表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 黒死
第一章 陰から影へ(前世編:白龍)
16/88

第十六話 十五歳の試練

 僕は無我夢中で走った。

 自分でも驚くほど、必死に。

 なぜか走れた。


 例え足が捥げても、それでも走れ。

 そう自分に言い聞かせた。


 僕がどうなろうと、絶対にあの女性を助けたい。

 本気でそう思った。


 なんで?

 そんなの決まってる。


 後悔したくないからだ。

 もう二度と。


 あの時(十二歳の時)のことを、二度と繰り返したくないから。

 だから助けたい。


 今助けなかったら、絶対に僕は後悔する。

 きっと、もう二度と前を向けない。


 例え向けたとしても、そこにはもう何も残っていない気がする。


 だから僕は走る。

 僕がどうなろうとも、必ずあの女性を助ける。


 その時、トラックと女性との距離が残り数センチまで迫っていた。

 けど、僕もあと三歩程度で追いつける距離まで来ていた。


 あと、少し!


 僕は女性を前に押し出そうと、左手を前に突き出した。


 そして、女性の背中に触れた!


 その瞬間……。


 ――目の前が真っ黒な影に包まれた……。



 え、なんだ。

 何が起こった。


 何も見えない。

 真っ暗だ。


 さっきまで、眩いほどの陽光が射していた。

 なのに、その陽光さえも全くない。


 誰かに助けを呼ぼうと、久々に大声を出した。

 つもりだったが、なぜか声が出ない。


 もしかして……。

 日頃から親としか会話しないから、声帯が老朽化したのか?


 ……いや、そんなことあるかい。


 ていうか、声帯って老朽化するの?


 いやいや、落ち着け。

 こんな時になに意味分からないこと考えてるんだろ。


 それに、そんなわけないし。

 とにかく、全く声が出ないのは明らかにおかしい。


 しかも、気のせいかな?


 なぜか全身の力が抜けていく感じがする。

 いったい何が起こっているのか訳がわからない。


 まさか死んでいるわけでもあるまいし。


 ……。


 え、もしかして……。


 ――僕はもう、死んでいるのか?


 僕の脳裏に最悪が過った。

 それは、死の予感だ。


 正確には、死ぬ一歩手前ってところかな。多分。

 それを裏付けるのには十分すぎる。


 昔、なにかの本で見たことがある。


 確か……、そうだ。

 人間が死ぬ時に起きる症状についての本。


 そこには、死ぬ前には言葉が話せなくなる。

 更に、徐々に目が見えなくなっていく。

 確かそう書かれていた。


 うん。

 今僕に起きている症状に全て当てはまる。


 なるほど……。


 そうか。

 これが死ぬっていう感覚。


 もうどうでもいいと諦めていた人生だった。

 けど、いざ終わると思ったらなんだか悲しいな。


 あ、やばい。

 とうとう意識が朦朧としてきた。


 僕は最後に二人の人物について考えた。


 まず一人目は、あの女性のこと。


 僕はあの女性を助けることができたのか。

 今はそれが気がかりでならない。


 顔も名前もわからない。

 けど、もし助けることができなかったとしたら、悔やんでも悔やみきれない。


 それが一つの心残り。


 それに、僕が唯一度……。


 いや、違うか。


 確か五歳の時にも同じようなことがあったな。

 あの時はちゃんと助けて、救うことができた。


 なら、今回は二度目か。

 最後に僕の勇気を出した行動。


 もしそれで、あの女性を助けることも……。

 救うこともできなかったとしたら……。


 きっと僕には、ずっと絶望が残り続ける。

 恐らく全身が絶望に浸るくらいまで。


 まあ、確実に僕はこのまま死んでしまう。


 それでも最後に憧れの存在に一歩近づいた気がする。

 この感覚だけは一生忘れない。


 例え、命尽きようとも。

 絶対に。


 そして二人目は、僕の父親だ。


 僕は脳内で父親の姿を想像し、そして語りかけた。


 なあ、父さん。

 あの時(二歳の時)、父さんが言ってたことがようやくわかった気がする。

 なんとなくだけど。


 あの時、僕に伝えたかったこと。


 それは……。

 たとえ失敗しても前を向いて、勇気を出して前に進もうとした行為。

 例えば、なにかを成そうと、誰かを助けようとしたした行為は必ず次に繋がる。


 自分にとっても。

 その誰かにとっても。


 そういうことでしょ?


 もっと早くに理解できていれば、僕の人生も変わっていたのかもしれないな。


 ……。


 いや、そんなはずはない。

 絶対に変わらないに決まってる。


 こんなのただの言い訳だ。


 例え理解できていたとしても、人間の本質はそう簡単には変えられない。

 僕はそのことを痛いほど分かっている。


 てか、どう考えても二歳児には難しすぎるでしょ。

 理解するのに約十三年かかったよ。


 それでも理解できた僕って凄くない?

 まあ自分でいうのもなんだけど、僕はそんなに頭がいい訳ではない。


 となると……。


 理解できたのは、やっぱり親子だからかな。

 そう考えると、血の繋がりって凄いね、本当に。


 終わるのが分かっていても、つい考えてしまう。

 こんな僕でも、努力したら父さんのような人間になれたのかなって。


 僕も父さんのようなかっこいい人間。


 えっとー、なんて言うんだっけ?


 ……。


 そうだ、英雄。

 英雄みたいな。


 そんな人間になりたかったな。


 これがもう一つの心残りであり、最初で最後の僕の憧れだ。


 淡い期待かもしれない。

 けど、もし次の人生があるとしたら、その時は必ずなるよ。


 その世界でみんなが認める。

 沢山の人を救う。


 最強の英雄に……。


 ――それを最後に、僕は完全に意識を失った……。

【面白い】・【続きが読みたい】と思って頂けたら、是非ブックマーク登録と評価をよろしくお願いします。

評価は、下に☆☆☆☆☆の星マークを五つまで選択できるので、率直な評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ