわかる。
恐らく、こちらも最後の攻撃だ。
剣には徐々に炎が纏う。
振り下ろす最中に、より大きく……。
より激しく燃え上がった。
鎧男の頭部まで達した時。
土霊兵よりも遥かに大きな炎の剣になっていた。
そのままの状態で、土霊兵の繰り出した頭突きに合わせるように待機中。
攻撃範囲内に入った途端、頭部に向かって振り下ろす。
互いの攻撃がぶつかり合う。
衝撃が観客席まで届くほどの威力のぶつかり合い。
――上から下に繰り出す頭突き。
更にその上から繰り出す炎の剣――。
どちらが有利なのか……。
それは言うまでもない。
土霊兵は地面に叩きつけられ、頭部は炎の剣によって焼き尽くす。
体に生じた亀裂によって、完全に崩壊していった。
観客の全員が、その状態を見て息を呑んだ……。
本当に凄まじい勢い。
窮地からの大逆転。
凄まじいほどの猛攻撃。
冷静な反応と対応力。
鎧男は決して倒れず。
その場に立っていた。
今にも崩れ落ちそうな足に力を入れた。
両手で剣を持ち、天高く掲げている。
そして、最後の力を振り絞り、
「うおおおおおおおおおおおお!」
観客に向かって叫んだ。
その姿を見た観客の全員が、今日一番の歓声を上げた。
先程まで静まり切っていた試験闘技場内。
そこに、また歓喜の声が蘇った。
そうなるのは当然だ。
今の戦闘を目の当たりにして、興奮しない人はいない。
感動しない人はいない。
この感情は、恐らく言葉では表現出来ない。
たまに、見た人にしかわからないって言う人が居る。
けど、まさにそれだった。
僕も今の戦闘を……。
鎧男の姿を見て、興奮が抑えられない。
そして、こう思った。
――カッコいいって。
圧倒的な力を前にしても、立ち向かって行ったその姿に。
死ぬかもしれないのに。
それなのに、諦めないで前を向いているその姿に。
――憧れる。
その時、僕は父親の姿と重なるのを感じた。
同じだ……。
父親と。
誰かの為に、何かの為に、頑張って立ち向かって行く。
――これが、冒険者か。
ん? 待てよ……。
つまり、冒険者の仕事。
こういう土霊兵と同じような化物を倒すことだよな?
ということは、この世界にはまだまだ化物が大勢いる。
なら、それは沢山の人を守る。
沢山の人を救える職業ってことになる。
それって、まるで。
――英雄じゃないか……。
……。
よし!
決めた!
この世界で目指す目標。
いや、目指す職業。
それは……。
――冒険者だ。
冒険者になって、この世界で沢山の人を救う英雄になる。
僕は頭の中で決意し、右手を握って天に向かって突き上げた。
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