第二話 絶望と希望
ピー・ピー・ピ・ピー・ピ、ピ・ピー・ピ・ピー……。
陽暦二一一一年六月九日。
時間は、六時ちょうど……。
耳障りな機械音が枕元で鳴り響き、僕の聴覚を刺激した。
そして、この絶望とも呼べる機械音と共に。
今日という一日が始まった。
かといって、完全に覚醒したわけではない。
半分寝ていて半分覚醒しているような感じ。
つまり、半覚醒状態ってやつ。
なんか、変な夢を見ていた気がする。
美女とか、浸夜? とか。
あ? 誰だそれ……。
けど、よく覚えていないし。
いいや。
今の僕にとって、どんな夢を見たのか。
そんなことはなんてどうでもいい。
所詮、夢は夢。
夢の出来事は夢の中で終わりにしよう。
今はそんなことを考えている暇じゃないし。
なぜなら、とてつもなく眠いから。
できればこのまま安眠を続けていたい。
けど、そういう訳にはいかないのが辛いところだ。
わかってる、わかってる。
頭では理解してるよ?
起きないといけないってさ。
でも、全身の細胞がそれを拒否する。
なら、仕方ないだろ?
だが、それ以上にこの耳障りな機械音が不愉快でならない。
とりあえず止めるか……。
僕は仕方なく開くことを拒否する瞼に力を入れた。
辛うじて瞼を開けることに成功。
朦朧とした意識の中。
機械音がする方向に左手を伸ばし、四角形のそれを掴んだ。
それの真上にあるボタンを押した。
機械音を止めることに成功。
そう。
それが安眠の邪魔をする犯人……。
――目覚まし時計だ。
因みにデジタル式。
ほんと嫌になる。
覚醒する為とはいえ、毎日最悪な目覚め方だ。
早朝からあの機械音が鼓膜を通して。
頭の中に響き渡る感覚は不愉快でしかない。
あ、でも。
説明させて下さい。
決して目覚まし時計が悪いってわけではないですよ?
いや、本当に。
目覚まし時計が存在するからこそ。
毎朝遅刻することなく学校に行くことができている訳ですから。
目覚まし時計を開発して下さった方々に感謝を言いたい。
本当にありがとうございます。
そして、目覚まし時計……。
――いや、目覚まし時計様!
いつもお世話になってます。
これからもよろしくお願いします。
そんなことを思いながら。
僕は静かになった部屋で、また眠りに落ちようとしていた。
皆さんもご存知であろう。
二度寝だ。
実を言えば、六時十分までに起きたら余裕で学校に間に合う。
つまり、あと十分ほど時間に余裕がある。
なので、その数分だけでも。
この幸せな時間を堪能したい。
まあ、このままだと確実に爆睡する。
結果、遅刻すると思います。
でもご安心ください。
ちゃんとセット(目覚まし時計のアラーム二個目)してますよ。
六時九分に。
なんでそんなきりの悪い時間にセットしたの?
と、疑問に思った人の為に説明しよう。
自慢ではないが。
僕は寝起きがとても悪い。
先ほどのように。
一度覚醒しても意識が朦朧としている。
時には目覚まし時計を止めたことすら。
全く記憶に残ってないことがある。
挙げ句の果てに。
そのまま寝過ごしてしまい。
学校に遅刻した回数は見当もつかない。
だが、長年の経験という遅刻を積み重ね。
僕はある必勝法を思いついた。
それがこの……。
――『六九アラーム朝シャッキーン法』。
まず最初に。
六時にセットしたアラームにより、半覚醒状態になる。
その後、また眠りに落ちるのはいつものこと。
なので、次は六時九分にアラームをセット。
その機械音が鳴ったと同時に、一気に上体を起こす。
更に、自分の頬を思いっ切り叩く。
そうすることで強制的に覚醒させる。
例え覚醒する為とはいえ。
他者から頬を叩かれるのは嫌だ。絶対に。
けど、自分で叩くのは我慢できる。
いや、我慢せざるを得ない。
残りの一分間。
それは、学校に行くか行かないかを決める為の時間。
まあ、九割の確率で行くことになる。
けど、一応念の為に設けている。
所謂、最後の悪あがき。
いや……。
――一つの希望だ。