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  作者: 黒死
第二章 陰から影へ(転生編:月の兎と影)
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第十話 母親の恐ろしさ

「あらあら。あなた? ちょっとこっちに来てくれるかしら?」


 母親は右に首を傾けながら、父親に問いかけた。

 しかも、額に怒筋が浮き出ている。


「へ? いや、違うんだ、母さん。別にそこだけで……」


「こっち。来てくれるかしら? 今からあなたが言ってた、嬉しくてたまらないことしてあげるから……。 ねえ、あ、な、た」


 父親は必死に言い訳をしようとするも、母親によって強制的に阻止され、なす術を完全に失った。

 所謂、万事急須というやつだ。


「はい……」


 父親はあっさりと諦め、震えながら椅子から立ち上がり、リビングから出て二階に上がって行った。

 その父親の後に続いて、母親もリビングから出ようとドアノブに手を掛けた。


 だが……。


「あ、そうだ。陽〜」


 なぜか僕の方に振り向きながら呼びかけてくる。


「は、はい。なんでしょうか」


 僕は母親が纏っている禍々しいオーラに圧倒されて、恐怖で体が震えていた。


「さっき父さんが言ってたことは全部忘れていいからね? 好きな女の子ができたなら、その子の中身を見てあげなさい。それと、好きな子に告白する時に、『胸が大きいから』っていう理由で好きだ、なんて言ったら駄目よ? それは、もし他の女の子にいいところを聞かれた時も同様にね。いい?」


「はい。もちろんです」


「あ、あと。母さんそんなにおっかない怒り方してるかしら? ねえ、陽?」


「いえ。いつも素敵な笑顔です」


 僕はこの時、思ってもいないことを口にした。

 正直に答えていれば、恐らく命がないと直感したから。


 てか、なんで僕がそのことを言ったことを知ってるんだろう。


 まさか……。


 ずっと父親と僕がしていた会話を聞いてたのか?


 そう思うと、恐怖が全身を駆け回り、背筋が凍るようだった。


「あら、ありがとう。じゃあ、ちょっと一人で遊んでてね。母さんは父さんと大切なことをしないといけないから。だから、二階には上がっちゃ駄目よ? わかった?」


「はい。わかりました。お気をつけて」


 そして数時間後――。


 リビングの扉が開いて、両親が戻って来た。


 父親は魂が抜けたように、全身が真っ白で今にも死にそうな姿。

 恐らくこっぴどく怒られたんだということが、その姿を見ただけで伝わってくる。


 けど、なぜか母親は先程の怒りは消え、いつも通りの元気で優しい姿に戻っていた。

 しかも、気のせいか肌がツルツルになってる気がする。


 一体二人で何をしていたのか……。

 それは今も尚、謎のままだ。


 そういう訳で、父親がなぜ母親と結婚したのか。

 また、なぜ母親を好きになったのか。

 そのことを五歳という若さで知ったのである。


 そして、母親が地獄耳だってことも。

 ある意味すごい人だってこともよくわかった。


 あと、父親は立派な人だけど、何をやっても母親には敵わない。

 そのことも身に染みてわかった。


 僕はそれからというもの、父親が言った、


『胸がデカい女性に、悪い人は居ない』


 という言葉が本当なのか気になってしまい、無意識に女性の胸ばかりに目線を向けてしまった。

 当然、女の子からは白い目で見られるようになりました……。


 今思えば、外見は父親と瓜二つだけど、中身も父親に似たってことなのかな?

 残念ながら、悪いところだけしか似てないみたいだけど……。

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