第十七話 異世界
母親は靴を履いて、家の……。
いや、お店の扉を開けて、僕と共に外へ出た。
思えば、僕がこの世界に転生して初めての外出。
一体どんな世界なんだろう?
僕は心なしか胸を高鳴らせていた。
けど、考えが甘かった……。
僕は外の世界を目の当たりにし、自分の目を疑った。
瞬時に瞼を最大まで開き、目に飛び込んできた光景をただ見つめた。
なぜなら……。
そこには僕の想像を遥かに越えるほどの、圧倒的な世界が広がっていた。
さっきわかったことの中で、僕は多分日本人だって言った。
だが、あれは訂正する。
そして、断言する。
僕は……。
いや、僕や母親は日本人じゃない。
その証拠に、そこには日本人らしき人間が誰一人いなかった。
いや、正確には日本人っぽい人は何人か居る。
確かに居るんだけどね。
何かがおかしい。
なんて言えばいいんだろう。
普通の人間らしき人が誰一人見当たらないって言うべきか。
なんとも言葉にし難い……。
えっと、人間と化物が合成した存在? みたいな生き物がぞろぞろ居る。
気づけば、僕は動揺に似た表情を浮かべていた。
それほど驚いていたのと、今自分の目に映ったものが信じられなかった。
けど、そんな僕には目もくれず、母親はそのまま歩き出した。
表情からして、なんの疑問も感じてないみたい。
つまり、この光景は普通。
そして、動揺してるのは僕だけってことだな。
母親が今向かってる先は決まってる。
間違いなく母親がさっき言ってた試験闘技場だ。
母親が歩く度に感じる微かな振動。
ほのかに揺れてる母親の胸。
そんな中、まず最初に僕の目に飛び込んできたのは……。
さっきも言った多種多様な人たち。
地上には、巨人のようにガタイのいい男性。
空中には、エルフのように耳の長い女性が空中を飛んでいる。
いや、正確には浮いていると言うべきだろう。
仮にこの世界が魔法の世界であれば。
女性が箒に乗っているのを想像する。
だが、その女性は箒は愚か、手に何も持っていない。
まるで、空中を浮いて移動してるみたい。
他にも、頭に黒色の角を生やしている鬼のような男性。
手の甲に鱗のような模様が浮き出ている女性が居る。
うまく表現できないけど……。
今まで見たことがないような世界観というか……。
なんかファンタジー感が溢れる世界だと思った。
ゲームの世界に入った感じ。
いや、ほんと語彙力のなさよ。
これで伝わるかな?
……まあ、いっか。
僕以外、誰も困んないし。
それはそうと、僕は普段なら人の目すら合わせることが出来ない。
なのに、この時は目を輝かせながら、存分に外の世界を見渡すことができた。
最初は明らかに動揺してた。
けど、気づいたら徐々にワクワクする気持ちに変わっていた。
それと同時に。
僕はこの世界のことを確信した。
間違いない。
ここは前世とは異なる世界……。
――異世界だ。
ただ、全く違う世界という訳ではなさそう。
その理由は三つある。
まず一つは使用言語。
母親や塞養さんもそうだったが。
外にいる人達も日本語で話ている。
それに、部屋にあった本の名前もそうだったけど。
周辺にある建物の看板にも漢字が使用されている。
つまり、この世界の使用言語は前世と同じ日本語。
更に言えば、ひらがな・漢字。
多分カタカナも使用されているはず。
けど、今のところはカタカナが使用されているのは確認できない。
だから、断定はできないけど、可能性としてはあり得るってこと。
ということは、とりあえず読み書きは勉強しなくても良さそう。
そこに関しては安心した。
なぜなら、僕は勉強が大っ嫌い。
というか、勉強が好きな人の方が少数だと思う。
それが興味を引くことだったら話は別だけど。
例えば、僕は将来なりたい職業について調べたりするのが好き。
そのことなら、何時間でも熱中できる自信がある。
そういえば……。
前世では、父親と同じ消防車に憧れてた。
けど、この世界にもあるのかな?
今のところは、それっぽい人は見当たらない。
それに、異世界なら職業が前世と同じとは限らない。
う〜ん。
とりあえず、まだどんな職業があるのかはわからないな。
けど、いつかはこの世界で沢山の人を救えるような職業に就きたい。
僕が英雄になれるような。
そんな職業に。
だから、早いうちに色々な職業を知ろう。
そして、その職業に就けるように頑張る。
……てか、すいません。
ちょっと話が脱線しました。
話を元に戻そう。
では、改めて……。
もう一つは衣服。
異世界ってことは断定だから当然と言えば当然。
やはり衣服は少し異なるみたい。
鎧を身に付けている老人。
マントのようなものを羽織っている女性が居る。
けど、その中には前世の衣服に近いものを着ている人も居る。
思えば、母親や僕は普通の衣服を着ていた。
なら、衣服は前世に近しいもの。
でも、別に鎧やマントなどを身に付けていても珍しくない。
ということか……。
まあ、さっきも言ったが、僕は衣服に無頓着。
だから、さほど問題じゃない。
というか、逆に僕も鎧とか身に付けられるのかな?
そう考えると、更に胸が高鳴るようだった。
そして最後は、それぞれの人間性。
今までの人たちを見てわかったけど。
どうやらみんな同じ人間で間違いない。
でも、何かしらの違いが存在する。
ここが異世界であれば。
まず、考えられるのは……。
――種族が異なるとかだな。
例えば、さっき空中を浮いて移動していた女性の種族はエルフ。
そして、きっと空中に浮ける能力がある。
というのも、あれからも空中を浮いている人は何人か居る。
その全員がエルフのように耳の長い人たちのみ。
他の人たちは、全員地上を歩いている。
つまり、この世界にはファンタジーによく登場するエルフやドワーフなど……。
種族毎に違いが存在するはず。
てか、そうじゃないと今見ている人たちの説明がつかない。
ん?
ということは、僕も何かの種族なのか?
さっき鏡で自分を見た時は、特に耳も長くはなかった。
それに、頭に角も生えてなかった。
ということは、少なくともエルフでもなく、鬼?
みたいな種族でもない。
ドワーフは、今のところ発見できない。
ていうか、明らかにそれっぽくはない。
うーん。
なら……。
今のところ、発見した各種族の特徴と合致するところは見つからないな。
まだ見てないだけなのか。
それとも、特に見てわかる特徴がないのかは不明。
とりあえず、今わかっている情報だけでは断定は困難。
それは断言できる。
まあ、別に急いで知りたいわけじゃない。
ただ気になっただけに過ぎない。
それに時間は沢山ある。
なら、徐々に知っていこう。
僕はひとまず分析をやめて、後回しにすることにした。
すると、母親が歩く毎に起こってた振動がピタッと止んだ。
どうやら、目的地である試験闘技場に到着したらしい。




