第二十四話 力の差
恐らく、この光景を見ている全員がそう思ったはず……。
けど、そうはならなかった。
なぜ?
それは僕が聞きたいくらいだ。
土霊兵は野生の本能故なのだろう。
左側から迫って来る鎧男に、なぜか気づいた。
だが、土霊兵は一切目線を変えず、鎧男に気付いてないと思わせていた。
右手を握り締め、鎧男が接近するのを待っていたんだ。
鎧男が攻撃範囲内に入った……。
その瞬間、腹部に向かって殴り掛かった。
確かに、土霊兵からは視覚になっていた。
だが、それは鎧男も同じ。
鎧男からは、土霊兵の右腕が全く見えない。
巨大な図体と、先程巨大化した左腕が邪魔をしている。
尚、鎧男は完全に攻撃体制に入っていた。
そんな状態で、見えない攻撃に対応するのは……。
――不可能。
案の定、土霊兵からの攻撃を防ぐことができなかった。
その攻撃を腹部にもろに受けた。
当然、相殺などできるはずもない。
纏っている鎧の腹部は歪み、土霊兵の右拳はどんどん減り込む。
攻撃を受けた影響は次第に現れた。
それは、口から吹き出した大量の吐血。
「ぐわっ!」
と同時に、発した蛙が潰れたような声。
先程の炎の壁と同じように、鎧自体もかなりの硬度を誇っているように見受けられる。
ということは、その鎧でも受けきれないほどの攻撃だったということ。
間違いなく、鎧男へのダメージは内臓まで及んでいる。
吐血したのがその証拠だ。
鎧男は攻撃の衝撃を受け止められず、後方へ突き飛ばされた。
後方にある壁に叩きつけられ、更にダメージが蓄積する。
その壁の周辺は崩れ落ち、鎧男も一緒に地面に倒れた。
周囲には砂埃が舞っている。
その光景を見て、最初に反応を示したのは観客。
つまり、僕や母親も含まれる。
先程まで歓声を上げていた人たちの声。
その声が、徐々に動揺した声に変わっていく。
それは僕も同じだった。
先程まで、鎧男の方が優勢だった。
なのに、それを土霊兵が覆したのだから。
しかも、たった一撃で……。
恐らく、その場にいた人たち全員が思ったはずだ。
土霊兵と人間との差。
力の差というやつを。
冒険者の過酷さを。
この冒険者資格試験の厳しさを。
身に染みて感じたはず。
土霊兵は鎧男の方へ向かって歩き出した。
間違いなく、トドメを刺す気だ……。
砂煙でよく見えない。
けど、多分鎧男は……。
まだ立ち上がっていない。
いや、きっと立ち上がれないでいる。
それほどのダメージを受けている。
――やばい、このままでは……。
僕の頭の中には、最悪の状況が浮かんでいた。
あの時(二歳の時)と同じ予感。
そう……。
――死だ。
正面に見えるフィールド上の通路。
そこから、白色のローブを身に包んだ一人の男性が顔を出した。
よく見ると、右手を胸の前で構えている。
最悪の場合は、戦いを止めるつもりでいるのだろう。
土霊兵は鎧男の前まで移動して停止。
左手を握り締め、頭部くらいまで振り上げた。
その姿を見た観客の人たちは、ほとんどが目を瞑った。
最悪の状況に備え始めた。
……だが!
鎧男は、まだ諦めていなかった!
鎧男は持っていた剣で周囲を舞う砂埃を切り裂いた。
ちゃんと剣を構えて立っている。
けど、その姿は万全とは言い難い。
頭部と口から大量の血を流し、足腰がガクついている。
今にも倒れそうだった。
さっきまで目を瞑っていた人たち。
その全員が、徐々に目を開いて鎧男を見つめ始めた。
みんな、その姿を見て確信したはずだ。
彼は、まだ戦うつもりでいる。
なぜなら……。
――鎧男の目は、まだ死んではいない。




