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  作者: 黒死
第二章 陰から影へ(転生編:月の兎と影)
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第十二話 母親の味

 よく考えたら、この子が長い間眠っていたってことは……。

 その間は何も食べていないということになる。


 つまり、絶食状態。

 そりゃあ腹も空くわ。


 てか、よく今まで何も違和感に気づかなかったな。

 逆の意味で凄いぞ僕。


 色々と考えることが多すぎて忘れてたんだろう。

 けど、いざ意識すると胃袋が背中にくっつきそうなくらい腹が空いているのがわかる。


 僕は咄嗟に両手で腹部を押さえた。

 限界は、とうに過ぎていた……。


「あ! ごめんね浸夜。そうだよね、お腹減ってるよね。ちょっと待ってて。直ぐにご飯作ってくるから」


 そんな僕の姿を見て、母親は両手を振ってあたふたしていた。

 その後、慌てた表情を浮かべながら、急いで部屋を出て行った。


 僕はそんな母親の姿を見て、なんとなくだけど、ちょっと天然ぽくて可愛いなと思った。


 ……。


 いや、待てよ。


 よくよく考えたら……。

 いや、よく考えなくても、母親を可愛いって言う息子って気持ち悪いな。

 ただでさえ陰キャなのに、更にマザコンなんてありえない。


 うん、今のはなし!

 なかったことにしよう。


 そうなことを考えていると、直ぐに母親が部屋に戻って来た。

 両手でお盆を持ち、その上には土鍋とレンゲが乗っている。


「遅くなってごめんね。はい、お待たせ」


 母親はベットの隣にあるサイドテーブルに持って来てくれたお盆を置いた。

 右手で土鍋の蓋を開けた瞬間、内鍋からモクモクと湯気が舞い上がった。


 内鍋に目線を向けると、そこには白米が煮込んであり、梅干しが一つ乗っている。

 母親が作ってくれたのは、お粥だった。


 空腹すぎて語彙力が低下しているため、いい表現が出てこない。

 けど、とにかくとても美味しそうだ。


 それに、お粥は胃に優しいらしいから、今の僕には最も適している。


 母親は土鍋の蓋をお盆の上に置き、先程花守さんが座っていた椅子に座って右手でレンゲを持ってお粥をすくった。

 そのお粥にフウフウッと息を吹いて冷ましてから、僕の方に向かって差し出してきた。


「はい、浸夜。あーん」


 母親の行動とこの言葉から、流石の僕も察した。


 これはあれだな。

 所謂、食べさせてくれるやつだ。


 今の状況なら仕方がないのか?

 けど、まさかこの歳にもなって、母親に食べさせてもらう日が来るとは思わなかった。


 いや、別に嫌ではないよ?

 嫌ではないけど……、うん。

 なんとも言葉にし難いな。


 母親は善意でやってくれてるし、僕もそのことをちゃんと理解している。

 けどね、見た目は子供でも中身は十五歳の男だから。

 つまり、思春期真っ盛り。


 少々……。

 いや、かなり恥ずかしいんです。


 けど、残念ながらこの状態を回避する考えが一つも思いつかない。

 それに、多分この体じゃ一人で食べるのは困難。


 仕方がない。

 ここは流れに合わせることにしよう。


 僕は覚悟を決め、両目を瞑って大きく口を開けた。


 母親は僕が口を開けたのと同時に、お粥を口に入れてくれた。

 その冷ましてくれたお粥を、まだ生えきってない乳歯で噛み締めた。


 味は薄味で、お米のもつ本来の旨みが凝縮されていた。

 とても優しい味がした。


 更に、梅干しの程よい酸っぱさがいいアクセントになっている。


 そうか。

 多分これが母親の味っていうやつなんだろうな。

 僕はそう思いながら、その後も母親にお粥を食べさせてもらい、全て完食。


 そして最後に、全て食べ終えた感想……。


 ――大変美味でした!


 以上。

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