第二話 夢の可能性
「浸夜! 良かった、目が覚めたのね!」
女性は泣きながら、僕に抱き起こした。
その反動で僕は上体を起こして顔を右側に傾けた。
ちょうど僕の顎がその女性の左肩に乗るくらいまで密着してる。
「良かった……。本当に、良かった……」
女性はその言葉と共に、更に僕を包み隠すほどギュッと抱きしめた。
けど、全然苦しくない。
なんというか、凄い優しくて、とても温かい……。
母の温もりを感じているような感じ。
まあ、その時の僕はというと……。
その女性の突然すぎる行動に意味がわからず放心状態でした。
そんな中、一つだけに意識が集中していた。
それは、さっきから僕の腹部付近に押し付けられている何か。
なんだろう、これ?
これは……。
まず、二つある。
とても柔らかい弾力。
しかも、めっちゃ大きいぞ。
……あ。
なるほど、わかりました。
これは、女性の胸ですね。
更にはっきり言うと、巨乳です。
……。
なんか、すいません。
話を戻しましょう。
自慢じゃないけど、僕は今までの人生の中で一度も女性に抱きつかれた経験がない。
だから、こういう時にどうしたらいいのか全くわからなかった……。
あ、違うわ。
一人だけいました。
それは、僕を産んでくれた人。
そう。
母親です。
まあ、それはいいとして……。
この状況は、どうしたらいいんだ?
え。
もしかして、このまま流れで抱きしめてもいいのかな?
……。
いや、やめておこう。
陰キャにはハードルが高すぎるわ。
とりあえず落ち着こう。
てか、ん、浸夜? 誰?
この美女の知り合いの人、かな?
でも、明らかに僕に向かって話しかけている。
だって、抱きしめられてるし。
けど、残念ながら僕は浸夜っていう名前じゃない。
それに、この美女も僕は全く身に覚えがない。
あー、でも。
なんとなくだけど、母親に似てる。
こんなに若くないし、母親に姉妹はいないけど。
一緒なのは、髪と瞳の色。
それと、声? かな。
まあ、僕が両親としか話さないから、そう感じるだけだと思う。
つまり、きっと母親に似てるだけだな。
所詮、他人の空似。
――いや、そういえば前にも同じようなことがあった気がする。
いつだっけな?
うーん、ちょっと待ってね。
……。
そうだ。
確か、夢の出来事。
あの夢の中でも、全く身に覚えのない美女が登場。
突然話しかけられて、浸夜って呼ばれたな。
ということは、……え。
まさか、これも夢?
おいおい、嘘だろ。
生きてたと思ったら、まさかの夢って……。
そんなの洒落にならない。
いや、でもまだ確定じゃないよな?
もしかしたら、あの夢が正夢だったって可能性もある。
なら、何か確認する方法が……、あ。
そうだ、あの方法。
確か夢だった場合、頬を抓ったら痛くないはず。
実際に試したことは一度もないけど。
これが本当か嘘か、正直わからない。
でも、今はこれしかない。
よし!
一か八かやってみよう!
その勢いとは裏腹に、焦りで心臓の鼓動が速くなり、額から冷や汗が止まらない。
気づけば、息も荒くなっていた。
そんな状態の中、僕は震える右手人差し指と親指で、なんとか自分の頬を掴んだ。
そして、思いっきり引っ張った!
どのくらいかというと、まるで餅を伸ばすかのように。
力一杯引っ張った。
その結果!
――めっちゃ痛かった……。




