第二十話 心配する二人
「え! 浸夜くん? なんでここに居るの? いつ目が覚めたの? 体調は大丈夫なの?」
どうやら、申取さんは今まで僕が居ることに気づいてなかったらしい。
急にあたふたしながら、母親を質問攻めにしていた。
だからさっき固まってたのか。
何事かと思ってヒヤヒヤしたわ。
「え、ええ。ついさっき目が覚めたの。それで、さっき梅花病院の花守さんに浸夜のことを診てもらったんだけど、その時に冒険者資格試験のことを教えてもらったの。それで、浸夜に見せてあげようと思ってね」
「そ、そうなんだ。璃映が試験闘技場に来るなんて珍しいと思ったら、浸夜くんの為だったのね」
「うん。ていうか、今気づいたのね……」
「う、うん。いや〜、疲れ過ぎて全然気づかなかったよ。ごめんね」
申取さんは右手を後頭部に当てながら、申し訳なさそうにしていた。
「でも、そっか……。もうこんなに大きくなったんだね、浸夜くん。良かったね、璃映。本当に……」
申取さんは右手を突き出し、僕の頭を優しく撫でてくれた。
「ええ。本当に良かったわ」
二人とも嬉しそうな笑みを浮かべていた。
だが、なぜかどことなく悲しそうな顔に見えた。
考えてみたら当たり前か。
僕は長い間覚醒しなかった。
申取さんは母親の知り合い。
きっと母親と同じように、ずっと僕のことを心配してくれていたはず。
先程あたふたしていたわけ。
それも、恐らく僕のことを案じていたからこその行動だろう。
「あ! ごめんね。時間取らせちゃって……。どうぞ、今日は楽しんで行って」
申取さんはハッとした表情を浮かべ、僕の頭から右手を離した。
スカートの右ポケットからカードケースを取り出した。
その中から切符のようなものを右手で一枚取り出して母親に手渡した。
「ううん、こっちこそごめんね。ありがとう」
母親は右手でその切符を受け取り、ズボンの右ポケットにしまった。
と同時に、そこから財布を取り出した。
その財布の中から、銅貨三枚を右手で取り出して申取さんに手渡した。
その時、少しだけ財布の中が見えた。
その中には、銅貨以外に銀貨と金貨が何杯か入っていた。
けど、札は見当たらない。
なら、恐らくこの世界の通貨は全て硬貨。
そして、ここに入るのに銅貨三枚が必要。
となれば、大体の硬貨の価値は予想可能だ。
銅貨一枚で百円。
銀貨一枚で千円。
金貨一枚で一万円。
多分こんな感じ。
つまり、ここの入場料は前世でいうと三百円。
切符が一枚ってことは、子供は無料の可能性が高い。
母親は申取さんとの話を終え、そのまま通路を歩いて行った。
僕は母親の右肩から申取さんの姿を覗いていた。
すると、申取さんはそれに気づいて、こちらに右手を振り始めた。
僕も咄嗟に右手を振り返した。
その姿を見た申取さんは、徐々に目元から涙が溢れていた……。




