第四話 新たな人生の始まり
なんか漫画とかでありがちな展開だ。
けど、そうとしか思えない。
というのも、生物に備わっている感覚機能である五感。
その内の二つ、触覚と視覚がそれを証明している。
まずは触覚。
この女性は明らかに僕よりも大きい。
因みに、僕の身長は百六十九センチ。
なのに、僕の体全体を包み込むほどの大きさ。
仮にこの女性の身長が二百センチだったとしても、横幅まで大きくはならないはず。
それに、さっきこの部屋に入った時に見た感じだと、恐らく身長は百五十センチ程度。
なら、尚更僕を包み込むことは不可能。
そして最後に、そのことを決定づける触覚。
それは……。
――胸のデカさだ!
さっきから、僕の腹部に当たるこの女性の立派な胸。
それが、多分だけど。
普通なら僕の胸部に当たるはず。
けど、なぜか僕の腹部に当たってる。
これはつまり、僕が小さくなったからっていう証拠。
だから、普通なら当たるところに当たらないんじゃないかな?
と考えました。
あ。
あとさっきの右手のひらの感触ね。
それと視覚。
さっき、この女性に抱きしめられて、上体が起きた時に感じた違和感。
その時から薄々感じてたんだけど……。
なんか、目線がいつもよりも下なんだよね。
しかも、何もかもが大きく感じる。
まるで、自分が子供になったみたいな感覚だ。
……。
うん、確実に体が縮んでる。
多分子供くらいになってると思う。
よし。
じゃあもう一度分かったことを整理しよう。
まず、僕の体は縮んでいる。
そして、この女性は浸夜という人を抱きしめている。
うん……、ん?
ということは……。
……え?
もしかして、僕はその浸夜っていう人。
いや、正確にはその子供に転生したってことか?
というか、今の状況から見てそうとしか考えられない。
となると……。
この女性は恐らく僕が転生したであろう、その浸夜っていう子供の母親だ。
仮に母親でなくても身内の可能性が高い。
その理由は、さっき言った涙。
もしも赤の他人なら、こんなにも心の底から泣くとは考え難い。
けど、万が一間違ってたら失礼だから、母親(仮)と呼ぼう。
すると、母親(仮)は一頻り泣いた後、ゆっくりと僕から離れた。
そして、両袖で目元を擦って涙を拭いた。
その後、母親(仮)は両手で僕の両肩を優しく掴み、
「ごめんね、いきなりのことでびっくりしたよね。とりあえず、目を覚まして良かったわ……」
と微かに涙声を残しつつ言葉を発した。
更に目元を赤くし、嬉しそうに笑みを浮かべている。
いや、まあ正直本当にびっくりした。
うん、本当に色々とね。
もちろん抱きつかれたのはびっくりした。
けど、一番びっくりしたのは、僕が転生してたってこと。
生きていた……。
と思いきや、まさか転生していたとはね。
道理で体になんの怪我も残っていない訳だ。
もしあのままトラックに轢かれていたら、全身包帯でグルグル巻きの状態のはず。
でも、僕が転生したこの浸夜という子供。
多分この子にも余程のことがあったんだろう。
その理由は、さっき母親(仮)が言った、
『目を覚まして良かったわ』
という言葉。
つまり、この子は長い間覚醒しなかったということになる。
そういうことなら、あの涙の理由にも納得がいく。
更に言えば、きっとそれはかなり重大なこと。
母親(仮)は今も尚、瞼がピクピクと動いて涙が溢れそうだった。
その姿を見るだけで、どれだけ心配していたのかが窺える。
でも、だからこそ今は元気な姿を見せてあげよう。
もしも、この浸夜っていう子供なら、多分そうしてあげるはずだ。
お母さん大丈夫だよって。
元気になったよって。
そう言って、安心してあげると思う。
だから、僕も良かったって、そう思うよ。
僕は今の気持ちを伝えようと口を開いて言葉を発した。
喜びを瞼に浮かべて嬉しそうに。
「ヨ、カッ、タ」
あ、駄目だ。
全然声が出せない。
子供といっても、恐らく幼児なのだろう。
言葉を発しようとしても、うまく発音することができなかった。
そんな中、なんとか言葉にできたのがその四文字だけ。
けど、そのたった四文字の言葉に今の気持ちを全て載せた。
恐らく僕の気持ちが伝わったのだろう。
母親(仮)は嬉しそうにニッコリと笑った。
続いて、母親(仮)は僕の額に右手のひらを当てた。
更に左手のひらを自分の額に当て両目を瞑った。
そのひんやりとした手のひらの冷たさが、額に広がるのを感じる。
まるで、灼熱の大地を徐々に氷結させていくような感覚。
「うん。熱はないみたいね。けど、念の為お医者さんに診てもらいましょう。少し横になってて。今お医者さんに連絡してくるからね」
そう言って母親(仮)は立ち上がり、そのまま部屋から出て行った。
僕はまた一人になり、静かになった部屋。
まず、吐息を一つ。
どうやら、僕は少しばかり緊張していたっぽい。
なぜか全身に力が入っており、気づいたら限界ギリギリの状態。
僕は全ての力が抜けたようにベットを背に体を倒した。
その状態で現在起きたことを思い返す。
それにしても、転生か……。
まさか、アニメやラノベみたいな状況をこの身で体感することになるとはね。
結論から言うと、第二の人生があるのは嬉しい。
けど……。
この浸夜という子供には申し訳ないな。
最終的に、僕のせいで彼の人生を奪う形になってしまったのだから。
それに、前世の僕が死んでるってことは。
恐らく、あの女性も……。
そう思うと、なんとも言えない罪悪感が襲ってくる。
けど、今は悲観的になるのはよくない。
とりあえず、今は絶望を置いておこう。
これからは希望を抱いて行く。
僕だけの人生なら、今頃悲観的になって絶望してたと思う。
でも、これは僕だけの人生じゃない。
この浸夜っていう子供の人生でもある。
だから、僕が転生した彼の分まできちんと生きよう。
一つの悔いがないように。
そして、始めよう。
この世界で……。
――新たな人生の始まりを!
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